ブランド戦略をどのようにコミュニケーション施策へ展開するのか?
この基本をしっかりと押さえた上で、ブランド戦略をコミュニケーション施策へ展開することが大切です。前回、ブランド戦略とは「ブランド」づくりにおける「目的達成のための資源利用の指針」であり、以下の3つをはっきりさせることが必要であると述べました。
その3つとは、①ブランドづくりの目的、②資源(人・モノ・金)がどれだけあるのか、③何をやるのか、そして何をやらないのかです(詳しくは、実践編第7回を参照ください)。
戦略づくりではっきりさせた『目的』を達成するために、まずは基本に基づき、接点を限定することなく、あらゆる接点において、何をすべきかを検討します。あらゆる接点において、必ず最小限の施策に取り組みましょう。同時に、目的達成のためには、どの接点が最も効果が高いのかを考えます。そしてその効果の高い接点に最大限の資源(人・モノ・金)を使うのです。
また第7回の戦略づくりの記事では、実際に考えられる戦略の選択として以下の3つを紹介しました。
A:あなたの企業・商品を『知らない人』を『知っている』へ変化させる
B:あなたの企業・商品を『知っている人』を『嫌いではない人』へ変化させる
C:あなたの企業・商品を『嫌いではない人』を『何となく好きな人』へ変化させる
今回はAの『知らない人を知っている人へ変化させる』をブランド戦略として選択した場合を例にして、どのようにコミュニケーション施策に展開するかを説明します。
まずは基本である、『あらゆる接点』で考えましょう。
生活者に「あなたの商品を知ってもらう」ために、あらゆる接点において何ができるのかを検討します。
例えば、この商品が消費財であれば、店頭という接点で、“今までよりも多く展示してもらう”こと、“多くは無理なら少しでも目立つ展示してもらう”ことが、目的の達成に有効です(もしBパターンの『知っている人を嫌いではないに変化させる』をコミュニケーション施策に展開する場合は、“店頭の展示で目立つ”ことよりも、“店頭で試供品を配って使ってもらう”ことの方が目的の達成に有効です。戦略が決まり、やるべきことがはっきりすることで、接点において何をすべきが明確になります)。
次に、『知らない人を知っている人へ変化させる』ために、どの接点が最も効果が高いのかを考えます。
おそらく「あなたの商品を知ってもらう」ためには、広告という接点が一番有効です。
「商品名を覚えてもらうため」の広告を実施します。知ってもらいたい人にもっとも届く広告媒体は何か、そこで伝える広告内容はどんなものがいいのかを企画するのです。目的が明快ですから、世の中で多いブランド広告といわれる、かっこいいイメージ訴求の広告をやらかしてしまうことはないでしょう。そもそも商品名が残らない広告では目的が達成できません。商品名をでかでかと表示した看板・チラシや、商品名連呼のテレビ広告の方が効果的です。
だからといって、面白おかしさを売りにした社名連呼広告が適しているかどうかは、あなたの企業・商品におけるブランドの土台が、どのようななものかで変わります。広告は、ブランドの土台である「アイデンティティ・プロミス・パーソナリティ」が反映された表現でなければいけません。パーソナリティが「知的で誠実」なら、「知的で誠実さ」を感じるものでなくてはなりません。インパクト重視の単に悪目立ちする社名連呼広告では、あなたの商品から生活者の受け取る情報の一貫性が損なわれてしまいます。
ブランドの土台となる「①ブランドアイデンティティ(存在価値)②ブランドプロミス(約束)③ブランドパーソナリティ(人格・個性)」を反映し、あらゆる接点において、一貫した情報を発信する。そして戦略で決めた目的を達成するために、あらゆる接点において何をすべきか検討し、もっとも有効な接点に資源を投下することが、実務者がとるべきコミュニケーション施策への展開なのです。
次回は、いよいよ実践編の最終回となります。今回の実践編の総まとめと、いままでお付き合いいただいたブランドづくりに取り組む実務者のみなさんへのメッセージです。最後までお付き合いいただければ幸いです。
【次回コラム】「日本におけるブランドづくりは、いばらの道。だからこそ取り組む価値がある。」はこちら
本コラムの前編「ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論」は、こちらよりご覧をいただけます。