坂井直樹×廣田周作 ニューノーマルの「好奇心とイノベーション」(前編)

常に緊張状態、しかも自覚がない

廣田:視聴者から質問が来ました。ビフォーコロナには戻らないとして、逆に変わらないものは何でしょうか。

坂井:家族のつながりは、もっと深くなるでしょうね。家でテレビを見ながら、ウイルスで人は死ぬんだってことを知ったじゃないですか。子どもも、そのことを理解したから、ちゃんとマスクができている。生命の危機にさらされる機会って、そんなには多くないですよ。

廣田:緊張状態が生まれている。

坂井:でも、渦中にいるとそのことに気づけない。コロナ危機で、テンションがずっとONの状態ですが、無自覚。

廣田:今は、コロナを乗り越えるぞというテンションが上がっていても、いずれ落ちるときが来ますね。

坂井:だからストレスもすごいんですよ。ソーシャルディスタンシングのような新しい習慣も出てきていますし、寿司屋さんが魚屋さんになったりして業態が変わるような変化もあちこち起きたわけですよね。

廣田:生き残りのために必死の業態転換が起きています。

坂井:もし、もう1回コロナが来て、1年ぐらい巣ごもりしても食って行けるようにするにはどうしたらいいか。そう考えて新しいビジネスを今、準備してるんですよ。コンテンツを作れる能力があって、自分のファンが一定数いれば、食っていけると思っていて。本だとか映像だとか、デザインとか。今はインサイトについての本を書いてますよ。抽象的な言葉を理解できるようにしたいと思っていて。僕自身も変化しています。

廣田:何か大きなものに寄らなくても、クリエイティブなことができれば、いま発信ツールはありますからね。

坂井:堀江貴文さんのような、オンラインサロンを開く生き方っていうのも出てくる。

廣田:また、坂井さんへの質問が来ています。海外から日本を長年見られている坂井さんにとって、日本や日本人の強みとは何でしょうか。この機会に日本はどう変わるべきでしょうか。先ほど、日本はハイテクを持っているけれど保守的という話が出ましたが。

坂井:周辺の国で言うと、例えば、中国4000年の歴史とよく言いますよね。けれど建国は70年前ですから、若い国と理解したほうがいいと思っています。その意味で言うと、日本は歴史ある古い国なんですよ。だから保守的で、変化したくない人も圧倒的に多いのだと思う。でもその中で、長年続いて来た常識的なビジネスとは異なる道で、パーッと現れて利益を上げる人たちがいます。堀江さんとか、『好奇心とイノベーション』で対談したチームラボの猪子寿之さんとか、異人、異能の人たちですね。日本にもいるんです、異能の人が。コンサバティブな資本と結びつきにくいので、完全に力が発揮できていなかったり、見えにくかったりもしますが。

廣田:本で紹介されている人たちは皆さん、わざとではなく真剣に“変なこと”や、異質なことを語っていますよね。

坂井:その通りです。本気ですね。また、これからは、90年代後半以降に生まれたZ世代の人たちがどんなことをやらかすのか、楽しみです。

廣田:日本の人口が少なくなっていっても、新しい潮流が出てくるのは、やはり若い世代からだと思います。

坂井:組織でイノベーションを起こそうとして、例えば、5人とか10人とかのグループを作って、セオリーに従ってデザインシンキングをやるとしますよね。でもやっぱりそこには、ひとり異能の人がいないと、普通の答えしか出てこない。やばい人が必要なんです。

廣田:かき回す人とか、違う意見を言う人というのが必要だってことですね。ただ、日本の会社って、人事が同質的な人を採用しがちという話も聞きます。面接で自分と似たような人がいると、居心地がいいっていうところがあるんでしょうけれど。異能の人とか、尖った人って、組織で居心地が悪かったりしますよね。

坂井:だから、会社に入るのが間違いですよね。会社がなくても人は生きて行けるんだから。実際、僕は19歳から自分で会社を作って、雇われたことは1回もないですから。上司に指示をされる時点で、その枠の中で最適化しようとしてしまう。

廣田:上意下達みたいなコミュニケーションですね。

坂井:異能の人からしたら、命令している上司の側が、テクノロジーの使い方も意識も古臭く見える。もちろん上意下達の組織の構造をなくしたほうがいいとは思いませんが、会社に勤める働き方は、今の半分になってもいいでしょうね。

廣田:本の中で僕は感銘を受けたんですけど、「年下の方が偉いと思っている」って坂井さんは発言されていて。坂井さんは、若い子と仲良くなる能力が高いですよね。

坂井:ツイッターで若いプログラマーを探して、仕事の依頼をしてますからね。

廣田:今の若い子たちから出てきているトレンドとか新しい価値観で、面白いなと思ったことは何ですか。

坂井:ひとり象徴的なZ世代で言うと、現代美術家の会田誠さんの息子さんの寅次郎さん(2001年生まれ)。デジタルアーティストでもありながら、ビットコインをマイニングしてるんですよ。

廣田:面白いですね。従来これはこういう分野だねと言われてきた垣根を軽々と越えて活躍する若い世代が出てくると、びっくりするとともに、励まされます。

坂井:上司や組織のバイアスに負けないで、自分は自分だってやっていけるといいんだけど。なかなかそう簡単にいかないみたいですね。

廣田:時代によって、これが賢い、これがアホだっていう考えは、変わっていくものだとは思うんですよね。ある種の時代においては有能だったことが、10年経つと社会的な規範が変わって、急に相対的にアホになっちゃったりして。

坂井:それは面白い考え方ですね。確かに時代が変われば価値観は変わりますね。いま僕らはコロナのショック状態で、ちゃんと自覚できていないけれど、いま、ものすごいスピードで価値観の変化も起きていると思います。

次ページ 「会社って何だろう、物理的な場所は関係なかった」へ続く

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坂井直樹(コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役)
坂井直樹(コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役)

1947年京都生まれ。京都市立芸術大学デザイン学科入学後、渡米し、68年Tattoo Companyを設立。刺青プリントのTシャツを発売し大当たりする。73年、帰国後にウォータースタジオを設立。87年、日産「Be-1」の開発に携わり、レトロフューチャーブームを創出。88年オリンパス「O-Product」を発表、95年、MoMAの企画展に招待出品され、その後永久保存となる。04年、ウォーターデザイン(旧 ウォーターデザインスコープ)を設立。05年au design projectからコンセプトモデル2機種を発表。08年~13年慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス教授。著書に『デザインのたくらみ』『デザインの深読み』など。

坂井直樹(コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役)

1947年京都生まれ。京都市立芸術大学デザイン学科入学後、渡米し、68年Tattoo Companyを設立。刺青プリントのTシャツを発売し大当たりする。73年、帰国後にウォータースタジオを設立。87年、日産「Be-1」の開発に携わり、レトロフューチャーブームを創出。88年オリンパス「O-Product」を発表、95年、MoMAの企画展に招待出品され、その後永久保存となる。04年、ウォーターデザイン(旧 ウォーターデザインスコープ)を設立。05年au design projectからコンセプトモデル2機種を発表。08年~13年慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス教授。著書に『デザインのたくらみ』『デザインの深読み』など。

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