今年は全編オンラインでの開催となるが、オンラインになったからこそ日本独自に企画したセッションだけでなく、米国・欧州で開催の「Advertising Week」のセッションの一部を視聴することが可能になる(見逃し視聴は10月末まで可能)。
日本の広告界が議論すべきテーマを参加するボードメンバーが持ち寄り、セッションが企画される「Advertising Week Asia」。アドバイザリーボードのメンバーが今、日本の広告界が向き合う課題、そして希望についてリレー形式で語っていく。
「ダンス・ハマー・ダンス」時代のリアルビジネス – すでに起こった未来への対応
私が電通を卒業してはや20年の月日が流れました。そのご縁から「Advertising Week Asia(AWA)」のアドバイザリーカウンシルをやらせていただいて今回で5回目のAWAをむかえます。現在は富裕層向け旅行業をはじめとする富裕層ビジネスを多角的に展開する事業をしていますが、小売りやイベントなどと並び観光産業においては今般の新型コロナウイルス感染症の影響ははかりしれないダメージをもたらした一方で、それは測らずも古い業界体質の中でデジタルトランスフォーメーションの導入などに否応なく対応するポジティブな環境も生み出しました。
モノが売れない、表現ができない、どころか活動そのものができない、という突然の試練に立たされたリアルビジネスの突破口を見いだすことは困難を極めていますが、どんなことに困って、「いますぐできること」にどのように取り組み始めたか、を総ざらいしておくと
そこで今回は、「新型コロナ感染症でこう変わるリアルビジネス(How to weather C-19 on real business)」と題して、元トヨタ自動車のレクサス事業の部長を務めたマーケティングコンサルタント高田敦史さんにモデレーターをお願いし、ピアニストの横山緑さん、ヴァイオリニストの横山令奈さん、クリスチャンルブタンジャパンGMの多久和肇さん、私の4名でコロナ禍のビジネスについてパネルディスカッションを行いました。
5年ほど前にイモラプロジェクトジャパンの取り組みをメンバーマガジンで紹介して以来、お付き合いのあるイタリア・フィレンツェ在住のピアニスト横山緑さんからご紹介いただいたトップバッター横山令奈さんからは、ご自身がクレモナで行った病院屋上での演奏のことやその後の反響のことなどを中心に、また、横山緑さんからは自身がプロデュースするイモラプロジェクトジャパンの昨年の表彰式などの映像を見ながら、それぞれ論じていただきました。お二人に共通していた「音楽や芸術の、コロナ禍における自身や業界の変化」と「コロナ禍でも変わらない音楽の持つ力」を対比して語っていたこと、がとても印象に残っています。
クリスチャンルブタンジャパンの多久和さんからは「Experiences Beyond Distance, Beyond Hours, Beyond who I am」という独特なメッセージをもとに、ラグジュアリーブランドにおいてもDXの力を活用し、ルブタンさん本人も収録同時期に開催された今年のパリコレで、自身のアバターを使ってコミュニケーションを始めたことなどの大きな変化を論じていただいた一方、ラグジュアリーブランドの変わらない価値である「Known by many, dreamt by all, but owned by few」が販売員との間の購入体験をさらに後押しすること、などを軽快に論じていただきました。
そして私からは、まず「Project Super Japanese」と呼んでいる「世界で有名だけれど日本では相対的に有名度合いが低い日本人の偉人の功績を観光資産や経済資産として活用する考え方、その第一弾として始めた杉原千畝さんのご家族との事業であるユダヤ系富裕層のインバウンド旅行が頓挫したこと、しかしながらどん底の中でフィランソロピーと旅行体験を連携させたオンラインムービー商品である「Digital Sempo To Go」にチャレンジしていることをお話しさせていただきました。実は世界で活躍した杉原千畝さんと、横山緑さん&横山令奈さんのイタリアでの活躍がオーバーラップし、二人にBGMの協力までしていただいています。杉原さん同様お二人のからやぶりの力は、コロナウイルスを吹っ飛ばすほどの破壊力になるものと信じてやみません。
もうひとつ私から、「Marketing of highnetworth, by highnetworth, for highnetworth(富裕層の富裕層による富裕層のためのマーケティング)」というコンセプトを打ち出した、「富裕層ビジネス規格認証」の仕組みの体系化に入っていることも申し添えました。「富裕層ビジネスで今までできなかったこと」を「富裕層ビジネスでいますぐ解決できる手法」としてビジネスラインに乗せる富裕層マーケティングの最終兵器、決定版としてローンチします。実は、高田さん、多久和さん、私の3人は、宣伝会議さんの富裕層マーケティング講座の講師もやらせていただいており、よく知っている関係であることもあって、「富裕層ビジネス規格認証」の構築も手伝ってもらっており、結果的に仕事仲間のこの5名のコラボレーションによるパネルとなりました。我々自身が変化に対応しながら切り開いていく道がまだまだ続いていくことなどを踏まえ、高田さんのラストメッセージで締めてもらっています。
福井県出身の幕末期の歌人である橘曙覧さんは、その有名な独楽吟の一節で、
「たのしみは 朝起き出でて 昨日まで なかりし花の 咲ける見るとき」
と、何気ない日常の変化にこそ人生の楽しみが存在することを見事に表現してくれました。まず当たり前に日々の当たり前を直視すること、そして変化に気づくこと、この2つは普遍的な真理であるにも関わらず我々はしばしばその大切さを見失ってしまいます。新幹線は快適ですが道端に咲く野菊の力強さに気付くことはできないでしょうし、自動車は快適ですが目的地を間違えるととんでもないことになります。要するに自分の足で歩きだしてみること、小さな楽しみを見つけていくこと、は誰にもできるはずだということに改めて気が付かされ、コロナ禍において幾度となく口ずさみ勇気づけられた歌でした。
また、本編にも出てきますが、杉原千畝さんは、戦後自身の行動の振り返りの中で、
「私は政府に背いたかもしれないが、それをしなかったら神に背くことになっただろう」
と言ったと伝えられています。我々が直面している状況は今もって厳しいものがありますが、ヒトラーに追いかけられ逃げ惑うユダヤ避難民が押し寄せる緊迫感とは比べものにならないくらい小さい話ですし、突破口を見出し新しい現実を創っていくことの大切さ、を示唆してくれている言葉とも受け取ることができます。
今では偉人と呼ばれる二人にも大変な苦労があったことを引き合いに出しましたが、彼らはそれぞれの表現方法で今を生きる私たちにも通じる言葉を残してくれました。これからは我々の出番でしょう。村上春樹さんは長編小説「ダンス・ダンス・ダンス」の中で、危険な運命を切り開いてく「僕」を主人公に仕立て上げました。
我々は「ダンス・ハマー・ダンス」とでも言えるような長編小説を今書き始めたばかりです。小さく大きくダンスステップを踏みながら「僕」や「私」を表現していこうと思います。
「ダンス・ハマー・ダンス」の中でも進化を止めないAWAで、短い時間ですが、ぜひ我々のパネルもご視聴いただき、皆様の未来へのヒントとしていただければ幸いです。
最後に、モデレーターをかってでてくれた高田さん、ピアニストの横山緑さん、ヴァイオリニストの横山令奈さん、クリスチャンルブタンジャパンの多久和さんに謝意を示しつつ、筆をおくことにしたいと思います。
AW2020:Asiaお楽しみに!
「Advertising Week2020:Asia」 アドバイザリーカウンシル
ルート・アンド・パートナーズ
増渕達也氏
1992年東京大学文学部卒、電通に入社。雑誌局にて、ビジネス誌、写真週刊誌、anan、Brutusなどを担当。2002年アルクより富裕層向けメンバーシップマガジン「セブンシーズ」の営業権譲渡を受け、セブンシーズ・アンド・カンパニー代表取締役社長に就任。2006年株式売却。2006年ルート・アンド・パートナーズ創業。富裕層ビジネスを多角的に展開。HighNetWorth Magazine 編集長。著書に「富裕層マーケティング55の法則」。
2012年アジア系顧客開拓のためHighNetWorthLab,Pte,Ltd をシンガポールで創業。2019年欧米顧客開拓のためThe Sempo Project LLC(旅行業)を創業。日本政府観光局(JNTO)、経済産業省クールジャパン、環境省、内閣官房東京オリパラ、英 Travel Weeklyなどのアドバイザーをつとめるほか、TCVB、OCVBなど自治体アドバイザーを歴任。2015年よりAdvertising Week Asia アドバイザリーカウンシルメンバー。