カンヌが提案するビジネスに効果的な、新しいクリエイティブの形
カンヌにおいては、文字通り「クリエイティブの広告効果賞(Creative Effectiveness Award)」という部門がありますがカンヌの中では特殊な部門になっています。なぜなら、ここにエントリーできるのは最新の広告ではなく、過去3年間においてカンヌライオンズでショートリストされているキャンペーンのみエントリーだからです。つまりクリエイティブとして一定の評価があったものの中から特にそのマーケティング効果を吟味して、アイデア25%、戦略25%、インパクト50%という割合で評価するというものになっています。
ちなみに2019年の受賞作は2018年に実施されたフランスの流通カルフールのBlack Supermarket(闇市)でした。これは、農家が栽培してもいい品種がバイオ企業と法律によって制限され、97%の自然の栽培のものが違法になっていた現実を変えるべくカルフールが黒を基調にした闇市としてこれらの農家のキービジュアルをかかげ、その農作物を40の店舗で販売するだけでなく、この法律を変えるべく署名を募ったのでした。このキャンペーンは結果7万5千以上の署名を集め、社会問題として多くのメディアが取り上げることとなり、オーガニックフードの新しい法律が制定されることとなったのです。
興味深いのはWARCのCreative Effectiveness Ladderでは、このカルフールのキャンペーンは階層の低いレベル1のInfluential Idea(影響を及ぼすアイデア)に属していることです。このキャンペーンは、性格上長期間にわたって実施されて効果的だったというよりは、具体的に消費者や社会の関心を一時的に喚起することでその結果をもたらしたからでしょう。
このホワイトペーパーでは、これまでやや恣意的だったカンヌのCreative Effectivenessの選好に関する具体的なクライテリアとして「WARC」を採用し、来年の審査から活用することが合わせて説明されています。
近年、カンヌにはそのエントリー費用の高さや参加費の高騰から、広告会社がカンヌをはじめとする広告賞そのものの意義や広告業界にとっての価値について疑問を唱える声も少なくありません。WPP在籍中にマーティン・ソレル卿は、カンヌのエントリーの数を少なくするようにグループ内にレターを出したといわれていますし、一時期ピュフブリシスグループはカンヌから完全撤退することを宣言したことで業界を賑わせました(そのあとすぐに撤回されましたが)。
このような背景から考えると、カンヌが広告会社やクリエイティブ産業のためにある「お祭り」のようなイメージから脱して、よりブランドや広告主の観点からクリエイティビティを通したビジネスの育成にシフトしているという感触を持ちます。その意味では広告賞は単にクリエイターの表彰の場であるというよりも、よりマーケティングとしての意義が高くなることを目指しているといえるでしょう。そして広告主によってエージェンシーが短期的な効果だけに振り回されるだけでなく、クリエイティビティが長期的にどのように機能しビジネスに貢献しているかを明らかにすることが、今後のマーケティング業界の発展に寄与すると考えられるからです。