【前回記事】「坂井直樹×廣田周作 ニューノーマルの「好奇心とイノベーション」(前編)」はこちら
リモートワークで最も必要なスキルは?
廣田:リモートワークが快適過ぎて、出社がつらい、っていう意見が来ています。
坂井:面白いのは、リモートになると能力のない人が発見しやすいんですよ。アウトプットが見えるから。会社でみんなとつるんでいるほうが、誰の成果かわかりにくい。リモートで業績を上げてちゃんとレポート出して、俺は超頑張ってるぞって言い張れば在宅OKになるはずですよ。
廣田:確かに、リモートワークになると、なんとなくかけ声をあげているだけの人とか、そういう人たちが可視化されちゃいます。
坂井:働いてるふりするのうまい人とかね。
廣田:ある種、恐ろしい話ですね。
坂井:面白いスクリーニングだと思いますよ。
廣田:リモートの働き方で必要なスキルってなんでしょうか。
坂井:先ほどリモートトラストの話をしましたが、会わずに電話1本で商談をまとめられること。もちろんZoomでもいいんですよ。貴重な営業能力になりますよ。菓子折り持って行ったりして、いいスーツ来て、会社訪問する。それが一番マナーのいい方法だっていうのが従来の概念だけれど、そのことはもう関係なくなりました。今はアポを取ると、Zoomでやりましょうよって言ってくれるようになって、僕はうれしいです。
廣田:新しい礼儀みたいなものが生まれるのか、それとも礼儀は必要なくなって、中身だけで共感されれば営業が進むのか。
坂井:礼儀も残るし、雑談もしなきゃだめだと思うんですよ。Zoomを使って仕事した人は気づいてると思うんですけど、用件しかやらないじゃないですか。
廣田:はい。ムダがないですよね。
坂井:でも、共感を得るなら、半分ぐらい雑談で、最後さっと倒すっていう営業ですよね。
廣田:坂井さんのことを、クリエイターだと思っている方が多いと思いますが、営業パーソンの側面もあるんですね!
坂井:廣田さんの前で600万円の契約を15秒でとったじゃないですか。
廣田:はい、ありました(笑)。自分の話で恐縮ですが、坂井さんと僕が出会ったのが3年前で。最初にお会いしたその日から、「君と働くよ」って若輩者の僕にもサッと言っていただいて。そこから坂井さんと一緒にいろんなクライアントに営業で回ることになったんですが、坂井さんの営業の現場は、本当にすごいんです。おかげさまでいろんな方をご紹介いただき、仕事でご一緒できる機会をいただきました。
坂井:会う前から、契約することが決まっているということですよ、15秒で即決するというのは。中身を見ないで買いますよとは言えないから。
廣田:相手との関係性(ラポール)をどう作るかは、ウィズコロナの時代、大事なスキルになっていくと思います。
坂井:僕、今年で73歳だけれど、リモートトラストを磨けば90歳でも仕事できるなと。
廣田:既存のお客さんとの関係値はリモートでも作れるんですが、初対面で仲良くなるっていうのはハードルが高いです。
坂井:工作機械製造のDMG森精機という会社は、出荷前の顧客立ち会いの検査を、オンライン会議システムで実施するようになったそうですが、こういう話がもっと出てくるでしょうね。
廣田:なるほど、それは知恵ですね。
坂井:リモートトラストっていうのは、いま一番求められているスキル。1回も会わないで商談をまとめるって、これはもうプロですよ。
廣田:質問がどんどん届いています。田舎に移住する人が増えていくのではないか、これからの住まいについてどういう考えを持っていますか。
坂井:都会から離れるのは、ひとつのアイデアで、いいと思うんですけれども、田舎と言っても、都会までの距離を選ぶか選ばないかによってだいぶ違ってきます。僕自身は大都会が一番好きなんですよ。便利だと思ってる。だって心臓が止まっても医者が近くにいるじゃないですか。できれば東京駅の上に住みたいくらい。
廣田:騒がしくて寝れなさそうですけど(笑)。
坂井:田舎へという風潮は当然出てくるし、大都市と田舎の2か所に拠点をつくるというアイデアも出てくると思います。週3ぐらいのお休みが今後スタンダードになっていくとしたら、2日間はリモートで、2日間は会社に出て行くと。
廣田:いろんな文化施設のアクセスができる都会と、風光明媚なローカルの暮らし、どっちもできるようになるのがいいのかもしれませんね。
坂井:物価が高い都会に比べて、生活費が抑えられる地方に行くのもひとつの選択かもしれないし、小説家とかプログラマーのような仕事だったら、都会にいる必要がなくなってくるでしょうね。
廣田:コロナで旅がすごくハードル上がってしまった、という意見が多く来てますね。
坂井:コロナで被害が大きかったところも、動けるタイミングになったら、自分の目で見ておきたいです。「移動距離はクリエイティビティに比例する」と言われますが、違う国に行って違う言葉を喋り、違うものを食べ、違う人に会って違う景色を見て、それはもう充電するにはぴったりですよね。
廣田:リテールはどう変わるかという質問も来ています。TikTokとかを使ったライブコマースが盛り上がっていますが、フィジカルな店ってどうなるのか。
坂井:ライブコマースは、フィジカルな店とeコマースの中間だと思っています。
廣田:店をスタジオにして、店員がライブ配信をしたりしていますね。
坂井:中国人の友達は、ニューヨークのデパートでいろんな商品をライブコマースで見せて販売していました。洋服に強い人、帽子に強い人、メイクに強い人といった、異なるジャンルのKOL(Key Opinion Leader)を束ねる会社をやっていて成長しています。この会社が面白いのは、撮影拠点はグローバルに持っているのに、売る相手は中国人だということ。グローバルな展開をしてるんだけれども、考えていることはローカルなんですよ。今までのベンチャーっていうのは、日本で成功したからアメリカに行こうって、なるんですよね。サクセスモデルを持って行こうとするわけ。
でもアメリカでそのモデルが通用するとは限らない。一方で僕の友達は、初めからグローバルにポジションを置いて、中国でニューヨークのものを買いたい人、中国で東京のものを買いたい人を対象にしています。特にアパレルは在庫が課題になりますが、彼らは売れた時に初めて仕入れて、在庫を持たないようにしています。
廣田:商品の発注から購買までの時間軸が従来と異なりますね。ITがニーズを可視化できて、商品がすぐに届けられるから実現できる考え方ですよね。
坂井:ニーズの可視化には、ビッグデータも活きてきます。中国では、コロナの封じ込めにもデータを活用していました。僕も中国の街中を歩けば、監視カメラで顔を撮られているし、ウィーチャットペイで物を買っているので行動データが取られているわけです。ものを買うのに、もう顔(Face ID)だけでもいいんじゃないですか。サインもはんこも要らない。この顔が買いますって認証できれば。そういう時代に、中国は突入していると思います。
廣田:中国はデジタルでサービスの利便性を高めることが進んでいますが、中国を理想として日本も変わっていくのか、という質問も来ています。
坂井:中国を理想として変わっていくということはたぶんなくて、物理的に中国に吸収されていくでしょう。シルクロード経済圏構想ってあるでしょ。一帯一路。流通のプラットフォームを作って、ヨーロッパまでの配送コストを削減して、電子決済システムを浸透させようとしています。
廣田:オセロみたいなイメージですかね。どんどんその色に変わっていったら、それを使わざるを得ない。参入コストが安くて、利便性が高くて経済圏が大きければ、ネットワーク効果が働くので乗らない手はないっていうふうになっちゃうってことですよね。