ブランド「戦略」不在 、「戦術」だけのブランドづくりの大罪

ブランドづくりに戦略が必要な理由

仮に1兆円の広告予算があれば、日本国民全員があなたの企業や商品を「知っている」状態にすることは可能でしょう。でも皆さんも巨額のお金を使って、日本人全員に企業・商品を「知っている」レベルにすることには意味がないと、直感的に思うのではないでしょうか? そうです。そもそも日本国民全員に、あなたの企業や商品を「なんとなく好き」になってもらう必要など、ないからです。

このたとえは極端ですが、ブランドづくりの「目的」やブランドの「定義」がきちんとできていても、「戦略」がなければ、このような意味のないことをやらかしてしまう。
だからこそ戦略が必要なのです。

ちなみに「戦略」という言葉も、「ブランド」と同様に、何となくかっこよく聞こえるので、定義がはっきりしないままに乱用されています。みんなが異なる意味で「戦略」と言っているわけですから、注意が必要です。「戦略」という言葉もきちんと定義する必要があります。

「戦略」の定義は、「目的達成のための資源利用の指針」です(尊敬するマーケターの音部大輔さんの定義。私も長い間よくわからないままに、「戦略」という言葉を使っていましたが、この定義を知ってから「戦略」の意味が明確になりました。ブランド実務者は音部さんの著書を読まれることを強くお勧めします)。

ブランド戦略とは、「ブランド」づくりにおける「目的達成のための資源利用の指針」となります。そして、その指針づくりのために、実務者がやることは
①ブランドづくりの目的をはっきりさせること、
②資源(人・モノ・金)がどれだけあるのかをはっきりさせること
③何をやるのか、そして何をやらないのかをはっきり決めること
の3つです。

ブランドの教科書のブランド戦略が使えない理由

ブランドの教科書のブランド戦略が使えない理由についても、説明しておきます。この連載でずっと言い続けてきたことであり、大きくは2つです。

ひとつめは
ブランドの教科書でブランドづくりに取り組むと、ブランドの定義があいまいで、目的もあいまいなままになるからです。そのため、「ブランドづくりに取り組む」という手段が目的になりがちです。「ブランドづくりに取り組む」ことさえすれば、目的は達成されるため、戦略など必要ありません。このような〝目的があいまい“で、〝戦略不在“の「ブランドづくり」では、もちろんブランドはつくれません。当然、失敗します。

もうひとつは
「ブランドづくり」の目的をスーパースターブランドの定義にもとづいて「約束づくり」と誤って設定してしまうからです。「現在のブランドを、目指すブランドである『約束』へ進化させる」。

この場合①の「目的」は、はっきりしているのですが、そもそも私たち凡人の企業・商品では絶対に達成できない目的なので、どうすれば達成できるのかがわかりません。

そうなると②の「資源」が明確になっていたとしても、③「何をやるべきか、何をやらないのか」をはっきりと決めることができず、どうやってやるのかの戦術しかつくれないのです。そしてやはり、ブランドはつくれません。詳しくは、実践編第2回を参照ください。

これでは「目的達成のための資源利用の指針」をつくることはできないのです。

 

次ページ 「実務者のためのブランド戦略のつくり方」へ続く
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片山 義丈(ダイキン工業 総務部/広告宣伝グループ長/部長)
片山 義丈(ダイキン工業 総務部/広告宣伝グループ長/部長)

1988年ダイキン工業入社、総務部宣伝課に配属。1996年広報部 広報担当、2000年広報部広告宣伝・WEB担当課長を経て2007年より現職。業界5位のダイキンのルームエアコンを一躍トップに押し上げた新ブランド「うるるとさらら」の導入や、ゆるキャラ「ぴちょんくん」ブームに携わる。現在は 統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)による企業ブランド構築、マスとデジタルのB2C商品広告展開、広告媒体の購入、グローバルグループWEB統括を担当。日本広告学会員。

片山 義丈(ダイキン工業 総務部/広告宣伝グループ長/部長)

1988年ダイキン工業入社、総務部宣伝課に配属。1996年広報部 広報担当、2000年広報部広告宣伝・WEB担当課長を経て2007年より現職。業界5位のダイキンのルームエアコンを一躍トップに押し上げた新ブランド「うるるとさらら」の導入や、ゆるキャラ「ぴちょんくん」ブームに携わる。現在は 統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)による企業ブランド構築、マスとデジタルのB2C商品広告展開、広告媒体の購入、グローバルグループWEB統括を担当。日本広告学会員。

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