新しい表現技術の活用に積極的に取り組むサイバーエージェントグループの中で、3DCGやAI、フォトグラメトリースキャンなどの先端技術を用いて3DCG動画広告や映像コンテンツの制作・運用を行っているのがCyberHuman Productionsだ。新型コロナウイルスの影響で動画やCG制作ニーズが伸長していることも重なって、現在多くの問い合わせが寄せられているという。3DCG技術が生み出す新たな広告の形、その先に生まれる顧客体験とは。CyberHuman Productions 取締役の芦田直毅氏に聞く。
ユーザーに合わせて広告表現を容易に変更。AIとの掛け合わせにより可能性も広がる
—3DCG技術を活用することで、広告はどのように変化するのでしょうか?
芦田:まず、いわゆる「枠を買う」広告における活用についてお話します。例えばB to Cで商品を販売している企業が、ECの売上を伸ばしたくてダイレクトレスポンス広告を打つ場合を想定してみましょう。従来であればWebサイトで使用していた画像を、そのまま広告に使用したり、クオリティを高めるために改めて物撮りをしたりしていました。
しかし、3DCGなどの技術を用いることで、ブランドの世界観を保ったリッチな表現物としての品質を保ちつつ、背景の色や、カメラのアングルを変える、パッケージのアニメーションを変えるといった表現の調整をコンピュテーショナルにできるようになります。つまり、そこで1回1回撮影をし直さなくても、ユーザーが見ている媒体に合わせて最適な表現にしたり、ユーザーによって広告表現を変えたりすることができるようになるのです。また、「商品が浮いている」など、実写ではできないインパクトのある表現も可能です。
さらに、広告クリエイティブの効果を予測するAIや、クリエイティブ制作をサポートするAIなどと組み合わせることで、これまで以上の効果を狙うこともできます。フィジカルな撮影では追いつけないような表現であっても、最適なクリエイティブ、最適な方法でスピーディーに配信までが可能になります。
ブランディング広告の場合も、「動画のバリエーションをつくりたい」「ユーザーの反応を見て、クリエイティブをつくり替えたい」といったニーズがあります。長期的な効果を狙っていく場合においても、配信結果を見ながらクリエイティブを変えていきやすいといった点で3DCG技術は有効です。
次に、いわゆる「広告」の形に限定しない企業と消費者のコミュニケーションにおける活用についてです。クライアントのWebサイトやアプリ上の表現物を3Dにすることで、ブランドの世界観を体感してもらいやすくなります。特に、車、アパレル、家具といった、立体物で商品を見せることに意味があるクライアントにとっては、3DCGによって、より深いユーザー体験を創出することが可能になります。
リアルでの撮影の代替えではなく、3DCGの特性を生かした動画のニーズが高まる
—現在、CyberHuman Productionsには多くの相談が寄せられているとのことですが、広告主や広告制作会社からの相談を受けて、どのようなニーズを感じていますか?
芦田:5Gへの移行に伴う通信の高速化・大容量化により、従来よりも高品質な動画制作のニーズが高まり、静止画や動画など2D的なアウトプット以外に、3Dアウトプットとしての3DCGの活用先が増えてきているため、それに伴ってAIやAR・VRといった方法で表現物を3Dにしてみたい、という問い合わせは増えています。
また、最近は新型コロナウイルスの影響を受けた問い合わせも増えています。それは必ずしも「リアルな撮影が難しいのでCGを用いたい」といった、従来の代替としてのニーズに留まった問い合わせのみではありません。3DやCGの特性を活かしたニューノーマルな表現や体験のニーズが高まっています。
例えば、店舗に訪問しにくいという状況から自宅でも商品を3Dで見れるようなWebページを制作したり。ARショールーミング・ARフィッティングなどのご相談も増えています。また、フィジカルに接触するイベントやライブに、フル3DCGを活用したバーチャル空間でのイベントを行いたいという問い合わせをエンタメ産業の方からも多く受けています。
CGを用いた制作であれば、収容人数に制限なくイベントを開催でき、会場の制約に囚われない演出やファンの方々とのインタラクションの幅も広がります。このように、リアル会場のチケット収入と物販以外のビジネスモデルを確立させたい、というニーズがうかがえます。
アドテクノロジーの進化で、デジタル広告はクリエイティブの勝負に
—なぜCGなどの技術が広告業界で注目され始めたのでしょうか?
芦田:広告業界で最新技術が注目されている背景には、配信技術が整い、配信する枠にのせる「一人ひとりに合わせた」効果的なクリエイティブの制作や最適化が求められるフェーズに達したということがあります。
デジタル広告はマス広告とアプローチが異なり、大勢に向けてではなく、一人ひとりに向けた広告展開が重要です。しかし、個々のユーザーの趣味・嗜好に合わせると、クリエイティブは膨大な量が必要となります。従来の方法で制作するのは現実的ではありません。そこで、CGやAIといった最新技術と組み合わせた、効率的な制作方法の革新が求められているのです。
サイバーエージェントグループでも、CG技術などを使ってコンピュテーショナルに制作する体制を整えることで、より個人に対して効果の高い新しい広告を届けることを、早く実現したいという思いがありました。また、3DCGを用いた動画広告は、商品の魅力を訴求したいメーカー企業を中心に需要が拡大しています。
従来の映像制作とは異なるワークフローを導入、広告主の戦略にも変化が
—3DCGを活用して広告を制作する場合、どのような環境が必要なのでしょうか。
芦田:私たちは3DCGやAI、フォトグラメトリースキャンなどの先端技術(Cyber)と人間(Human)の融合を目指す会社なので、そのために最適化した撮影・編集スタジオを構えています。撮影・音声収録・編集・3Dスキャンをひとつのスタジオで完結させることで、スピーディーな動画制作を可能にしています。
このような制作技術は一見すると「手段」に過ぎません。ただ重要なのは、このように「ワークフローそのもの」を再考する視点を持てる事ではないでしょうか?
CG制作については、映像制作とは別の制作ソフトを用います。よく使用している3DCG総合制作ツールはAutodesk社の『Autodesk®Maya®』です。『Autodesk®Maya®』で作ったデータを書き出して、2Dデータの映像上で編集する「プリレンダリング」という制作方法や、ゲーム制作時などには、3Dデータをリアルタイムに映像として描画する「リアルタイムCG」という制作方法をとっています。
また、3Dを用いて制作したもののデータ量は、形のデータ、動きのデータ、パッケージのデータなどを含み、従来の映像データ量と比較してかなり数が多く、容量も重くなります。大規模な制作の場合は、手順をひとつ間違うだけで一大事です。そのため、複数の広告パターンをつくる、尺の長い動画を配信するといった使い方をする場合は、データ管理が非常に重要になります。そこで、データ管理・プロジェクト管理をするために『SHOTGUN』という制作進行管理ツールを活用しています。
こうしてワークフローそのものを、従来の広告のつくり方から変えることで、ユーザーの反応を見ながらクリエイティブを変えたり、従来はできなかった表現により、広告を通じてユーザーを楽しませたりすることもできるようになります。企業のマーケターも、以前とは異なる戦略を打つことができ、うまくかみ合えば広告効果がわかりやすく上がることも期待できます。
広告は今後、配信だけでなく表現自体も「今、ここにいる、あなた」に合った届け方へと移行していくでしょう。それに伴い、AIやCGを組み合わせた、自動生成の技術は必須になっていくと思います。
さらに、現実世界とCGを融合した表現が普及していく。例えば、「この商品を買った人は現実世界の背景が変わる」などの表現も可能になるかもしれません。制作の概念そのものが変わっていく、面白いフェーズにあると思います。「映像をつくる」から、「空間をつくる」「体験を深める」への変化を、我々自身が面白がっていたい。そして、広告制作を通じて、新技術の社会実装のケーススタディを重ねることで、社会的な価値の創出にもつなげていきたいと考えています。
お問い合わせ
株式会社ボーンデジタル ソフト事業部
TEL:03-5215-8671(10:00〜19:00 ※土日、祝日を除く)
MAIL:sales@borndigital.co.jp
URL:https://www.borndigital.co.jp/
取材先
株式会社CyberHuman Productions
(サイバーエージェントグループ)
URL:https://www.cyberhuman-productions.co.jp/
【ウェビナー情報】
次世代の広告クリエイティブを考えよう!
~CyberHuman Productions × 宣伝会議 座談会~
2020年8月6日(木) 14:00~15:00
昨今、3DCGやAIの活用など、技術の進歩によって広告制作方法や、表現、配信方法にいたるまで広告の形態が大きく変化しています。
そこで、新たな広告の形、その先に生まれる顧客体験など、様々な視点から次世代の広告クリエイティブに焦点をあてたウェビナーを開催します。
詳細・申し込みはこちら