コミュ障だった少年がラジオの帝王に、「スレスレのところを来ただけ」(ゲスト:吉田照美)【中編】

考えられたメディア露出作戦「東大合格発表での胴上げ」

澤本:『セイ!ヤング』をやられたときに、東大に行っていたとか。色々と……。

吉田:そうですね。僕がやったバカなことのなかでも、あれをやったことによって今の僕が存在するくらい、結構デカい出来事ですね。あれを今やったら、たぶん局アナは辞めなくちゃいけなかっただろうし、今こんな風にマイクの前には立っていないと思いますね。

中村:あれですよね、1次試験の合格発表に。

吉田:そうです。僕は受験生でもないのに、東大の赤門の前の合格者の発表に並んでいるわけですよね。それで合格者の番号が書かれた板がセッティングし終わったら、真っ先に駆けていって、自分の受験番号なんてないんだけど、探すフリをして「あったー!」って叫んで、スタッフに胴上げされると。そうすれば、確実にテレビとか新聞が撮るから、それに乗っかることが目的だったんです。

その頃の深夜放送はタモリさんの『オールナイトニッポン』が圧倒的で。『セイ!ヤング』は同じ曜日だったんで、深夜放送をやれた嬉しさと反面、「これはもう地獄だな」と。勝てるわけがないから。「じゃあ、どうすればいいのかな」っていうと、そういうことしかなかったんだよね。

一同:ハハハ。

吉田:他の媒体に乗っかって、少しでも自分の名前とか顔を覚えて貰おうという行動の、一番最初ですかね。そうしたら、結構うまくいっちゃったんですよね。胴上げなんて、ほかにそんなに派手にやっている人いないから、テレビカメラの回っている音も聞こえるし、フラッシュもどんどん焚かれているわけですよ。

ただ、インタビューされたら嘘はダメじゃないですか。だから、インタビューされたら、「すみません、僕は受験生じゃないんです。ここにただ胴上げされるためだけに来た人間です」って言う、その心づもりでいたの。そうしたら、誰もインタビューに来る人いなくて、内心ほっとしましたよね。「ああ、よかったな」って。

その日は大したニュースがなかったみたいで、夜7時のニュースで、西沢(祥平)さんっていうメガネをかけた強面で、頭がちょっと薄くなっているアナウンサーの方が、「まずは今年の東大の合格者の喜びの風景からご覧ください」って、僕が胴上げされてる映像が流れて……。ほかのテレビ局でも。

東大生もラジオを聞いていたりしてくれて、真偽は確かじゃないんですけど、その年の東大生の卒業アルバムに僕が宙を舞っている写真が載っているという情報が来たり。でも、これは賛否両論すごかったんですよ。やっぱり面白かったという人と、受験生がいる真面目な場でふざけたことをやるのは不謹慎だという人で、真っ二つに分かれて。

そのままなら不謹慎で終わっていたと思うんですけど、救いの手が2つあってね。まずは読売新聞の小さいコラムだったんですけど、たぶん新聞記者の方だと思いますが、「今年の東大合格者の発表で、吉田という若いアナウンサーが、こういう行動をして、とても面白かった」と書いてくれて。なんで面白かったかというと、「とかくマスコミというのは学歴偏重主義はよくないと。どこの大学とか関係ないよ、とか言っているくせに、合格発表と言うとみんな東大に押しかける」と。そのあたりを皮肉っていて面白かったと。そんな、全然皮肉ってるつもりないのに(笑)。

一同:ハハハ。

吉田:ただ、映りたかっただけなんだけど、褒めてくれたっていうね。

あと、当時は永六輔さんが土曜日に長いラジオをやっていたんですね。そのなかで「隣のラジオ局の吉田っていうアナウンサーがこういうバカなことをやって面白かった」って言ってくれたんですね。永さんが褒めてくれたというのは、何よりもの影響力で、その2つがあったんで、「吉田はすごい面白いことをやった」となっちゃったんですね。

『セイ!ヤング』という深夜放送はそんなに数字はいかなかったんですけど、「こういうバカなことをやるんで」っていうことで、『てるてるワイド』っていう、次の番組が来たんだと思いますけどね。

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