損保ジャパンの動画を活用した業務効率化、プロジェクトの進め方【前編】

安心して撮影できるよう、ガイドラインを作成。年間400本制作されるまでに浸透

前田:こうした新しいプロジェクトに取り組むにあたっては、小さく着手して、早く成果を出していくことが、プロジェクトの存在意義を認めてもらい、継続させていくために必要となるケースが多いです。今回のプロジェクトではいかがでしたでしょうか?

遠山:やはり、組織のなかで認められている状態というのは必要でした。実際、プロジェクトをスタートさせるにあたって、上司からはKGIをどうするのかと質問されました。

営業面での他社差別化という目標を評価基準にするのは、この段階では難しかったので、まずは小さく始めて、営業店発信で動画がどんどん制作されているという「動画制作本数」や、制作した動画が視聴されているという「視聴回数、視聴率」といった目に見える数字を出していきました。そうすることによって、プロジェクトの成果を積み上げていきました。

前田:この他に中間目的はありましたか?

宇津木:「動画は本部や制作会社がつくる」という意識が根付いていた社員にとって、自分たちで動画をつくっていいよと言われても、色々な不安がつきまといます。実際の制作段階は、構成や音楽などが組み込まれているテンプレートがあるためハードルは下がりますが、「何は撮って良くて、何はNGなのか?」といった線引きがないと、現場の社員は安心して撮影することができません。そのため、コンプライアンス部と一緒に動画撮影のためのガイドラインを制作し、営業店に展開しました。

前田:「社員が安心して撮影できるようになる」というあるべき状態(中間目的)を設定して、その実現のためにコンプライアンス部といっしょにガイドラインを制作するという施策を行ったのですね。

この他にも様々な施策を行われていたと思いますが、2018年末に掲載された、アドタイのメットライフ生命の「社内エンゲージメント向上プロジェクト」の記事をご覧になって、当時の担当者に会ってアドバイスをもらったというエピソードを聞きました。

宇津木:はい。いくつもの施策を実行していましたが、動画制作に関わる人々が思ったように増えず、動画制作本数も伸び悩んでいた時期があったんです。そんな時に、メットライフ生命の記事を読み、伝手を頼って記事の担当者の方にお会いして、「諦めずに発信するのが大事」というアドバイスをいただきました。

アドバイスを受けて、全国各地の営業店はもちろん、本社の関連部署にも動画活用を促すメッセージを発信し続けました。そして、それ以降徐々に動画を制作したいという部署が増え、1年間で400本の動画が制作されるようになりました。

前田:1年で400本という本数は凄いですね。ここまでうかがったお話を、プロジェクトの諸要素の関係性を可視化・構造化するツール「プ譜」を用いて表現すると、下図のようになります。

類似した目標や勝利条件を持つプロジェクトは多くあります。そのようなプロジェクトを実行する人にとって、どのような中間目的の設定が効果的なのかといったことを考える際に、今回の動画プロジェクトの考え方はとても参考になると思います。

【後編】はこちら

損害保険ジャパン
IT企画部 企画グループリーダー
遠山岳志氏

IT運用・基盤・アプリ開発、および2度の会社合併によるシステム統合のPMOなどを経て、現職。全社の「働き方改革」を支えるソリューション(モバイル、チャット、SNS、動画、Web会議)の導入に携わり、現在は「Withコロナ」の対策と共に「アフターコロナ」「アフターデジタル」をテーマに中長期的なIT戦略立案を担当。

 

損害保険ジャパン
IT企画部 計画推進グループ
河口晃一郎氏

一般営業部門、グループ会社のシステム会社出向を含むシステム部門を経て、現職。
本社ビル内のネットワーク整備、次世代に向けたオフィスレイアウト変更、デジタルツールを駆使したオフィスインフラ改革(Web会議ツール、1Rollを始めたとした動画作成ツール)を担当し、当社のデジタルトランスフォーメーション施策を担っている。

 

損害保険ジャパン
IT企画部 計画推進グループ
宇津木奈央氏

営業推進部門・法人営業部門で自動車関連企業の営業担当を経て、現職。IT活用・デジタルトランスフォーメーションをキーワードに社内外のコミュニケーション改革、社員や職場が抱える課題解決、働き方改革等の企画を担当。

 

前田考歩氏

自動車メーカーの販売店支援兼グリーンツーリズム事業、映画会社のeチケッティング事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントを行う。子どもの探究心を育む「なんで?プロジェクト」、企業のイベントやセミナー設計のための共通言語をつくる「イベントモジュールプロジェクト」などを主宰。宣伝会議では、「プロジェクトマネジメント基礎講座」、「web動画クリエイター養成講座」、「提案営業力養成講座」などの講師を担当。

 

対談バックナンバー
プロジェクトは発酵させよ!「発酵文化人類学」の著者が語るその意外な共通点とは(2018.05.22)

今の時代に求められているのは「ものさし自体のクリエイション」である(2018.06.01)

「マニュアル」を捨て「レシピ」を持とう(2018.06.11)

プロジェクトのようにドキュメンタリーを撮り、ドキュメンタリーのようにプロジェクトを進める(2018.07.17)

「子育てプロジェクト」はキャリアアップのチャンス【マドレボニータ・吉田紫磨子×前田考歩】(2018.08.22)

「物語」はプロジェクトを動かす原動力になる(2018.09.20)

“最大の効果を出すチーム”は、管理ではなく会話でつくられる【ピョートル・フェリクス・グジバチ氏 前編】(2018.09.27)

結果が出る楽しい会社は信頼関係がつくる(2018.09.27)

日本人には会議を進めるOSがインストールされていない?【ナガオ考務店・長尾彰さん】(2018.10.22)

コミュニケーションは「コスト」ではなく「インベスト(投資)」である(2018.11.8)

子育て経験は最高のプロジェクト管理シミュレーションである(2018.11.15)

仕事を楽しみ、仕事で遊び、「自由な働き方」を手に入れる(2018.11.22)

動画による社内エンゲージメント向上プロジェクトは、どう進んだのか?(前編)(2019.02.18)

動画による社内エンゲージメント向上プロジェクトは、どう進んだのか?(後編)(2019.03.12)

いいプロジェクトとは、次に生まれるものの種が見つかるプロジェクト【安斎勇樹×前田考歩 前編】(2019.03.12)

「答えのない「問い」は、創造的コミュニケーションを生む触媒【安斎勇樹×前田考歩 後編】」(2019.05.30)

「人々の生活や街に溶け込むモビリティをつくる TOYOTA「未来プロジェクト室」の挑戦」(2019.06.4)

「ゲームデザインでもプロジェクトでも、「記録」が役に立つ」(2019.06.28)

APEXはなぜ熱狂的な顧客を獲得できたのか?POLAが実践するコミュニティマーケティングとは【前編】(2019.08.23)

APEXはなぜ熱狂的な顧客を獲得できたのか?POLAが実践するコミュニティマーケティングとは【後編】(2019.09.11)

SDGsプロジェクトの進め方、自社開発切り替えで道が開けたLIMEX(2019.12.23)

プロジェクトチームの作り方を変え新規客を獲得、キヤノンの手のひらサイズプリンターiNSPiC(2019.12.23)

悩めるプロマネの必読本『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』発売(2020.03.26)

押井 守監督特別インタビュー抜粋。新刊書籍『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』(2020.04.07)

“なりたい姿”を今の仕事と結び付けてキャリアプランを立てる~「プ譜」を使った実践事例とは(2020.04.20)

ホンダ、異色のプロマネが語る。プロジェクト進行に必要な計画3段階、野心のサイズ、プリンシプルとは?【前編】(2020.05.15)

ホンダ、異色のプロマネが語る。プロジェクト進行に必要な計画3段階、野心のサイズ、プリンシプルとは?【後編】(2020.07.07)

1 2
この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ