原爆投下から75年の節目を迎えた今年、長崎での平和祈念式典は新型コロナウイルス感染拡大防止のために規模が縮小。被爆者をはじめとする戦争体験者の高齢化が進み、被爆体験の継承は急務でありながらも、活動が難しくなっている。そんな状況下にある今年8月9日、長崎新聞は朝刊をこんなラッピング広告で包んだ。
その表面に描かれたのは、平和祈念式典会場となる平和公園の石畳。裏面には「今年の平和祈念式典は家で行われます。(と、想像してみよう。)」というコピーが書かれている。この新聞を受け取った人は、これを「平和公園の地面」として床に広げ、平和公園にいると想像しながら、その場で黙祷を捧げる。そして黙祷が終わったら、そのときに想像したことを写真や文章で記録してほしい-そんなメッセージを多くの人に投げかけた。
「今年は75年の節目の年でありながら、コロナウイルスの影響で継承活動に思うように取り組めない状況にありました。しかしこのような状況だからこそ、核兵器の問題を身近な問題として、考えてもらう機会にできるかもしれない。被爆者の方々や、被爆2世・3世・4世、長崎に住む『当事者』だけでなく、非当事者の世代や長崎県外の方々にも8月9日のことを知ってもらい、思い出してもらいたいと思いました」と話すのは、この新聞広告を企画した電通 コピーライター 鳥巣智行さん。
また会場に行けない人、長崎新聞を手に入れられない人もいることから、特設サイトからのPDFのダウンロード、またセブン-イレブンの店舗でプリントアウトもできるようにし、全国どこからでもこの試みに参加できるようにした。
自身が長崎の被爆3世で、かねてより地元長崎を中心に平和活動に取り組できた鳥巣さんは、最近では平和学習キット「Peace Games」を開発し、ワークショップも実施している。
「人種差別の問題や、インターネットでの誹謗中傷の問題、気候変動の問題など、2020年は多くの社会課題が表面化した年となりました。こうした『現在世界の多くの人が直面している課題』と『核兵器の問題』の共通点にフォーカすることで、75年前の出来事を『現在の問題』だと捉え直してもらい、現在の社会課題解決のヒントになることを感じてもらいたい。そう考えて『想像力』をテーマにした原稿を制作するに至り、アートディレクターの江波戸李生さんが原寸大の地面を届けるアイデアを考えました」と話す。
当日はこの企画に対する称賛の声が多く寄せられた他、家族でこの石畳の上に立った人、出勤前に黙とうをささげた人、遠いところから黙とうをささげた人、長崎県民ではないけれど参加した人など、「#8月9日に想像したこと」というハッシュタグと共に、SNSには多くの足元の写真が投稿された。
「犬や猫、海外在住の方、サッカー選手やマスコットキャラクター、そして0歳の赤ちゃんから92歳の被爆者の方まで、本当に様々な方にご参加いただきました。想像力があれば1枚の新聞紙が平和公園になる。目に見えない1万3000発の核兵器を想像することだってできるはずです。核兵器のような抑止力に頼るのではなく、相手を思いやる想像力でバランスをとる。そんな世界であってほしいと思います」(鳥巣さん)。
長崎新聞では8月9日に投稿された写真やテキストをまとめて構成し、9月21日の世界平和デーに事後報告として掲載する予定だ。
- 企画制作
- 長崎新聞社+電通+電通九州長崎支社
- スーパーバイザー
- 福岡一磨(長崎新聞社メディアビジネス局)
- C
- 鳥巣智行
- AD
- 江波戸李生
- D
- 鑓田佳広
- D+I
- 高坂さくら
- 撮影
- 山頭範之
- PR
- 高村正信