オンライン社員総会のイノベーション 、2500人×経営陣でディスカッション

2020年2月、乃村工藝社グループが中期経営計画発表(※)のLIVE配信を行った。国内外約2500人の社員が同時視聴。チャット投稿も3000件を超え、活発なディスカッションが行われた。このLIVE配信をプロデュースしたのが、コーポレートブランディングや映像制作を得意とするタノシナルだ。

※ 現在(2020年6月末)、乃村工藝社は新型コロナウイルス感染症拡大による事業影響が合理的に算定できないため、中期経営計画及び2020年度事業予想を開示しておりません。

乃村工藝社グループは、これまで東京と大阪の二会場で全社員を集めて中期経営計画発表会を行ってきた。「社員が眠そうなのが見えるんだよ」と榎本修次社長は、前回の舞台から見た光景を語った。

創業128年、ディスプレイ業界のトップランナーとして、拠点と事業を拡大してきた同社。「経営戦略をグループ全社員が自分事として考えられる場にする」。これが社長から経営企画部長の中村久氏へ与えられたミッションだった。

そこで中村氏が考えたのが、海外拠点も含めたグループ全社を巻き込んだ配信によるLIVEディスカッションだ。「経営陣のスピーチを聞く場ではなく社員と経営陣がリアルタイムで議論する場にしたい」。そんな要望を叶えるパートナーとして選ばれたのは、テレビの情報番組制作のノウハウを生かして、社員総会などで数多くのプロデュース経験を持つタノシナルだった。

LIVE中継でなく配信番組を創る

経営陣が集まり本社特設スタジオからLIVE配信。社員の質問にリアルタイムで答えた。司会者は元NHKアナウンサー堀潤氏。

「経営陣と社員のやりとりを配信するだけでは視聴者が飽きてしまい、ディスカッションに参加するどころか途中離脱すると思いました」とタノシナルの福島ツトム代表。配信開催と会場開催との大きな違いは、観る側に視聴し続けるかどうかの選択権があることだ。

そこで、福島氏から提案したのは
1.短い映像を入れたテンポの良い進行
2.共感を生むストーリー
3.投稿など参加しやすい雰囲気作り
の三つだ。

1.短い映像を入れたテンポの良い進行

LIVEでのディスカッションは慣れているテレビタレントでも難しい。

「予め用意した短い映像で伝えたい要点を説明してしまい、経営陣とのやりとりを短く行うことでLIVEのテンポをつくっていこうと考えました」(福島氏)。そうすることでトークが間延びせず視聴者を飽きさせない。これは情報番組制作では基本となる演出方法だという。

経営戦略を様々なアプローチの映像とLIVEトークで展開。

2.共感を生むストーリー

中期経営計画や経営戦略に興味があると答えるのは一部の社員に限られるだろう。経営戦略の説明をするだけでは経営陣の思考の過程がわからず他人事になりがちだ。そこで過去の3年間、経営陣がどのように考え実行し、成功や失敗をしてきたのかを伝えた。特に、経営者の言いづらい失敗した話は、社員の共感を生みやすい。

3.投稿など参加しやすい雰囲気作り

「経営陣を前にすると社員はどうしても遠慮してしまいます。そこで、事前に各部署の方々へインタビュー取材をし社員の本音を映像で配信しました。

『言っていいんだ!』という雰囲気を醸成するためです」(福島氏)。寄せられた投稿コメントを上手にさばくのはなかなか難しい。そこで司会に、元NHKアナウンサーであり、朝の生放送番組で視聴者投稿の扱いに慣れていた堀潤氏を起用した。「福島さんから三つのポイントを提案いただき、発表会場の様子を中継するという思考は捨てました」と中村氏。

結局、制作した短編映像は全13本、1本平均は3分程度。短い映像とLIVEトークを次々にテンポよく展開することで視聴者を飽きさせないだけでなく、応答する経営陣も思いや内容の詰まったフレーズで答えることができた。

チャット投稿数は、3000件を超えた。会場開催では実現しなかった海外拠点、施工現場、産休・育休社員などの参加もあり78.7%の参加率となった。これは半ば強制的に参加となった会場開催の参加率を上回る数字である。

「初めから“LIVE配信番組を創る”という方向性が確認できたおかげで、“やるべきこと”が明確になった」と中村氏は振り返る。

ひっきりなしに投稿コメントがあった。

海外拠点の社員のために同時通訳を入れリアルなコメントを伝えた。

情報番組のような発表会

図1 中期経営計画発表会 LIVE配信の仕組み

『広報会議』編集部も当日の収録動画を観たが、北海道・大阪・九州の3地域と東京台場の本社特設スタジオを結んでの中継コーナーでは、社員と経営陣が直接ディスカッションし、チャットで投稿してきた社員からのコメントに経営陣がテンポ良く回答していた。

考えさせられたり笑ったり、テレビの情報番組を観ているようで、まさに『LIVE配信番組』を具現化したものだった(図1)。

LIVE配信が前提の会場開催へ

様々な場所でのLIVE視聴が選択できるようになった。社員にとって終了後の懇親会參加が目的になりがちだった集合での社員総会の在り方が大きく変わった。チャットでの投稿や、拠点と中継したLIVEディスカッションが実現し、社員が自らの意見を発信できるようになったのだ。

多くのミュージシャンがLIVE配信、ネット配信、DVD販売と、そのパフォーマンスをファンに伝えていくように、企業もその経営戦略を社員総会や株主総会という場で語るだけでなく、LIVE配信・ネット配信し、アーカイブしていく時代になった。ミュージシャンのファン、そしてステークホルダーも様々なソーシャルメディアを使い自らの考えを発信している。

今回の中期経営計画発表会後、「経営や経営陣のことを身近に語る若手社員が増えました」と中村氏は指摘する。経営方針に共感してもらう社員総会から参加して一緒に考える「LIVE配信ディスカッション」へ。これから新たな手法となっていきそうだ。

タノシナル
代表取締役
福島 ツトム氏

 

乃村工藝社
管理統括本部 経営企画部部長
中村 久氏

 


お問い合わせ

株式会社タノシナル
〒136-0082 東京都江東区新木場1-4-6 CASICA2F
TEL:03-6457-0823
MAIL:info@tanoshinal.com
URL:https://tanoshinal.com

乃村工藝社経営企画部長・中村久氏とタノシナルの代表・福島ツトム氏が宣伝会議のウェビナーに登壇決定。本ページで紹介したLIVE配信の様子を収録した動画(通常は非公開)を観ながら制作過程の裏話をします。詳細はこちらから

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