凡人ブランドの約束は、つくることよりも、守る努力が重要
約束は、つくった当初は必ずしもあなたが「大事」だと思っている必要はありません。
「そう言われたら大事かもしれない」であればいいのです(まったく大事とは思わないのであれば、約束にしてはだめですが)。
なぜなら、約束において大切なのは「約束を決める」ことではなく、「守るために努力し続ける」こと。守る努力を続けられると思う約束でなければだめで、実務者は約束を作るときに、本当にこの約束を守り続けることができそうかを考え、一番約束を守れそうなものにしなければなりません。だからこそ実務者の腕の見せ所なのです。
煎餅屋の場合も、「あなたの好みに100点満点の醤油の濃さの煎餅をつくります」という約束を果たすために、努力をし続けることが絶対に必要になります。
店主が約束をつくったことに満足し、今までと何も変わらずに機嫌よく醤油煎餅を焼いていたならば、約束を果たすために何も努力していないことになります。この場合、凡人中の凡人の商品の約束は、生活者にとって意味のあるものに変わるはずはありません。
とにかく守るために努力し続けることが大切です。
最初は、「醤油の濃さの違いは、そう言われればそうかな」くらいに思っていた店主ですが、約束したからには努力しようと、いろいろ試行錯誤すると楽しくなってきました。ほんとに、醤油の濃さが大事だと思い始めました。だから今までの醤油煎餅に加えて新商品まで開発。新商品は、醤油煎餅の袋の中に5段階(しっかり~ちょっぴり)に醤油を塗り分けて焼いた煎餅が入っています。「ぜひあなたの好みの醤油煎餅を見つけて欲しい」という約束を果たすための努力が、商品という目に見える形になります。
こうなってくると、店主は「ぜひあなたの好みの醤油煎餅を見つけて欲しい」をもっと伝えたくなって、お店にきたお客さんにはこう語りかけ始めるかもしれません。「ぜひ家族みんなで一緒に食べてみてください。本当にひとりひとり好みが違うんですよ。(たかが煎餅ですが)煎餅を食べてどの濃さが好きかで会話がはずむ、笑顔があふれることを想って焼いています」です。
ここまでくればやっと、凡人の存在価値(なんとなく醤油煎餅へのこだわる)でも、生活者と約束を交わすことができるようになります。
ブランドをつくる目的は、企業や商品が儲かるためです。そのためには、あなたの企業や商品のことが頭に浮かんだ時に、なんとなく好きなイメージ(妄想)をつくることが必要です。「存在価値」を「約束」によって生活者にとって意味のあるものに変換することで、企業や商品をなんとなく好きになってもらうことができます。
次回は、「勝手に」ではなく「意図的に」ブランドをつくるために大切なブランドパーソナリティ(人格・個性)について説明します。
【次回コラム】「「ブランドパーソナリティ」を偽ると、ブランドづくりは失敗します。」はこちら
本コラムの前編「ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論」は、こちらよりご覧をいただけます。