本コラムが書籍化されました!
【2022年6月20日発売】
『わたしの言葉から世界はよくなる コピーライター式ホメ出しの技術』
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虫か星の、第一発見者になりたい。
小学三年生のときに、そんなことを思っていました。
よく考えたら虫が苦手で目も悪いので
早々に諦めたのですが、
今ぼくはコピーライターとして
その夢を叶えようとしています。
なぜかというと、
コピーライターは商品や企業の、
魅力の第一発見者だからです。
生活者はもちろん、
その商品の開発者や
企業の経営者ですら気づいていない
足もとにある魅力を、
鬼の形相で発見するのがコピーライターです。
(鬼の形相である必要はないですが)
どうしてかというと、
すでにみんなが知っている魅力を
ちょっと表現を変えてコピーにしたところで、
見た人に鮮やかなインパクトを残すことが
できないからです。
やっぱり、新しいコピーには、
新しい魅力が含まれていてほしい。
魅力の見つけ方は、
コピーライターの数だけスタイルがあります。
ぼくの場合は、
惚れレンズを装着して
観察魔になって
ハッとした瞬間を逃さない。
この、ホメ出しの、
ホップステップジャンプを繰り返しています。
つまり、センスとか天賦の才能ではなく、
ただの意識改革と努力の積み重ねなんです。
だから、だれでもコピーライターになれるし、
だれでもホメ出しができる。
ぼくはそう確信しています。
ちょっと前回の表を出しますね。
「相手にこんな魅力があったんだ!」
というあなたの新発見が、
「私こんな魅力あったんだ!」
と、相手にとっても新発見である。
というパターン①が、
いちばんインパクトが強い。
だけど、いちばん難易度は高い、
という話を前回しました。
でも、不可能ということではありません。
それを先人コピーライターたちが示しています。
例えばこちらのコピー。
名古屋まで2駅
大阪まで3駅
(品川区)
見た瞬間やられた!と思いました。
品川区の魅力は、しなわが水族館や、
品川プリンスホテルのプールなど、
わかりやすいものが山ほどあるわけですが、
「そこ突くか!!!」
という点をついていますよね。
しかも鮮やかな表現で。
コピーライターいい仕事してる!と思いました。
(すみません書いている方がぼくより大先輩の可能性も多分にあるのですがこの場をお借りして予めお詫びしておきます)
落書きをやめると、成績は下がる。
(ショウワノート)
こちらも面白い着眼点!
ノートの魅力を発見してください、
というお題が与えられたときに
なかなかこの視点はでてきません。
新しい魅力をなにがなんでも発見するんだ、
というコピーライターの執着心が見え隠れします。
あとはもうこれ。絶対これ。
愛とか、勇気とか、見えないものも乗せている。
(九州旅客鉄道)
1993年の名コピーなんですが、
まったく色あせないですよね。
大っ好きなコピーです。
鉄道にのって好きな人に1年ぶりに会いにいく、
あるいは親元を離れて都会に上京する。
そんな乗客の愛とか勇気を、
鉄道は確かにのせている。
でも、これって「言われてみれば!」という
魅力の新発見です。
鉄道のコピーというと、
速さとか車内空間の快適さとか、
窓の外に広がる景色のことを
うっかり褒めたくなりますよね。
この3つのコピーのような新発見は
なかなかできるものではありませんが、
好例として自分の中にもっておくだけで、
ホメ出しの精度は上がります。
で、ここからは、
どうやったら魅力の第一発見者になれるかの
極意をいくつかお伝えします。
ポイントは、
捨てる、聴き出す、外れ値をみつける。
この3つです。
まずやるべきは、
観察範囲を狭めることです。
具体的にいいます。
これまでに相手が多く褒められているであろう
ポイントは思い切って捨てましょう。
例えば背の高い男性であれば
「スラッとしてますね!」「スタイルいい!」
と1億回は言われてきています。
顔が整って入れば
「可愛い!」「イケメン!」と3億回は言われているし、
賢い人であれば
「頭の回転が速いですね!」と45兆回は言われているでしょう。
だからこそ、あえて相手にとっての「ベタなホメポイント」は
サクサク除外していきます。
再発見系は捨てて、新発見だけを狙いにいきます。
相手の浅瀬部分をサッと通り抜け、
どんどん深海へと潜っていく作業です。
ベタなポイントはスルーする、
と決めて観察をしていくと、
実に多くの発見を得ることができます。
背の高さにばかり気を取られていた仕事仲間の、
資料をそろえるときの美しい所作に気づくかもしれないし、
頭の回転の速さに目を奪われていた上司の
何気ない瞬間に見せる少年のような笑顔に
ハッとするかもしれません。
相手の新しい一面が、
次々と目に飛び込んできます。
しかし、表面ばかり観察していても
情報量に限りがあります。
だからこそ相手の内面にも
発見を見出すことが必要になってきます。
その人の思想や哲学や姿勢やスタイル。
生き方や在り方。
そうした魅力は、内面に宿っています。
どうやって内部情報を外在化させるか?
聴き出すことです。
「聴くことで、相手の魅力を見える形で外へと押し出す」、
略して「聴き出す」です。
でも堅苦しくなく、できればリラックスした雰囲気の中で。
対話というより、ちょっとした雑談をしながら、
本音ベースで話をする。
これを、ぼくは「発掘雑談」と呼んでいます。
コピーを書くときにも、
経営者や開発者へのヒアリングの場があるのですが、
ここで勝負が決まります。
コピーライターの仕事の9割は、聴き出すことなんです。
ぼくは経験上そう確信しています。
それはホメ出しも同じです。
相手を観察するときに、
聴きながら引き出していく。
例えば、エポックメイキングなエピソードを
発掘するために、
「最近達成感を感じたことある?」
と聴いたり(実際はもっと自然にやりますが)、
「自分って優しいなと思った瞬間は?」
と、相手の感情の傾向を
つかむための質問を投げたり(実際はもっと自然に)、
こだわりや、偏愛、
ときには死生観や宗教観を
聴き出すこともあります。
それは、調査というよりも遊びです。
「面増やしゲーム」です。
相手が多面体だとしたら、
いかに限られた時間で、
新しい面をそこに足していくか。
できれば表面ではなく内面の。
ゲーム感覚で、面を足していくのです。
このときに大事なのは、「違い」を
キャッチすることです。
平均からハミだした外れ値に着目するのです。
つまり、相手が持つ「独自性」に
スポットライトを当てます。
それが一見、マイナスに思えるものでも大丈夫。
すべてのマイナスはプラス転換できます。
そのとき、相対的に、
自分と相手を比較しても良いです。
自分になくて相手にあるものを探します。
すると、
「誰かを傷つけないという強い信念があるんだ!」
「仕事が忙しくても家族第一で考えるんだ!」
と、ハッとする面がどんどん見つかります。
その中で一番ハッとしたもの(新発見である可能性が高いもの)
を褒め言葉として贈る。
褒めは楽じゃない。
むしろ褒めは格闘なんです。
脳が汗だくになります。
でも、地道に戦っていると、
必ず勝利がおとずれる。
そういう格闘です。
そのためには、自分自身の
コンディションを整えたり、
相手を惚れレンズ越しに観察したり、
ハッとした瞬間を見逃さなかったり、
一歩一歩を積み上げていきます。
褒めに近道はありません。
最後に、ぼくが書いたコピーをひとつだけご紹介します。
ブラインドサッカーという、
アイマスクを装着してプレーする
視覚障害者スポーツがあります。
2014年に、日本で世界選手権が開催されたときに、
「見えない。そんだけ。」
というコピーを書きました。
どんな「ホメ出し」をしようか考えたときに、
「頂点を狙え」とか
「仲間を信じて」とか
そういう、いわゆるスポーツ大会のコピーみたいな
ベタなホメポイントは捨てました。
あと、ウェットな24時間テレビのような
訴求点も捨てました。
その上で選手たちと「発掘雑談」をしたのですが、
実に普通なわけです。
おいしい食べ物の話をしたり、
好きな女性の話をしたり。
でも世間からは視覚障害者は
「大変そう」「辛そう」と
勝手な印象を持たれているので、
そのギャップこそが魅力だなとハッとしたんです。
そこで、「そんだけ」という
極力ライトな表現を使うことを決めました。
捨てること、聴き出すこと、外れ値をみつけること。
丁寧に段階を踏んでいくと、
魅力の第一発見者になれるのです。
さて、次回からはいよいよ褒めの
「表現法」についての話をしていきます。
また来週!