企画に参加しない理由はリスナーと“共犯者”になるため
澤本:今のユーチューバーに近いですね。
吉田:近いですね。あとは、今でもやりたくなかった最悪なのは、帝国ホテルのすごい立派なレストランのテーブルの下でメシを食うっていう。
一同:(笑)
吉田:これは、本当にやりたくなかったです。マジで。だって、完全に隠しマイクですからね。しかも、音がとれたとしても、ネタばらししたら放送できないじゃないですか。「そんなこと困ります」って言われたら、放送できなくなっちゃうから、ダマテンですべて完全犯罪でやらないといけないわけで。
当時は録音も、デンスケ(録音機)だったか、カセットテープだったか分かんないんですけど、録音時間もそんなにとれないようなキャパシティのものしかなくて。僕がひとりで行って、離れた席にいる2人連れのスタッフが電波を受けて、録音をとるみたいなね。そういう感じだったんです。
単なる危ない人にはならないように、設定もあってね。まあ、危ない人なんだけど。僕は「自分のおじいちゃんを新潟地震で失っている男だ」という設定で、「地震には気を付けろ」っていう家訓があると。それで、その日の出かけに母親から、「今日は東の空に地震雲が出ているから、午後2時くらいにたぶん地震が起こるんじゃないかって言われた」っていう。聞かれたら、これを言おうという設定で行ったんですよ。
そうしたら、ああいうホテルって、お客さまに何かあったらいけないっていうんで、常に巡回して目配せがすごいんですよね。
権八:はいはい。
吉田:もう気を遣ってくれて。だから、テーブルの下にもぐろうとしても、目が合っちゃってもぐれないんです。それで10分近く経過しちゃって、録音時間も迫っていて、このままだといい音とれないなって。やりとりをとりたいわけだからね。それが、10分くらいした後に、ホテルのスタッフがどこか他を見ている瞬間にぱっともぐったんですよ。そうしたら、今度は誰も気付いてくれないんですよ。
だから、テーブルの下でひとりでずっとモノローグという……。だけど、3、4分かな。しばらくしたら、「これはおかしい」というんで、見張り始めて、テーブルクロスの隙間でちょうど僕が見ていたら店員さんと目が合って。コツコツって近づいてきて、「お客様どうなされましたか?」って聞くわけですね。
「これこれこういうわけで、ちょっと地震が怖いんで、すみませんけど5分間だけ下でごはん食べさせてください」って言ったら、「分かりました」って。帰りにお金を払うときも、「この人、ウチに帰ったら、『今日変なヤツが来たよ』って言って、僕の顔を思い出すんだろうな」と思うと、もう、すごくつらかったです。でも、僕自身が死ぬほど恥ずかしかったんで、聞いている人は面白く思ってくれた。
中村:そういうのは吉田さんもアイデアを出して決まるんですか?
吉田:作家ですね。僕はアイデア出しには加わらないです。
中村:じゃあ、「これやって」「えーっ!」みたいな。
吉田:「やって」って言われたら、「もうしょうがない、やる」って。そういうつもりでいるんだけど、今のヤツは一番やりたくなかったですね。東大のニセ胴上げよりも、今のヤツの方がやりたくなかったですね。
権八:あれ、銭湯で女風呂に……。
吉田:ああ、今だったら、男を銭湯の女湯の方になんか入れてくれないと思いますけど、僕はパンツ姿で目隠しして、女湯に入っている人にインタビューしたんですよ。
中村:すごいですね。それ、知らなかった。
吉田:知らないでしょ。でも、目隠しだから少し見えているんだよね。今だから言いますけど。
中村:時効。
吉田:時効。そういうこともありましたね。
権八:すげえ面白い。
澤本:打ち合わせのとき、「こういうことをしよう」っていう前提で色々アイデア出しをするんですかね。
吉田:そうですね。作家が、とにかく音で想像できて面白くなるようなものをアイデア出しして、ディレクターがOKするかどうか、ってことだと思うんですけどね。僕は大体、ラジオ番組の会議って出たことがなくて。距離感を持っていた方がいいと思っていて。その会議に加わっていると、僕も考えていたことになるじゃないですか。それって、なんか嘘な感じがするから、やっぱり聞いている人と同じような立ち位置で、自分もいたいっていうね。
だから、くだらないバカなことをやっていると、「この番組はお叱りを受ける可能性もひょっとしたらあるんじゃないかな」みたいなハラハラ感もあって、ラジオを聞いている人との共犯意識みたいなものもあった気がします。
<後編につづく>