賞が獲れる広告こそ売上に貢献する? カンヌで出された広告効果に関する新たな提言

クリエイティブ・コミットメントを現実的にはどう考えるべきか

クリエイティブ・コミットメントを上げることが広告効果を上げるという提言は、特にエージェンシーやクリエイターにはポジティブに響くでしょう。とにかくひとつのキャンペーンの予算を上げたほうがいい、ということだからです。逆に広告主からしたら「結局、予算の話か」と思われるかもしれません。とにかく、コミットメントのなかには予算という項目が入っているのですから。

しかしながらこのWARCの提言の本質は、近年の広告・メディア業界のデジタルマーケティング偏重の方向性に対するもののように思います。つまり、従来のマスメディアからデジタルマーケティングのシフトによって、アジャイルで小規模のキャンペーンをデータドリブンでPDCAを高速で廻すことが新しい広告の考え方のようにもてはやされると、より短期間、より小規模の広告をとにかくたくさん打つ方向に行きがちだからです。

もちろんWARCはそのような流れも否定せず、彼らの言葉でいうと販促施策のような特定エンゲージメントや行動指標を目的においた「Activation(活動)」のキャンペーンも、それを目指したレベル、例えばInfluential Idea(影響を及ぼすアイデア)、Behavioral Breakthrough(行動変容のブレイクスルー)などの設定がされています。しかし、これらの効果は短期的であり、それより上位のレベルのように持続的ではないことを指摘しています。

その意味で予算が少ない場合は、小さいキャンペーンを数打って改善していくよりも、長期的な視野で大きなブランドのクリエイティブを考えたほうが理にかなっているのです。

このような視点は昨年、紹介したアレンバーグ・バス研究所のバイロン・シャープ氏の「ロイヤリティの高い顧客を狙うよりも、できる限りリーチを拡大してライトユーザーを獲得することでブランドが成長する」という考えと相性がよいです。実際にこのWARCの別のホワイトペーパーでは、バイロン・シャープの掲げるリーチ重視のマーケティングの考え方もあわせて紹介されています。WARCもバイロン・シャープもともに、ブランドの成長に効果的であるという広告は、長期間にわたって消費者の記憶に残るようにメディアを継続し、しかも多くのリーチを得られるように多くのメディアチャネルを使うことを推奨しているからです。

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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