冒頭と最後に感謝の意を述べたバイデン氏
バイデン氏には、好感が持てると感じた大きなポイントがある。バイデン氏は最初の発言時に、冒頭でまず感謝の意を述べた。そして、ディベート終了となり退場する際にも、モデレーターのクリス・ウォレス氏のところまで行き挨拶をしていた(トランプ氏はそのままメラニア夫人と袖にはけていった)。このカオスなディベートの交通整理で疲弊したであろうモデレーターに挨拶をして退出したのだ。
バイデン氏はそのプレゼンスが語った通り、エレガントで大人だった。駄々っ子の仕掛けてきた喧嘩を買う大人はいない。上手にいなす、それも対応の仕方だ。それが証拠に、後半トランプ氏は非常に不調に見えた。
あの手のことを仕掛けてくるタイプは、相手が乗せられて感情的になることを面白がっている。一方、それに引っかかってこない相手が最も苦手で、怒らせて余計なことを言わせ、自分の土俵に引き摺り込み、泥試合にさせようと躍起になる。バイデン氏の対応の仕方は、トランプ氏のやり方を「品位のない行動」として世間に見せつけたわけだ。
強さが足りない、頼りない、声が弱い、そういう意見も非常に多い。確かにそれはそうだ。力強く人々を引っ張っていくリーダー像を求めがちな人々は、そう思うだろう。しかし、筆者はこれもひとつの有効かつスマートな戦い方だったと思う。相手はまともな戦い方はしてこない上に、パワーゲームを仕掛けてくる、それに乗ったら思うツボ、自滅への一途だ。
だったら、それにのらず、正反対のスタンスを保ち、まずは失言しない、マイナスの行動をしない、を徹底し、防御の姿勢を貫くことも全3回のディベートの初回をうまく切り抜けるには大事な方針だったと考える。
攻撃は最大の防御というが、防御は最大の攻撃ともなる。その証拠に、バイデン氏への支持率はディベート前よりもグッと上がった。
バイデン氏の4つの改善点
ただ、彼にもしアドバイスをするとしたら、ポイントは4つある。
1つ目は、スーツは肩の張ったものでなくていいということ(それを着ることで、気持ちがシャキッとするというのであればアリ)。
2つ目は、ポケットチーフは不要ということ。
3つ目は、唇が薄めなのもあるが、唇に少しだけ潤いがあるように見せられたら表情がより若々しくなり、喋る口元の力が出たはず。
そして4つ目は、もっと顔を上げて相手を見ていた方が良かったこと。トランプ氏が喋っている間に、手元のメモを見ているためか下を向いている時がかなりあったからだ。しかし、これも相手のペースに飲まれないように自分に集中する方法のひとつなのであれば、大事な防御法だったかもしれない。
なお、トランプ氏のあまりに酷い妨害に辟易する声が続出したことから、次回のディベートが今回のようになっては困ると、進行の方針も変えるとの発表もあった。
この討論会の直後、トランプ氏がCovid-19陽性となったことが発表された。第二回討論会は米国東海岸時間の10月15日21時からスタートする予定だが、その実施はどうなるかだろうか。選挙までのスケジュールや、選挙自体がどのようになるかも見えてこない。
コロナ禍とはいえ、前代未聞、まさにカオスな今回の米大統領選。様々な憶測も飛び交い、米国永住者としては、何が本当でどこまでが事実なのかもはや分からないというのが正直なところだ。