狭義の日本と広義の欧米 「デザイン」の定義差によるブランドへの影響

「リブランディングしたいので、カッコいいロゴをつくってほしい」。こうして完成したロゴは、ブランドが成長するための武器となりうるのか。ニューヨークでアートディレクターとして活動し、数々の企業のブランディングに携わってきたHI(NY)の小山田育氏が、ブランディングにおける「デザイン」に対する日本と海外のとらえ方の違いを考察する。

月刊『宣伝会議』11月号(10月1日発売)では「意識が変わる、社員が変わる!社内を巻き込む、『CI』の力」と題し特集を組みました。ここでは、本誌に掲載した記事の一部を公開します。

見た目だけのデザインとは? 日本と海外のデザイン定義の違い

日本でブランディングについて話題になるとき「見た目だけのデザイン」という言葉をよく耳にします。

ブランディングはブランドの本質をデザインで消費者に伝わるように表現する経営戦略。企業が経営を行う上で乗り越えるべき課題があり、それをデザインで解決します。

なぜ見た目だけのデザインになってしまうのか考えたとき、ブランディングする順番に問題があると気づきました。

ブランディングにおけるデザインのステップは、①ブランドのビジョンや強みなどの本質を見極め②その本質を整理し概念化し(ブランドDNA)③概念化した本質を体現し(VI:ビジュアルアイデンティティ)④消費者がブランドに触れるすべてのタッチポイントでの世界観をつくり出す(ブランド・コラテラル)です。

日本で一般的に言われる「デザイン」は、この③④の部分にあたります。

欧米では①から始まるすべてを「デザイン」と表現しますが、この概念はまだ日本で浸透しているとは言えません。ブランディングにおいての「見た目だけのデザイン」とは、①②というブランドの土台となる部分を飛ばして、③④、もしくは④のブランド・コラテラル(名刺、Web、内装、パッケージ、広告、販促物など)だけを単発でデザインすること。これでは砂上に城を建てるようなものです。

特に、かつてはブランドの印象を左右するほどの影響力をもっていた広告。広告で打ち出される世界観だけである程度のブランドコントロールも可能でしたが、近年のITの急速な進化とSNSの普及によるタッチポイントの劇的な増加で、広告がブランドに与える影響力は薄まりました。広告はあくまで、多岐にわたるタッチポイントの中のブランド・コラテラルのひとつにすぎない、という位置づけを認識し直す必要があります。

他のコラテラルと同様、①②③でブランドの土台をしっかり構築し、このブランドDNAやVIに沿って、ブランドのLook and feel(印象、雰囲気)を表現することでさらなる広告効果が見込めます【図1】。

【図1】 ブランディングと広告、それぞれへの投資による企業価値の変化

※Millward BrownによるBrand Z Rankingsのデータを基に、筆者作図

見た目以外の部分のデザイン ブランドの本質とゴール

③④のデザインを考えるためのガイドラインとなる②(=ブランドDNA)を構築するためには、①ブランドのビジョンや強みなどの本質を見極めることが必要不可欠です。

日本では①②は、まだデザイン領域として認識されていませんが、この部分の構築なくしてブランドの成長に貢献できるデザインはできません。以前は、世界中の多くの企業が売上という可視化しやすい指標をゴールにブランド戦略の成否を測ろうとしてきました。

しかし近年では、その先の情緒的で可視化が難しい『ビジョン』が最終ゴールとしてあり、そのビジョンの達成をサポートするために企業活動の成功=売上達成がある、という考え方が主流になってきています。これはそれぞれのブランドが達成したいビジョンによって、ブランドの成功の定義が異なるということ。海外ではブランディングにおけるビジョンの重要性が浸透しており日本との企業構造の違いもあるため、会社の規模にかかわらず、すでにビジョンが明確なことがほとんどです。

しかし、日本ではビジョンが明確でなかったり、本当に目指したいこととの間にギャップがあったりといったことが多いので、ビジョンを『引き出す』作業が必須です。それにはブランドオーナーと直接話ができる状況でブランド構築を進めていく必要があるので、必然的にブランドオーナーと共にブランドをつくりあげられる企業構造でないと、ブランドの構築は難しくなってきます。

良いブランドとは、偽りなく長く約束を守り続けるもの。ブランドオーナー個人として目指すビジョンが最終ゴールとしてあり、その線上に段階的ゴールとしてビジネスのゴールがあるべきだと思います。ブランドオーナーとラポール(相互信頼)を築き、傾聴し真摯に話し合い、人生において何を目指しているのかというところから俯瞰して理解し、それをブランドのビジョンへと紐づけていきます。

—本記事の続きは月刊『宣伝会議』11月号(10月1日発売)に掲載しています。

HI(NY)
共同代表 クリエイティブ・ディレクター/アートディレクター
小山田育氏

2008年、渡邊デルーカ瞳とニューヨークにHI(NY)を設立。近年の主な仕事に、米国コカコーラの新商品ブランディング&パッケージデザイン、国連の展示会デザインなど。共著『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』(クロスメディア・パブリッシング)。

 

月刊『宣伝会議』11月号(10月1日発売)
第58回「宣伝会議賞」課題発表号!

 
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〇いま必要なのは、パーパス(存在意義)からの
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  『人間必需品』を提供し続ける
 ヤマハ 山中哲郎
〇「ジョブ」と「雇用」の関係から考える
 顧客体験を起点としたブランドの存在意義
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〇成長を遂げた、ベンチャー企業のトップが考える事業進化と理念
 フラクタ 河野貴伸/フォワード 伊佐陽介
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