ブランド「戦略」不在 、「戦術」だけのブランドづくりの大罪

実務者のためのブランド戦略のつくり方

では、私たち実務者はどのようにブランド戦略をつくっていけばよいのでしょうか?

まず①「目的」と②「資源」がはっきりわかるように、書き出しましょう。ブランドづくりに関係する全員が、目的と資源をしっかりと理解していることはとても重要です。

①ブランドづくりの目的をはっきりさせる
究極の目的は、あなたの商品を日本国民全員が「なんとなく好きなレベル」にまで引き上げることで「あなたの商品のお金儲けを最大化すること」となります。

②資源(人・モノ・金)がどれだけあるのかをはっきりさせる
ブランドづくりに取り組むことができる人は、何人くらい存在しているのでしょうか?
ブランドづくりにお金はいくら使えますか?(50万円、5億円と案件によってそれぞれ異なると思います。)あなたには、いつまでに成果を出すことを求められていますか?
使える資源(人・モノ・金)には限界があり、十分すぎることなど絶対にありません。きちんと認識をしましょう。

これら①「目的」②「資源」を踏まえて
③何をやるのか、そして何をやらないのかをはっきり決めること
に取り組みます。

ここでは、実務者ブランドの基礎である階層図を使います。

この階層図を掘り下げていくことで、③「やることと、やらないこと」を決めるのです。

そもそも、あなたがブランドづくりをしようとしている商品のターゲットは誰ですか?
あなたが担当する商品が、アンチエイジングの化粧品だとしましょう。
間違いなく、ターゲットは日本国民全員ではありません。
お金も人も十分ではないのですから、ターゲットをはっきりさせませしょう。
では、ざっくり日本国民の女性としましょうか(男性だって買ってくれる可能性があるからと未練を残してはいけません)。
これだけで③何をやるのか?何をやらないかにおいて、「男性に対しては、ブランドづくりはやらない」が決まります。

もちろん現実には、こんなざっくりしたものではまったく不十分です。

ほとんどの場合、資源(人・モノ・金)は少ないですから、日本国民の全女性に対してブランドづくりをするお金などありません。もっとやらないことを決めないとブランドづくりはできません。

次にやることは、あなたの商品が日本国民の全女性から見て、どのようなブランドとして存在しているのかを把握することです。階層図の5つのレベルに、各々どのくらいの人がいるかを把握します。

■階級別のターゲットの人数(仮)

わかりやすくするために、仮に日本国民の女性が1万人いると置き換えた場合

1万人の中で9000人は、あなたの商品の存在を知りません。
900人は、商品名をなんとなく知っているだけです。
90人が、商品について嫌いではないと思っています。
9人が、商品をなんとなく好きだと思っています。
そして1万人の中で、たった1人ですが、あなたの商品を超好きな人がいる、
とします。

この階層図では、上の方の階層の人数が増えれば増えるだけ、より儲かるようになります。

つまり、
A:レベル1(知らない)人をレベル2(知っている)人へ変化させることでも、
B:レベル2(知っている)人をレベル3(嫌いではない)人へ変化させることでも、
C:レベル3(嫌いではない)人をレベル4(何となく好き)人へ変化させることでも、

すべて、ブランドの価値が上がり、そしてより儲かることにつながります。

すなわち①の目的を達成するためには、A・B・Cの3つの方法があり、すべて正しい方法なのです。

すべて正しい方法ですが、ここまで具体的になってくると
A・B・Cの3つを同時に実行するには、お金や人や時間が足りないことが見えてくるのではないでしょうか?

だから
③何をやるのか、何をやらないのか?を決めるのです。
A・B・Cの3つのどれをやるのかを明確にする必要があります。
それを検討して勇気をもって決めるのが、実務者の仕事です。

判断する基準は様々です。
Aに取り組むにはお金が足りないのであれば、Aをやるべきではありません。
さらに短期的な成果が求められているのであれば、残るB・Cの中で成果が出るまでに一番時間がかからないと思われる方を、選ぶ必要があります。

Bの方が、短期的な成果が得られるとすれば、Bを優先して取り組みます。同時に、A・Cはやらないことも明確にするのです(やることを決めること以上に、やらないことを決めることが何よりも重要なのです)、
Bの「知っている人を〝単に知っているけど何のイメージもない“状態から、〝嫌いではない”イメージ」をもってもらうことに注力することになります
(そして①の目的を、「嫌いではないイメージ」に引き上げることで「あなたの商品のお金儲けを最大化すること」に修正します)。

繰り返しになりますが、A・B・Cのすべては正しい方法です。そこから最善の方法を探すだけと言えます。世の中には戦略が不在なために、なんとなくA・B・Cのどれなのかわからないあいまいな施策に取り組んでいたり、場当たり的にA・B・Cを個別に取り組むブランドづくりが多くみられます。

戦略をつくることで、しっかりと着実にブランドをつくることができるのです。

次回は、ブランド戦略が決まった後、戦略をどのようにコミュニケーション施策へ展開していくかになります。

【次回コラム】「そもそもブランドはどうやってできる? ブランド戦略におけるコミュニケーション施策のつくり方」はこちら

本コラムの前編「ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論」は、こちらよりご覧をいただけます。

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片山 義丈(ダイキン工業 総務部/広告宣伝グループ長/部長)
片山 義丈(ダイキン工業 総務部/広告宣伝グループ長/部長)

1988年ダイキン工業入社、総務部宣伝課に配属。1996年広報部 広報担当、2000年広報部広告宣伝・WEB担当課長を経て2007年より現職。業界5位のダイキンのルームエアコンを一躍トップに押し上げた新ブランド「うるるとさらら」の導入や、ゆるキャラ「ぴちょんくん」ブームに携わる。現在は 統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)による企業ブランド構築、マスとデジタルのB2C商品広告展開、広告媒体の購入、グローバルグループWEB統括を担当。日本広告学会員。

片山 義丈(ダイキン工業 総務部/広告宣伝グループ長/部長)

1988年ダイキン工業入社、総務部宣伝課に配属。1996年広報部 広報担当、2000年広報部広告宣伝・WEB担当課長を経て2007年より現職。業界5位のダイキンのルームエアコンを一躍トップに押し上げた新ブランド「うるるとさらら」の導入や、ゆるキャラ「ぴちょんくん」ブームに携わる。現在は 統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)による企業ブランド構築、マスとデジタルのB2C商品広告展開、広告媒体の購入、グローバルグループWEB統括を担当。日本広告学会員。

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