※本記事は月刊『ブレーン』2020年9月号(8月1日発売)にも詳細が掲載されます。
5月1日、freeeは新型コロナウイルス拡大による緊急事態宣言下で「#取引先にもリモートワークを」というプロジェクトの立ち上げを発表した。スタート時の賛同企業は、三菱UFJ銀行、SBIホールディングス、リクルートホールディングス、メルカリなど24社。社内のITインフラの制約、押印や対面を前提としたビジネス慣習など、リモートワークを妨げる課題を解決することが目的だ。
さらに6月末現在では、80社以上が賛同するムーブメントとなっている。賛同企業は、自社だけでなく取引先もリモートワークができるようなアクションを設定し、各社のSNSやプレスリリースで発信してもらうという流れだ。プロジェクトの特設サイトには、賛同企業による発信内容が連ねられている。
この「取引先にもリモートワークを」というコピーを生み出したのは、freeeのブランドマネージャーを務める銭谷侑さん。電通出身のコピーライターでもある。現在、freeeの社内にはトップ直轄でブランド部門があり、アートディレクター、コピーライター、ウェブデザイナーが在籍している。
始まりは、3月末に社内でコロナ禍における中小企業を支援する事業アイデアを募ったこと。その取り組みの一環で、今回のプロジェクトの発起人である金融事業部 部長の山本聡一さんから、銭谷さんに「新しい働き方を実現するムーブメントづくりのためのメッセージを開発したい」という趣旨の相談が舞い込んだ。
背景には、freeeの主要顧客である中小企業の多くで、リモートワークの普及が進んでいないという状況があった。実際に4月13日、同社がスモールビジネス従事者1146人にテレワークに関する調査を行ったところ「64%がリモートワークを行っていない」という実態が明らかになった。
そこから「最も共感性があり、働き方を変えるために行動したくなるメッセージは何か」という模索が始まった。「当初は“デジタルを止めるな”“社員をアナログから解放せよ”など、脱・デジタルを前提に“社員を守り、事業を継続する”といったメッセージを想定していました。しかし会社単体ではなく、より多くの企業が行動したくなる、社会的インパクトがあるメッセージが必要だと考えました」(銭谷さん)。
リモートワークというと、「IT企業や非製造業、大企業だからこそできること」というイメージが根強いことも課題だった。そこで、大企業側から「取引先である中小企業にもリモートワークを広げていこう」という意志を表明してもらうことが重要なのでは、という視点がまとまっていった。
とはいえ、先が見えない4月の時点でメッセージを策定するのは勇気がいることだった。その突破口となったのが、「取引先にも」という視点。銭谷さんは、「取引先=相手」を思いやる共感性を表現することが大事であったと振り返る。
「なおかつ、4月は緊急事態宣言下で企業の多くが何らか働く環境のスタンスを表明しなければ、ビジョンやパーパスを可視化しなければと悩んでいたフェーズだったと思います。その流れのなかで、機能するコピーであることが必要でした。結果、代表の佐々木や広報担当から関係各社に依頼をかけ、スタート時点から24社の賛同をいただくことができました」。
各賛同企業内で稟議にかかった期間は、たった一週間。特に大企業では異例のスピードだが、あくまで「取引先にも」という相手本意のスタンスを表明したことは各社の賛同を得やすかった。
特に大きかったのは、三菱UFJ銀行など大手金融機関が当初から参画したこと。ここから他のメガバンクや地銀、系列企業へと広がりを見せ、現在では企業側から問い合わせを受けることも増えてきた。6月25日に「モバイルワーク無期限延長」を発表し話題となったカルビーなども、問い合わせのあった賛同企業のひとつである。