オーストリアのリンツで開催される芸術・先端技術・文化の世界的イベント「アルス・エレクトロニカ(Ars Electronica)」。6月15日に、メディアアートに革新をもたらした人物や作品・プロジェクトを表彰する「アルス・エレクトロニカ賞2020(Prix Ars Electronica 2020)」が発表となった。
本年度は90カ国から3209作品の応募があり、グランプリとなるゴールデン・ニカに下記の作品が選出された。
※ゴールデン・ニカ受賞作品
Computer Animation部門
「Infinitely Yours」(Miwa Matreyek/USA) photocredit: Keida Mascaro
Interactive Art +部門
「SOMEONE」(Lauren Lee McCarthy/USA)
Digital Communities部門
「Be Water by Hong Kongers – Dedicated to the Hong Kong protesters by Eric Siu & Joel Kwong 」 photocredit: Collected online、Designed by Eric Siu
Visionary Pioneer of Feminist Media Art部門
「VALIE EXPORT」 photocredit: Herta Hurnaus
u19 – create your world部門
「Samen」(Lisa Rass、Franziska Gallé、Jona Lingitz、Anna Fachbach、HTBLVA-Graz Ortweinschule) photocredit: Lisa Rass
また、Computer Animation部門では、アーティストの真鍋大度氏(Rhizomatiks)と映像ディレクターの清水憲一郎氏(Pele)がディレクションを手がけた、イギリスのアーティスト、スクエアプッシャー(Squarepusher)のミュージックビデオ「Terminal Slam」が、佳作となる栄誉賞(Honorary Mention)を受賞した。
スクエアプッシャーのMV「Terminal Slam」は今年1月に公開されたDiminished Reality,Mixed Realityを用いている。映像の舞台は、東京・渋谷。ある女性がAR/MRグラスをかけると、街中にあるサイネージ、屋外広告、トラック広告など、あらゆる広告が音に反応して動き出す。渋谷の街中に存在する広告をすべて消去、もしくはスクエアプッシャー由来の広告に入れ替えたのだ。
本作はスクエアプッシャーとの対話から、本作の発想の原点を見出した真鍋氏がアイデアからコンセプト、さらに機械学習技術やCGエフェクト技術の使用方法などを設計。その後、清水氏が撮影・編集などのディレクションを担当し、Rhizomatiks エンジニア 浅井裕太氏が街中のオブジェクトを機械学習技術によって認識する実装を行った。
アルス・エレクトロニカでは、本作について「このミュージックビデオは、実写映像とコンピューターで作られた画像やアニメーションが、視覚的にも音楽的にも息をのむほど美しく組み合わされている。さらに、現代社会が日々直面している、プライバシーの喪失や、データマイニングや広範囲にわたるマーケティング、監視社会など、現代社会が日々直面している問題にも触れている。AIによって歩行者たちのグリッチが始まるとともに、広告スペースをハッキングしていくように映像が変化する。音楽がクライマックスに近づくにつれて、広告看板やスクリーンから激しく脈動するCGも効果的に使われており、この作品は広告的エンターテインメント性、技術的な進歩や芸術的な探求、社会的認識を高める重要な文化的観点を含め、バランスがとれたよい例と言えるだろう」と評価した。
真鍋氏は、「アルス・エレクトロニカ賞 2011」で石橋素との共作「particles」がAward of Distinction(準グランプリ)を、「アルス・エレクトロニカ賞 2013」で「Perfume Global Site Project」がHonorary Mention(栄誉賞)を、「アルス・エレクトロニカ賞 2014」で「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」がHonorary Mention(栄誉賞)を受賞。
さらに「アルス・エレクトロニカ賞 2016」でノサッジ・シング(Nosaj Thing)のMV「Cold Stares ft. Chance The Rapper + The O’My’s」がAward of Distinction(準グランプリ)を受賞して以来5度目の受賞、清水氏にとっては初めての受賞となる。
※「ブレーン」2020年5月号特集「話題のクリエイティブ そのアイデアとロジックを公開」でこちらの制作について、真鍋大度さんに取材をしています。