広告の本来のクリエイティブの力を取り戻すために
このような状況は、広告業界だけでなく広告主にとっても悲観すべき状況です。オーランド氏は、このような現実に対して、改めて広告業界の人間に「マニフェスト」を提案しています。それは、本来の広告の力を信じ、右脳、つまり本来のクリエイティブが持つ長期的な効果とビジネスインパクトをもつ力を取り戻そうという提言です。これは、単に優れたクリエイティブを作るというだけでなく、そのために業界自体を「右脳化」することが必要だという主張です。もしかするとこれは少数派なのかもしれませんが、この提言を信じるものこそが広告の未来をつくることができるように思えます。
■オーランド・ウッド氏が提示した「マニフェスト」
1. 広告業は、作業ではなく技(craft)である。非凡な広告を生み出すためには才能と時間を要する。
2. 広告は審査員のためではなく人々のために作られる。広告に携わる者はそのような人々の好みを知らないといけない。
3. 広告とは、人々が気に入って会話にしたくなるキャラクターや人間らしい状況で記憶に残り知られるものである。
4. 広告とはグローバルよりも、ローカルなものである。なぜならローカルなもののほうが効果的だから。たしかにそれはお金がかかるかもしれないが、それ以上に得るものがある。
5. クリエイティブの仕事の評価は、作り出した広告で得るものだ。それが最高の才能を惹きつける。広告業の経営者は、クリエイティブの価値は「技(craft)」にあり、効
率的な生産性にあるのではないことを理解すべきだ。
6. クリエイティブの仕事からなるべく左脳的なプロセスを遠ざけること。それは創造性を損なう。
7. 広告の仕事には、ブリーフィングから制作までのすべてのプロセスに右脳的な方法を取り入れること。テレビCMのスクリプトが決まったとしても、そこが出発点であって、決してゴールではない。
8. クリエイティブの人間とは長く持続できるようなパートナーシップを育ていく。一つのブリーフで複数のクリエイティブチームでアイデアを競合させたり、専門家集団を設けたり、「イケてる」チーム作りなどは、テックスタートアップの短距離走的なアプローチにはいいかもしれないが、長期にわたってブランドを支えるような基礎がない。
9. 適切に実施しさえすれば、調査は広告がそのオーディエンスにどう意味があるか理解するのに役立つ。クリエイティブの人間にとっては調査が良いガイドとなる。
10. 広告はテクノロジーやあっと驚くような視覚的な効果を歓迎するが、それよりも広告のど真ん中には、人間らしさそのもの、つまり行間の間合い、歴史、土地、音楽、そして比喩やユーモアがあるべきだと信じている。