【関連記事】「クリエイターが考える、withコロナ時代の交通・OOH — Vol.1「Metro Ad Creative Award 2020」審査員リレーコラム」はこちら
4回目を迎えた2020年のコラムテーマは「withコロナ時代にクリエイターが考える 交通・OOHに贈る期待」。外出が制限され、人々の行動が大きく変化している今、どのようなコミュニケーションが求められているのでしょうか。
本リレーコラムには、「Metro Ad Creative Award」の審査員らが登場。交通・OOH広告を広く、街の魅力を創造するメディアとして捉え、最前線で活躍するクリエイターたちが自身を刺激する都市におけるクリエイティブについて語ります。
第2回は審査員の渡辺潤平氏が担当します。
あらためて振り返ってみると、まだ半年ぐらいしか経っていないんですよね、コロナが社会を麻痺状態に追い込んでから。けれど、それ以前の日々が遠い昔の出来事に思えるほどに世界は変わった。多くの方がそうであるように、今はそのインパクトを消化してついていくのに精一杯という感じです。
コロナは広告づくりをどう変えたのか?正直、全くわかりません。自分の思考や人生観も日々変わっていく中で、理路整然と「これからの広告はこうなる」みたいなことを考える余裕がないというのが本音に近いかもしれません。
ただ、世の中の空気が完全に変わったことは全身で感じます。自分自身をもっと大事にしようとか、家族やすぐそばにいる人を今まで以上に大切にしようとか。かつての日常が覆ったとき、「やさしさ」とか「正直さ」みたいな本能が、人と人とをぐっと強く結びつけるようになったような気がする。広告の作り手として言葉を生み出すときに、そんな世の中の温度や手触りは強く心がけるようにしていますし、そういう感性が欠落した独善的な表現は、これからはますます通用しなくなるのではないかと考えています。
ものを買う感覚も、完全に変わりましたよね。買いものが趣味の僕でさえ、吟味を重ねて最小限のものだけ買うようになりました。いわゆる「withコロナ」と呼ばれる時代に進んだとて、一度身体化されたこの感覚はなかなか元には戻らないのではないかと考えています。そうなると、広告のメッセージに求められるのは、勢いや時代性よりも、納得や共感といった部分が大きくなるのかもしれません。これまで以上に正直であること。丁寧であること。そんなことが今まで以上に求められるような気がしています。
…と、予見めいたことを書き連ねてみましたが、一人のコピーライターとして、目の前に仕事があることに感謝しながら、試行錯誤と一喜一憂を繰り返しつつ淡々と広告を生み出していく。焦ったり欲張ったりせず、世の中と呼吸を合わせて強い言葉を探求し続ける。それが僕なりの「withコロナ」の生き方であると、この文章を書きながらようやく考えがまとまってきました。
人に活力を与えるのは街ですし、街にエネルギーを注ぎ込むのは広告の役目です。街から人の姿が消えたことで、一時的に制作の機会が失われてしまった交通広告も、ここから挽回をしていかなければならない。そのとき、自分の言葉がどれだけ目にした人の心を動かせるか。謙虚かつ大胆に、挑戦を続けたいと思います。
余談ですが、自粛期間中どうしても機材が必要になり、渋谷駅前の電器屋へ出かけたんです。たしか木曜の夕方でした。いつもはうんざりするぐらい人であふれかえる渋谷の街から完全に人が消え、静寂が支配しているのを目撃した瞬間。全身に寒気が走ったあの感覚は、いつまでも忘れずにいようと思います。
第4回「Metro Ad Creative Award」(応募締め切りは2021年1月15日13時)の詳細はこちらから。
渡辺潤平氏
渡辺潤平社 コピーライター
1977年生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、博報堂、groundを経て渡辺潤平社設立。最近の仕事にGYAO!「キンキカイキン!」、関ジャニ∞「完熟新作」、私立恵比寿中学ツアーポスター、B.LEAGUE新聞広告シリーズ、千葉工業大学「求む、宇宙人。」、渋谷パルコ「Last Dance_」、日経電子版「田中電子版」など。京都精華大学非常勤講師。宣伝会議賞中高生部門審査員長。雑誌公募ガイドにて「コピトレ!」連載中。