坂井直樹×廣田周作 ニューノーマルの「好奇心とイノベーション」(前編)

見慣れた日常に違和感を抱く

廣田:本の中でもよく書かれていた一次情報というのも、キーワードですよね。

坂井:自分の目で見て、自分の五感で感じたものしか一次情報になりません。例えば、僕は新凱旋門(グランダルシュ)ができた時、建築の途中で見に行ったんですよ。そうすると、写真で見るのとは違って、立方体の建造物だってことがよくわかりました。自分が感じるために現場に行って、感じる。それを蓄積していくと、なんとなくユニークとは何かっていうことが見えてくるんです。例えば、Be-1っていう車は、僕のターニングポイントとなった仕事ですが、依頼された時に、僕、車の運転免許も持ってないし、カーデザインの勉強をしたこともなかったんです。

なぜこの丸い車を作ったかっていうと、首都高をずーっとビルの上から見ていたら、四角いんですよ、車がみんな。なぜ一律に四角い車の中でしかデザインを探さないんだろうと思ったんですよ。世の中には、いろんなフォルムがあるのに。プロは、四角の中で最大限いい車を作ろうとしていたんです。僕はアマチュアだから、知ったこっちゃない。一番イケてる車を探していったら、丸いフォルムの車になった。

廣田:一般的な人たちは、割と日常をぼんやり見ていると思うんですね。車が四角いなって気づけない。坂井さんは、見慣れた風景の中に違和感を抱けるセンスがおありなのかなと思ったんですけれども。そうした能力は鍛えられるものですか。

坂井:自分の体験を通して出てくるものだと思うんですね。西行法師もそうだし、僕の知人で言うと、安藤忠雄さんもそうなんですが、みんな放浪してるんですよ。10代の後半から20代の前半だと、まだ感覚があまり固まってないから、いろんなことに感動し得るんですよね。世界中を放浪すること、それから数学はやっておいたほうがいいかもしれないですね。あと英語も。YouTubeとかで。

廣田:その理由は?

坂井:数学でロジカルな頭を作り、プログラミング的思考に近づいて、英語でグローバルなコミュニケーションを取れれば、知識なんか勝手に入ってくるじゃないですか。ネットの中に山盛りあるわけだから。

廣田:好奇心があれば自分で調べるってことですか。

坂井:そう。自分で取りに行ってこそ初めて知恵になる。与えられた問題以外のことにトライしちゃいけないドリルの勉強法とは違います。僕は孫に、数学とプログラミングと英語だけでいい、あとは全部捨てなさいと勧めてます。0点でいいから、と。

廣田:日本の教育のOSを変えなきゃいけないぐらいのでっかい話なので、簡単にはいかなさそうですが、このトークを聴いている親御さんは、数学と英語と好奇心、そして旅をするように教えるといいんじゃないか、ということですね。

坂井:世界中の不良のアーティストは旅をして、その中でクリエイティブしてます。

廣田:コロナによる出国制限で旅に出づらくなりましたが、坂井さんが興味のある地域はどこですか。本では、中国への訪問が刺激になっていることが書かれていましたが。

坂井:相変わらず中国ですね。問題もあるのですが、事業の動きがとにかく速い。例えるなら、うなぎ屋がスマートフォンをつくるくらい大胆な業態転換が平気で行われています。でも彼らにしてみれば、いま何が一番儲かるかを考えてビジネスしているだけなんですよ。

廣田:日本だと、ビジョンにのっとって事業を継続しているところが目立ちますよね。『好奇心とイノベーション』の中でも300年続いている中川政七商店さんの話がありました。長期ビジョンでブレない価値を提供しようというのは、日本の会社の尊敬できるところでもあります。中国は真逆で、今儲かるものに切り替える。それはそれで面白い話です。

坂井:えらいスピードで成長するんですよ。2、3人で創業して、1000人規模の会社を作る、というのが珍しくありません。
(後編へ続く)

廣田周作

1980年生まれ。放送局でのディレクター職、広告会社でのマーケティング、新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て、2018年8月に独立。企業のブランド開発を専門に行うHenge Inc.を設立。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)。

 

坂井直樹(さかい・なおき)
コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役

1947年京都生まれ。京都市立芸術大学デザイン学科入学後、渡米し、Tattoo Companyを設立。刺青プリントのTシャツを発売し大当たりする。73年、帰国後にウォータースタジオを設立。87年、日産「Be-1」の開発に携わり、レトロフューチャーブームを創出。88年、オリンパス「O・product」を発表、95年、MoMAの企画展に招待出品され、その後永久保存となる。04年、ウォーターデザイン(旧ウォーターデザインスコープ)を設立。05年、au design projectからコンセプトモデル2機種を発表。08~13年、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス教授。著書に『デザインのたくらみ』『デザインの深読み』など。

 

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坂井直樹(コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役)
坂井直樹(コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役)

1947年京都生まれ。京都市立芸術大学デザイン学科入学後、渡米し、68年Tattoo Companyを設立。刺青プリントのTシャツを発売し大当たりする。73年、帰国後にウォータースタジオを設立。87年、日産「Be-1」の開発に携わり、レトロフューチャーブームを創出。88年オリンパス「O-Product」を発表、95年、MoMAの企画展に招待出品され、その後永久保存となる。04年、ウォーターデザイン(旧 ウォーターデザインスコープ)を設立。05年au design projectからコンセプトモデル2機種を発表。08年~13年慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス教授。著書に『デザインのたくらみ』『デザインの深読み』など。

坂井直樹(コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役)

1947年京都生まれ。京都市立芸術大学デザイン学科入学後、渡米し、68年Tattoo Companyを設立。刺青プリントのTシャツを発売し大当たりする。73年、帰国後にウォータースタジオを設立。87年、日産「Be-1」の開発に携わり、レトロフューチャーブームを創出。88年オリンパス「O-Product」を発表、95年、MoMAの企画展に招待出品され、その後永久保存となる。04年、ウォーターデザイン(旧 ウォーターデザインスコープ)を設立。05年au design projectからコンセプトモデル2機種を発表。08年~13年慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス教授。著書に『デザインのたくらみ』『デザインの深読み』など。

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