新規性のあるキャンペーンでマスリーチを狙う 減少した店頭での体験を補完するには?
——2020年2月に発売になった「ROUGE VOLUPTÉ ROCK’N SHINE(ルージュ ヴォリュプテ ロックシャイン)」は、どのようなマーケティング戦略を企画したのでしょうか。
野山:私は「イヴ・サンローラン・ボーテ(YSL)」のコミュニケーションマネージャーとして、店頭以外のコミュニケーション上の接点を担当しています。PRや広告、デジタル、イベンティング、メディアなどでの施策を、各現場のチームと共に動いています。
今回の新製品「ルージュ ヴォリュプテ ロックシャイン」をラインナップに加えた「ヴォリュプテ」は、2013年に誕生したリップシリーズ。誕生以降右肩上がりで販売数を伸ばし、それにともないシリーズの規模も大きく成長してきた、YSLのビジネスにおいても重要な存在になっています。
売上は伸びていますが、リップは本来、ロングセラーになることが難しいカテゴリーです。ファンデーションやスキンケアとは違い、カラーを重視するメイクアップアイテムは新鮮さ、新しいものに価値を感じる傾向にあります。「ヴォリュプテ」も8年間続いてきて、新作が出たという事実だけでは消費者に新鮮さを提供することが難しくなっていました。
もうひとつ、キャンペーンを実施した5月は新型コロナウイルスの感染拡大による外出制限や休業、営業時間短縮の影響が残っていました。百貨店などは営業を再開しているところもありましたが、コスメは試すことができませんでした。リップもマスク着用が必須という環境で使用頻度が減り、苦戦していました。こうした社会的な状況にあって、いかに店頭以外の場所、自宅などでテスターを使わずに体験してもらえるのかも大きな課題になっていたのです。
プロモーションも従来通りでは印象に残らないと考え、今までに全く実施したことがない表現を使いたいと考えていました。これまでにリーチしていなかった層を振り向かせ、さらなる認知拡大を目指そうと考えてのことです。
ロレアルでは海外も含めたTikTok活用の成功事例が情報共有されているのですが、グローバルでTikTokの活用に注力しようという動きがありました。広告会社に相談しているなかで、南部さんたちを紹介してもらい、TikTok For Businessさん側も今回のようなプランの利用を広げたいという意向があり、双方のタイミングがうまく合った形です。
エッジの効いたブランドの世界観を表現 盛れて、アガるクリエイティブ
——依頼を受けて、南部さんたちはどのように企画を考えていったのでしょう。
南部:今回はロレアルさんが「エッジ」と表現している、新しいものを取り入れていく姿勢や、常に旬なことに挑戦する姿を見せることができたのではないかと感じています。私たちにとっては、YSLブランドのようなラグジュアリーブランドでもTikTokを使って効果的なキャンペーンを実施できることのスタンダードを提示できた事例になったと思います。
野山さんからは「#YSLロックシャイン」キャンペーンで、ブランドのキラキラした世界観や製品を使うことで気持ちが上がったり、楽しい気持ちになったりする感情をしっかり届けたいという希望を聞いていました。そのため、リップの色や質感の再現度を高めて、できるだけ正確に体験してもらうことはもちろんですが、音楽やエフェクトのつくり込みにもこだわりました。
市川:制作においては、やはり一番難しかったのは色のマッチングです。制作期間中はリモートワークだったので、調整した色を南部に送って、テストアプリを使って確認するという作業を繰り返しました。艶感など、色の見え方は昼と夜でも違うので、昼夜それぞれでチェックして見え方に差がないようになっています。近い色ができたタイミングで野山さんに確認してもらい、フィードバックを受けて微調整しながら色を再現していきました。
野山:色の再現は大変でしたが、結果として私たちがこれまで見たなかでも、一番再現度は高くなったと感じています。音楽やエフェクトでどれだけ頑張っても、色を外してしまうと今回の狙いとしては大きくズレてしまうので、最後の最後まで色を合わせることにはこだわりました。
市川:エフェクトに関しては、ユーザーはお手本を完璧に再現する傾向が強いため、参加しやすさを念頭に、再現しやすい簡単なアクションになるよう工夫しました。スタンプも「盛れる」ことが非常に重要なので、日本ユーザーに人気のあるスタンプをリサーチしてつくり込みました。
南部:日本人は性格的に自分の顔を写した動画を撮ることに抵抗を感じる人が多い。それでも多くの女の子がTikTokをはじめとするSNSに写真を投稿するのは、自分がちょっとかわいく見えたり、盛れたりすることがうれしい、それを共有したいと思えるから。
今回は「ルージュ ヴォリュプテ ロックシャイン」を自分の顔で擬似体験している様子を投稿することになります。そこでかわいく見える、テンションが上がる、見た人が自分も試してみたいと思えるものを提供することが重要でした。
また、体験しながらブランドと製品にしっかりフォーカスしてもらうことも重視しました。エフェクトでカラーが変わった瞬間にブランドロゴと色番号も表示するようにしました。コスメのキャンペーンでは色が何色なのか、その番号を認識できることが重要だとわかっていましたが、これまではユーザーがコメントなどで補足していました。
そうした経験もふまえて、今回初めてスタンプで表現することに挑戦しました。投稿した人が自分には何番が似合うとコメントしたり、投稿を見た人が投稿者に向けて「何番が似合うと思う」と感想をコメントしたりしているのを見て、投稿を楽しむだけではなく、購買までイメージしてもらうことができたのではないかと感じています。
野山:音楽もオリジナルで制作していただいたのは良かったですね。既存の音楽を使うと、その世界観に影響されてしまうので、今回はシリーズのイメージを作り上げられるオリジナルのものが合っていたと思います。
TikTokの人気投稿はちょっと面白さがある、笑いの要素が重要になっていますが、私たちの動画は面白味よりもかっこいい感じの仕上がりを目指しました。そこがブランドのユーザー層にも体験してもらいやすくなったポイントなのかなと思っています。
南部:私たちも実施前は比較的若い年代の投稿が多くなるのではないかと予測していたのですが、実際は30代の方も多く投稿していました。投稿型キャンペーンでも、今回のようにブランドの世界観を表現して、クリエイティブや設計を工夫したことでターゲットとする層にしっかりと反応してもらえたのは良かったです。
成功のポイントはクリエイティブ ターゲットに合わせて作り込めば活用の範囲は広がる
——施策の成果について教えてください。
南部:今回、動画の投稿は3940回とKPIよりも大幅に多い数字を達成することができました。スタンプの体験数も21万回と平均の1.5倍ほどになっています。投稿を見てのブランド記憶度調査でも123%アップしており、ほかにも製品に対する特徴理解やブランド好感度も上昇しているという結果が出ています。
やはり、クリエイティブの力でTikTokユーザーやブランドがターゲットとする女性を刺激し、投稿したくなる内容になったことは大きかった。キャンペーンとしては、クリエイターとして南部桃伽さんを起用して、お手本になってもらい拡散のきっかけにしました。また、ユーザーがスタンプに興味を持ってページに来たときに体験の様子や動画のバリエーションを見せ投稿意欲を喚起するためにマイクロインフルエンサーも数名起用しています。
ほかには、オーガニックでインフルエンサー級のユーザーが体験動画を投稿してくれたことも拡散には大きな効果がありました。これはYSLブランドのブランド力によるところもあると思います。
野山:ポイントはクリエイティブ、ブランド力、製品力の相乗効果だと多いますが、一番はクリエイティブだと思います。ブランドに力があり、魅力的な製品でも投稿したいと思わせるものではないといけないので、見て、体験して、投稿しようと思うサイクルが生むことができるクリエイティブに仕上がったことはポイントでした。
私たちとしても、新型コロナウイルスの影響を受けるなかでリップ単体の売上は6月に前月比で1.5倍くらい伸びました。これは5月中のキャンペーンによって認知を獲得できたことも要因の一つだと考えています。また、購買者の年齢層でも今年は10代のお客さままで増えていて、明確な関連性が認められるわけではありませんが、昨年から今年までに実施した大きなキャンペーンは「#YSLロックシャイン」なので、その効果があったのではないかと感じています。
体験数や記憶度など、これだけの数にリーチできるキャンペーンはなかなかありません。今回の取り組みを通じてTikTokの活用にはポテンシャルを感じました。YSLとしても、リップに限らずアイメイクなど違うカテゴリーでも面白い取り組みができそうだと思います。
南部:今回のキャンペーンでは、認知の獲得だけではなく体験を通じた理解促進にもつなげることができました。さらにTikTokの強みである拡散性にも期待できます。YSLブランドの事例では、認知と拡散に加えてブランドの世界観とリップの特徴を体験できるセット効果が強かったと考えています。
野山さんもおっしゃったように、リップに限らずコスメジャンル全般で、今は店頭でのテストができない状況です。例えば、今回の21万回ものスタンプ利用数を店頭でタッチアップさせるととてつもないコストになる。その代替になりえるのではと考えています。製品に興味を持ってもらうことが難しいときに、認知獲得とその先にある興味関心を喚起する体験までさせたいと考える企業やブランドには今回のような手法は適していると思います。
ターゲットとしても、TikTokは若者向けと思われがちですが、ユーザーの年齢層は幅広く存在しています。今回の事例で、クリエイティブによって色々な年齢層をターゲットにできることがわかりました。インフルエンサーのキャスティングや楽曲、スタンプなど、キャンペーンの全体をターゲットに合わせて設計すれば成功する。私たちには各分野のプロが揃っているので、ご相談いただきたいです。
市川:海外ではハイブランドがTikTokでファッションショーをライブ配信するという事例もありました。ラグジュアリーブランドのアカウント開設が増えていて、TikTokを活用する動きはこれからもっと広がっていくと思います。
日本ロレアル株式会社
リュクス事業本部 イヴ・サンローラン・ボーテ事業部
コミュニケーションマネージャー
野山佳世子氏
TikTok For Business Japan
Client Manager, Brand Ad Solution Div.
南部 歩氏
TikTok For Business Japan
Creative Director, Global Business Marketing Japan,Creative Lab
市川典男氏
お問い合わせ
TikTok For Business Japan
MAIL:pr-m@bytedance.com
公式URL:https://tiktok-for-business.co.jp/