もし、あなたが煎餅屋の店主だったら? 凡人ブランドがブランドプロミスをつくる方法

日本にもスターブランドは存在する!?

ところで、この煎餅屋のような、愚直な「約束」を、どこかで聞いたことがあると思った人もいるのではないでしょうか?

それは、創業〇〇年歴史ある「老舗(しにせ)」といわれる存在です。

前回の連載で私は「日本にはスーパースターブランドがない」と断言しました。でも「スターブランド」であれば、日本に存在します。

万人に愛されるスーパースターブランドではなく、限定された人、地元で愛される等のスターブランドです。

 
「広辞苑」では、老舗とは「先祖代々の業を守りつぐこと。そして先祖代々から続いて繁盛している店。また、それによって得た顧客の信用・愛顧」と書かれています。

老舗の店主は、ブランドアイデンティとかブランドプロミスなど考えたこともない。でも無意識のうちに、先祖代々の自分たちの存在価値と約束を愚直に守り続けています。その結果、自然(勝手)に顧客の頭の中に「信用と愛顧」という妄想(ブランド)ができあがっているのです。

凡人ブランドの「約束」は、ひねり出さないとつくれない

さて、話を凡人ブランドに戻しましょう。

ここまで、約束のつくり方について説明してきましたが、煎餅屋を例に解説した方法だけでなく、そのつくり方には2つの方法があります。

1つはスターブランドの例にあるように「存在価値」に意味があると信じ切って言い張ることで、「存在価値」を意味のあるものに変換する方法。山形県の醤油煎餅が本当に日本一美味しいかは誰にもわからないけど、そう思っているのだから約束する。

凡人の「存在価値」ですから「約束」を意味のあるものにするためには、当然時間が必要です。言い張り続ける、こだわり続けなければなりません(このように「存在価値」と密接にかかわる「約束」は強いです。長く言い張りつづけた凡人ブランドの中から、スターブランドが生まれる理由は言い続けることで「存在価値」=「約束」と思う人が増えていくからです)。

2つめの方法とは「存在価値」と「今は、何となくやっている事実」を組み合わせて、生活者が意味のあると思ってくれる約束を、ひねり出し、新たにつくり上げること。

凡人である多くの企業・商品においては、難易度の高い、こちらの方法が必要になります。

つまり、あなたはなんとなく醤油煎餅にはこだわっている〔凡人の存在価値〕。

ただ醤油も特別なものを使っているわけではないし、お米もこだわっているわけでもない。

自分が美味しいと思うものをつくっている。値段もリーズナブル。そんなに大量に売れないから、機械化せずに手作業・手焼きで作っている。〔今何となくやっている事実〕
世の中には、そんな商品の方が多いです。

これだと、どんな損があるのか、はたまたどんな良いことがあるのかという質問に対して、まったく答えが思い浮かびません。

こんな凡人の中の凡人のような煎餅が、何を約束できるのでしょうか。

約束を何とかひねり出さないとつくれませんよね。

存在価値「醤油煎餅へのこだわり」と、いま何となくやっている事実の中から、例えば「手作業・手焼き」の部分を結びつけて「約束」を強引にひねり出し、新たにつくり上げるというのはどうでしょう。

手作業ですから、工場でつくる煎餅と違って、醤油の塗り方や焼きむらがあります。一般的な価値観である一定の品質が担保されているという点では、本来マイナスに見える要素を、意味のあることに変換するのです。

変換すると以下のようになります。

私(煎餅屋の店主)は、醤油煎餅の味について世の中が気づいていないことがあると思っている。実は、醤油煎餅の好みは千差万別。人によって違うのだ。ポイントは醤油の量。しっかり醤油をつけて焼いた煎餅が好きな人もいる。ちょっぴり醤油をつけてお米の味を生かした煎餅が好きな人もいる。工場でつくる煎餅は、多くの人が「まあ美味しい」と思うであろう味に設定している。点数でいうと70点の味であり、あなたにとっての100点満点の醤油の量の煎餅は、塗り方が均一ではない手作業の煎餅でないと食べられない。

・どんな損があるのか→あなた好みの醤油の濃さの煎餅を知らずに死んでいく。
・どんな良いことがあるのか→あなたの人生で、一番おいしいと思う煎餅が食べられる

つまり約束は、「醤油煎餅の醤油の濃さは本当に大切。あなたの好みに100点満点の醤油の濃さの煎餅をつくります」です。

あなたの煎餅が、「おいしい醤油煎餅を突き詰めるために、手作りで醤油の濃さにこだわっている。均一でないからこそ、自分好みの味の醤油煎餅が見つかるかもしれない。こんな煎餅屋がひとつぐらいあってもいいかも」ということに、強引にもっていくことになります。

(別に100点満点の醤油煎餅を食べなくても大した損ではないし、醤油煎餅の濃さで味がそこまで違うのか等々、山形県の煎餅の約束とくらべると、無理やり感があったりして、なんか物足りないですが、凡人中の凡人ですからね。事実を踏まえ背伸びせずにやるしかありません。)

次ページ「凡人ブランドの約束は、つくることよりも、守る努力が重要」へ続く

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片山 義丈(ダイキン工業 総務部/広告宣伝グループ長/部長)
片山 義丈(ダイキン工業 総務部/広告宣伝グループ長/部長)

1988年ダイキン工業入社、総務部宣伝課に配属。1996年広報部 広報担当、2000年広報部広告宣伝・WEB担当課長を経て2007年より現職。業界5位のダイキンのルームエアコンを一躍トップに押し上げた新ブランド「うるるとさらら」の導入や、ゆるキャラ「ぴちょんくん」ブームに携わる。現在は 統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)による企業ブランド構築、マスとデジタルのB2C商品広告展開、広告媒体の購入、グローバルグループWEB統括を担当。日本広告学会員。

片山 義丈(ダイキン工業 総務部/広告宣伝グループ長/部長)

1988年ダイキン工業入社、総務部宣伝課に配属。1996年広報部 広報担当、2000年広報部広告宣伝・WEB担当課長を経て2007年より現職。業界5位のダイキンのルームエアコンを一躍トップに押し上げた新ブランド「うるるとさらら」の導入や、ゆるキャラ「ぴちょんくん」ブームに携わる。現在は 統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)による企業ブランド構築、マスとデジタルのB2C商品広告展開、広告媒体の購入、グローバルグループWEB統括を担当。日本広告学会員。

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