「存在価値」を、生活者が好きになってくれる視点に変換するのが「約束」の役割
好きになってもらえなさそうだからといって、「存在価値(ブランドアイデンティティ)」を変えるべきではありません。
「存在価値」はブランドの根底であり、コロコロ変えてしまっては、ブランドはつくれないからです。
そこで「約束(ブランドプロミス)」を時代に対応して変えるのです。
「存在価値」をその時代にふさわしい「約束」によって、生活者にとって意味のあるものに変換することで、企業や商品をなんとなく好きになってもらうことができます。
巨大な保険会社の「約束」を変換してみましょう。
存在価値:「困っている人を助けたい」
約束:「時代の変化で生まれる新たな課題で困っている人に対する新しい保険を提供します」
昔はお金がなくてみんな困っていました。
だから、とにかく安く保険を提供してくれる会社のことを好きになりました。
今は、かわいいペットが病気になったときの保険がなくて困っていた人に、ペット用の保険をつくってくれた保険会社が好きになる。そんな時代の変化を先取りして、新しい保険を作り続ける会社の方が好きになってもらいやすいかもしれません。
「約束」を守るために努力を続けることで、時代の変化を先取りした新しい保険を次々に出し続け、生活者にそのようなイメージ浸透してくれば(安いよりも)、生活者がなんとなく好きになってくれそうです。平成の時代の好きのポイントといってよいかもしれません。
ただし、これはすぐに競合にマネをされます。しかも大企業ですから、組織も大きく小回りがききません。多少の努力をしたところで、その時代に対応した保険を次々と出し続けることができない。そうなると、この「約束」は果たせず、生活者に好きになってもらうことが難しくなります。
しかたがない、もうSDGsを使うしかありません。
存在価値:「困っている人を助けたい」
約束:「世の中の困りごとを助けたい(つまりSDGsとかCSRを頑張ります)」
令和の時代においては、『世のため人のため地球のため』に努力し結果を出す企業は好きになってもらいやすいのです。大きな企業になればなるほど、生活者から、『世のため人のため地球のため』に努力することが期待されています。期待に応えることができれば、好きになってもらう確率が高まります。
競合の保険会社が、過去の好かれるポイントである安さや、好かれる可能性はあるけれど差別化しにくい新しい保険づくりのみに取り組んでいた。一方で、この会社だけSDGsを「約束」し、SDGsの活動にしっかりと取り組む努力を続けていたとすれば、この会社を好きになってもらえる可能性は高いのです。(もちろんSDGsも競合に真似をされ始めたら好きになってもらいにくくなることは言うまでもありません)。
『世のため人のため、地球のため(社会貢献・CSR・SDGs等々)』が流行っているからといって、この流行り言葉が、あなたの企業・商品を好きになるポイントではないことに気を付けましょう。
SDGsで(大部分の企業・ほどんどの商品)はブランドはつくれません。
企業・商品を好きになるポイントは、企業・商品によって異なります。
そして、時代によっても変化します。
自らの企業・商品を好きなってもらえるポイントを見つけるのが、ブランドの実務者の仕事であり腕の見せ所になります。
次回からは、実践編の最後のパート、ブランド戦略です。ブランドの教科書のブランド戦略は机上の空論なので使えません。そのため戦略がないままに、ブランドづくりに取り組むことが、ブランドがつくれない大きな要因になっています。
実務者にとっての実践的なブランド戦略を説明します。
【次回コラム】「ブランド「戦略」不在 「戦術」だけのブランドづくりの大罪」はこちら
本コラムの前編「ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論」は、こちらよりご覧をいただけます。