オンラインで「つながる」。コロナ影響で変化したユーザーと企業のコミュニケーション

新型コロナウイルスの感染拡大により、ユーザーの消費動向や生活様式、メディア接触行動に新たな変化が起きている。こうした状況下で、企業はユーザーとどのようにコミュニケーションをとっていくべきか。BLAST Inc. CEO/SNSコンサルタントである石井リナさんと、LINE株式会社 広告事業本部の余頃沙貴さんの対話を通して考える。

右)LINE株式会社 広告事業本部 Account Planning1チーム、2チーム マネージャー 余頃沙貴氏
左)BLAST Inc. CEO/SNSコンサルタント 石井リナ氏

オンラインでつながりを求める ミレニアル世代のコミュニケーション事情

——新型コロナウイルスの感染拡大はメディアへの接触行動にも影響を与えています。中でも若年層のSNSによるコミュニケーションには、どのような変化が生まれていますか。

石井:新型コロナウイルス関連の情報を得るため、SNSを情報収集のツールとして活用するミレニアル世代、Z世代(※1)が増えていると感じています。

余頃:LINEにおけるユーザーの利用動向を見ても、LINE NEWSのPVが急増し、2020年3月の月間PV数は過去最高の140億を超えました。東京都から外出自粛要請があった3月25日には、LINE NEWS内で「新型肺炎」「コロナ」を含むキーワードの検索数が急増。10代は前日比5倍、20代においては前日比4倍と検索数が増えています(※2)。新型コロナウイルスへの関心の高さや最新の情報を得たいというミレニアル世代のニーズが伺えます。

 
石井:情報収集だけでなく、友人や家族になかなか会えない状況下においてはオンラインでのつながりを求める人が増えているように思います。ユーザー同士のコミュニケーションの観点から、ミレニアル世代のLINEの利用動向に変化はありましたか?

余頃:ユーザー全体で増加傾向にありましたが、特に臨時休校の措置がとられてからは、前月比で10代のLINEスタンプ利用が65%増、LINEビデオ通話利用が80%増という結果が出ました(※2)。石井さんのおっしゃるように、ユーザー間のつながりが求められているのでしょうね。

3月のスタンプ送信数は前月と比較して全体で21%増加したのに対し、10代では65%増加。ビデオ通話送信数は全体で34%増加したのに対して、10代では80%増加した

余頃:石井さんご自身は、新型コロナウイルスによる自粛期間の前後でミレニアル世代の価値観が変わったと感じることはありますか?

石井:米国の市場調査会社が16歳以上を対象に行ったブランドへの意識調査(※3)では、商品購買時、94%の人がブランドを選ぶ際に「共感が重要である」と回答しました。さらに「パンデミック時にブランドや企業がとる行動が将来のブランドとの関わり方に影響を与える」と考える人が約7割という回答結果も出ています。

私自身も新型コロナウイルスの感染拡大前に比べ、より社会との距離が近いブランドや企業に対して好感を持つようになったので、この調査結果に納得しています。そして、この状況下でブランドや企業がユーザーとどのようにコミュニケーションをとるのか、興味を抱いています。

余頃:国内でも同様の調査結果が出ています(※4)。SNS上での企業のプロモーション活動に対して、不快に思うユーザーよりも好意的に捉えるユーザーが多かったそうです。こういう時期だからこそ、企業がユーザーとどのように向き合っているのか、どう振る舞うのかに注目が集まっています。

SNSがクローズドな場に?コアなファンとのコミュニケーション

余頃:Instagramでは最近、鍵をかけたアカウントを開設し、承認したユーザーのみがコンテンツを閲覧できるように運用しているブランドがあるようです。SNSを今までのように広く拡散させるためではなく、ブランドの既存ファンとのコミュニケーションを目的に使うのは、新型コロナウイルスの感染拡大下で加速したトレンドだと考えています。

石井:あるラグジュアリースポーツウエアブランドで、クローズドな場での販売例があったり、クローズドなアカウントで展示会を行っていたりするブランドの事例もありますね。中には、化粧品ブランドの美容部員が30分無料のバーチャルケアを完全予約制で実施したところ、オンラインでの売上が20%増加した例もあります。

 
余頃:新規顧客を獲得する動きよりも、既存ファンに対する施策が増えている印象ですね。当社の提供する法人向けサービス「LINE公式アカウント」でも、ラグジュアリーブランドが緊急事態宣言解除後の店舗再開に向けて、LINE公式アカウント上で事前予約サービスを導入していた事例がありました。このように企業とユーザーの距離が近く、クローズドな場での双方向コミュニケーションは、LINEが得意とするところです。

企業のLINE活用は宣伝目的からユーザーとのコミュニケーション手段へと変化

——企業のLINE公式アカウントの活用法に変化はありましたか。

余頃:新型コロナウイルス感染拡大下において特に顕著に見られたのは、企業の情報発信ではなく、ユーザーからの情報収集を目的に「LINE公式アカウントを使いたい」と望む企業が増えていることです。たとえば、食品のデリバリーを行う企業では、LINE公式アカウントの友だちに対して「デリバリーの受け取り方法」についてアンケートを取っていました。 他にも、ゴールデンウイーク期間中の過ごし方や店舗の取り組みについての意見を集め、サービスの改善に生かしています。

現在、ユーザーのニーズや情勢は目まぐるしく変化し、企業もユーザーとの適切なコミュニケーション方法を常に模索しています。ユーザーからの声を引き出す目的でのコミュニケーションは、これまでにない使い方だと思います。

 

企業も人格が問われる?アフターコロナ時代に企業が求められる姿勢とは

——アフターコロナを見据え始めたいま、企業やブランドはユーザーに対してどのようなコミュニケーションをとっていくのがよいと思いますか。

石井:ある飲料ブランドが、新型コロナウイルスの影響により失業したバーテンダーの雇用を創出する企画をSNSのライブ配信で行い、多くの人の共感を集めました。この経験を踏まえ、企業はより深くユーザーに寄り添いながらコミュニケーションをとっていく姿勢が求められると感じています。

余頃:新型コロナウイルスの脅威が過ぎ去っても、企業があらゆる事態に備えて柔軟に対応しなくてはいけない状況は続いていくのではないでしょうか。世の潮流やユーザーニーズに合わせてマーケティング施策を行うことがより重要になりそうです。コミュニケーションは柔軟にしつつも、コンテンツやブランドの核となる価値は常に芯が通った確固たるものにしていくことが、これからの企業が目指す姿になるのではと思います。

 
石井:グローバルでは以前からのトレンドですが、メンタルヘルスケアやウエルネス系といった、センシティブな発信を各ブランド企業が強めており、よりユーザーのライフスタイルに踏み込んだコンテンツを増やしています。日本の企業でもこれらのテーマに対してどのようにサポートできるのかが問われてくる気がします。

余頃:企業が社会的なメッセージを発信することは、とても勇気のいることだと思います。しかし、自分たちが何を考え、どのように振る舞い、どのように発信していくのか、すでに行動を起こしている企業も出てきています。今後は企業にも“人格”のような独自のキャラクター性が求められていきそうですね。

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