ネット広告はテレビ広告を超えたけど、ネットメディアはマスメディアを超えたのか?

ネット広告は伸びたけど、ネットメディアは伸びているのか?

今年、「ネット広告がついにテレビ広告を超えた」ことが話題になりましたね。グラフにするとこんな感じ。1985年から2019年までのテレビ広告費(地上波のみ)と新聞広告費、そしてネット広告費の推移です。このグラフは電通が発表した「日本の広告費」をもとに作成しています。

 
グラフにすると、テレビ広告費のダダ下がりぶり、ネット広告費のうなぎ登りな勢いがよくわかります。2000年代半ばに突如姿を現したネット広告が、ついにテレビ広告を完膚なきまでにたたきのめした。そんなグラフです。

コロナ禍がきた今年、このグラフはどうなるでしょう。2008年から翌年にかけてのリーマンショックでテレビと新聞広告はガクンと下がった。今年も同じような、いやそれ以上のダウンに見舞われるでしょう。ネット広告もさすがに踊り場状態になるかもしれない。でもリーマンショックの後にネット広告が新聞広告を抜き去ったのと同様、コロナ禍が明けた時にはネット広告がテレビ広告を完全に抜き去ってしまうのでしょう。もうテレビが王様だった時代は終わりです。これからはネットの時代。完全にそうなりました。

ただね、これはあくまでテレビとネットを広告費で比べたら、という話なんですよ。

ネット広告がテレビ広告を抜いたのなら、ネットメディアがテレビメディアを凌駕したように思うじゃないですか。でも、そうなんでしょうか?

電通さんは今年、去年のネット広告費をいくつかの切り口で分類した数字も発表しています。まずは、「広告種別広告費」です。

 
いちばん大きいのは「検索連動型広告」で6683億円もあります。前年より17%も増えています。次に大きいのが「ディスプレイ広告」で5544億円ですが、前年の5638億円から減っています。これだけイケイケの市場で減っているってビックリ!次が「ビデオ広告」で3184億円、これは前年が2027億円でなんと57%増です。

「検索連動型広告」はもちろん、ほとんどGoogleもしくはYahoo!ですよね。ディスプレイ広告はブランドパネルやバナー広告、ビデオ広告はYouTubeがかなりのシェアを占めつつ、様々な動画広告枠といったところでしょう。

そうするとね、ネット広告だけどそのかなりの部分は検索サイトやYouTubeの広告なんだなとわかります。メディアの定義は難しいけれど、Googleや検索サイトとしてのYahoo!、そしてYouTubeはメディアなのか微妙ですよね。プラットフォームといったほうがいい。いや、これらもメディアの一種だと言う人もいますけど、普通はGoogleやYouTubeはプラットフォームで、新聞やテレビのようなメディアとはちがうものと捉えられますよね。

ようするにですね、ネット広告は伸びたけど、ネットメディアは伸びたのかな、伸びたとは言えないんじゃないかな、と言いたいわけです。実際ですね、これは新著でも触れたことですが「7大プラットフォーム」という言い方があります。代理店のネット広告担当者がその出し先をプランニングする際、Yahoo!・Google・Twitter・Facebook・楽天・Amazon・LINEの7つのプラットフォームを主に使うのだそうです。まず7つをどう使うかを考え、あと残りをどうしよう、という順番。7大メディアではなく、プラットフォーム。

その昔、「朝毎読」という言い方がありました。「チョウマイヨミ」と読みます。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の3つをまとめてこう呼ぶのですが、新聞広告を打つならまず「朝毎読」で全部打とうとか、予算的に読売に絞ろうとか、いや日経も加えようとか、そんな議論をしていた。それと似てるけど、ネットでは新聞のようなメディアではなくプラットフォームが広告展開をする場になりつつある。

ネットはテレビに勝ったけど、メディアに絞ると勝ったとは言えない。それがいまの状況なのでしょう。

そもそもネット上でメディアとして優位な存在ってあるのでしょうか。新聞のネット版はちっとも勝ってない。目にする時はYahoo!内の記事として、が多い。「ハフィントンポスト」はどうでしょう?「BuzzFeed」は?さらに、ひところあれだけたくさんあった新興のネットメディアはどうしちゃったんでしょう?バイラルメディアなんて呼ばれて、星の数ほど登場したネットメディアは見なくなってしまった。どれもこれも、星くずとなって消えてしまいました。

ネットにメディアとしての勝者はいないんです。その意味では、テレビだけでなくすべてメディアというものが、ネットの時代に敗北を喫しつつある。それが現状ではないでしょうか。

するとこのまま、メディアと言える場がなくなってしまうのでしょうか?天然記念物のように、山奥の清いせせらぎだけにひっそりと暮らすのがメディアだ。そんなことになっちゃうの?

そうではないはずです。今だってYahoo!のトピックスにニュースが飛び交うことでネットコミュニケーションが回っています。ネットでも人を動かすエンジンはコンテンツなのです。コンテンツを作って送り出し、それによって収益が成り立つ仕組みが結局は必要になるはず。ただそれが、今とは違う形になるのだと思います。

ひとつの例として「Choose Life Project」という一種のメディアあります。テレビ報道の現場で働く人たちが集まって作る報道コンテンツを主にYouTubeで送り出しています。例えば先日の東京都知事選挙で、ついにテレビ局は候補者の討論会をやりませんでした。様々な状況から地上波テレビは政治にかかわる報道がやりにくくなっています。「Choose Life Project」は地上波テレビができなかった討論会をネット上で生配信したのです。

 
彼らは本格的に活動をするためにクラウドファンディングを行ったところ、目標金額800万円に対して1700万円も集まりました。メディアの運営としても新しい形になるかもしれません。実は硬派なコンテンツを求める人びとが一定数いたと言うことでしょう。「Choose Life Project」の事例だと硬派すぎるかもしれませんが、別の方向でも似たことはできそうです。

次ページ 「ブランディングの基盤をつくる場としてのテレビをネット上につくる」へ続く

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境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

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