昨年に引き続き審査員を務める田上智子氏(刀 エグゼクティブディレクター ストラテジックコミュニケーション)、本田哲也氏(本田事務所 代表取締役)に昨年の受賞エントリーを振り返ってもらいながら、今年のアワードの展望について語ってもらった。
企業広報によるインターナル事例に期待
本田哲也:今年のPRアワードは、コロナ禍の影響でエントリー数が減少するのではないかと言われていますが、僕はむしろ増えてほしいと思っています。今年の事例では、当初広告的なコンテンツとして準備していたものが、コロナ禍でそれどころではなくなった時、伝えたいメッセージを今の社会に合わせて出すためには、パブリックリレーションズの視点が入ってくると思うのです。
田上智子:日々、社会が変わっていくのを実感した半年でした。マーケターの人たちも、昨年までは「世の中こうだから、その中でのこのブランドはこう」と考えていたかと思いますが、この半年は、そもそもの社会が変わってきているから、常にPRの人と一緒にやっていくというケースが多かったのではないでしょうか。
本田:ブランドとしてこれは訴えたいが、今はそぐわないとか、言い方を変えるとか、PR的な見立てでやるわけですね。
田上:いろんな部署の人が集まって合議制で物事を決めていく中で、広報の人の声が大きくなったと想定します。
そんな中での今回のPRアワードですが、私は今回、インターナルコミュニケーションのエントリーも多くなってほしいと思うのです。見えないところで、インターナルを頑張った企業広報の方はたくさんいらっしゃるはず。社員へのコミュニケーションから、社長の社内外への発信、広告・新しいキャンペーンへの立ち上げをどうするか──それを、時にブレーキをかけながら、勇気を持って前に進めていった企業広報の、黒子の方々の奮闘記なども、ぜひエントリーしていただきたい。
本田:それこそがパブリックリレーションズなのではないかと思います。コロナ禍になって急にリモートで仕事をするようになった中で、合意形成をしていくとか皆同じ方向を向いて頑張っていく──。そこにはすごいPR力がある。
田上:だから、メディアの露出が少ないからといってエントリーできないとは考えないでいただきたいですね。そうではなく、ストーリーテリングからブランドをつくっていったという事例は昨年の受賞作にもたくさんありました。
本田:昨年のグランプリ、大阪府住宅供給公社の「『住民との共創』で衰退していた団地の未来を変えていく。茶山台団地再生プロジェクト」は、コーポレート・コミュニケーションのカテゴリーでのエントリーでしたが、団地の住民たちが、いろんなグループや属性がある中で、共創して団地の価値を上げていくプロジェクトだったと言えるし、そこにはインターナルに近いエッセンスもある。
田上:一人でエントリーシートを見ている段階では、「これはPRなのかな?」とも思ったのですが、審査員の皆さんのご意見を伺ったり、話をしたりする中で、アマゾンジャパンの金子みどりさん(パブリック・リレーションズ本部 本部長)が、「これぞまさにパブリックリレーションズ!」とおっしゃって、皆が納得した。そうやって様々な領域の専門家が様々な視点で審査をするわけですが、このプロジェクトは、ブランドの再生ということを考え、対話の中でブランドを強化する、その丁寧さ、誠実さ、これからも続いていくという希望があり、素晴らしいと感じました。
本田:インターナルの地味な事例だとしても、PRの専門家が見ると、実はPRでしかなし得ない成果を出していると評価できることがある。皆さんまず、エントリーを諦めるのではなく、一度審査員に預けてもらえたら、と思うのです。