コミュ障だった少年がラジオの帝王に、「スレスレのところを来ただけ」(ゲスト:吉田照美)【中編】

「俺はもうダメかもしれないな」と思った文化放送新人時代

吉田:みのさんは、とにかくすごい人でしたから。「ああいう人じゃないと、この世界無理だな」って。受かってからまたそこで地獄を味わうんですけど。

その年の男のアナウンサーは僕ひとりで、女のアナウンサー5人。女のアナウンサーは大きい番組のアシスタントにすぐつけるんですけど、僕は全然そういう場を与えられなくて、短いスポットニュースとか。あとは番組と番組の間にコマーシャルが入った後、空いている時間を“ステーションブレイク”って言うんですけど、そこで生で「今日は暑い1日でしたけど、どんな風にお過ごしでしたか?」なんて喋る仕事しかやってなかった。1年くらい経ったとき、廊下歩いていたら、先輩のディレクターだか一般職の営業の人か分かんないんだけど、「おお、ヤマモト君元気か?」って……。名前覚えてもらってないんですよ。

一同:ハハハ。

吉田:もう、これすごいショックでした。「僕、こんなに存在薄いんだ」って思って。アナウンサー試験に受かって入ったとき、デスクの人から「3年経ってもモノにならなかったらほかのセクションに異動になっちゃうから頑張れよ」みたいなことを言われていて。とにかく3年がひとつの節目だからって。「3年過ぎて、次また3年」と言われていたのが、ずっと恐怖の言葉でね。「俺はもうダメかもしれないな」みたいなのは、ずっとありましたよね。

中村:それから『てるてるワイド』ですかね。

吉田:そんな短いニュースや“ステブレ”とかをやっていたとき、たまたま『夕焼けワイド』っていう番組がありまして。そこで僕の大学時代の先輩でもある人が、軽妙な、それこそ僕がちょい前にやっていたようなバカなことをやって結構ウケてる時代があったんですよ。

「ああいうのやれたらな」なんて、遠い目で見ていたんですけど、その人が富山県出身の人で、家の事情で帰んなくちゃならなくなったって、そこに空きができまして。それが2年目の後半くらいかな。その仕事が僕に振られたんですよ。それは、すごくありがたかったです。

だから、結局はスレスレのところをただ来ただけっていうね。会社人は与えられたことをどうやっていくか、ということしかないから。やっぱり職種は違っても、サラリーマンの人ってみんな同じような感じなんじゃないかなって思いますけどね。

澤本:当時はサラリーマンだっていう意識はあったんですか?

吉田:ありました。だってアナウンサーとして入っているけど、ほかのセクションに行っちゃうわけだから。「会社員なんだな」っていう感じですよね。

中村:そうか。別のセクションって、アナウンサー以外の。

吉田:そう。だから営業に行ったり、事業部に行ったりとか。

中村:確かに、それは覚悟が必要ですね。

吉田:ディレクターになる人もいるしね。そういう意味では、今はアナウンサーっていうのは、ちょっと変わってきちゃいましたよね。

放送局はどこもそうなんですけど、アナウンサーって派手な仕事をやっているから、ほかの人たちと比べると、ちょっと軽視されている感じはありましたね。先輩ですごい番組をやっていた人なんかがいても、ほかのセクションにいったりすると、「元アナウンサーは使えねえな」って。同じ職場の人が陰口を言うのを聞きたくないっていうね。「あっ、そんなこと言うんだ」みたいな。それはずっと引っかかっていましたよね。そういうのは、ひとつ辞める理由になったかもしれないですね。

中村:3年目あたりに背水の陣で臨んでから、どんどんヒットを飛ばせられて……。

吉田:いやいや、ヒットは飛ばせられないんですよ。『セイ!ヤング』っていう、最初にやった深夜放送もヒットしていないですからね。それでバカなことをやって褒められたっていうのが、僕のなかではひとつの勲章になって、後になってみるとそれは大きかったと思うだけで、当時は大したことなくて。

『てるてるワイド』は当たったけど、3年間はトップでも、その後に2番になるとあんまり意味ないんですよね。やっぱり1番が強くて。そうすると、「局アナでいる限りはほかに行っちゃうのかな」っていう気持ちが生まれてきて。そうこうしているうちに、結局辞めちゃうわけだから。僕はね。

辞めてからも、やっぱり番組は1番を取らないと。なんでもそうですけど、永久に続いている番組はない。けど早く終了が告げられることはあるわけだから。やっているうちに、「そういうもんだな」って耐性はできてきますけれど、あんまりウケようと思わない方が、逆にいいような感じがしますよね。ウケることを考えて、下心的な形になると、聞いている人にも分かる感じがします。ひたすら、自分たちが面白いって思うことをやっていく方が、正しいような気がしますね。

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