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地方PR動画もサイトも、実はなかなか届かない……
地方への移住促進は地域活性化の最大の課題のひとつである。多くの自治体が移住・定住促進施策を展開しているが、多くがその入り口の【認知、興味獲得】の段階で苦戦しているのが実態である。
宮崎県小林市PR動画「ンダモシタン小林」など、成功事例もあるが稀有なケースと言える。多くの自治体が、動画やサイトをつくり、東京でイベントやセミナーを開催し、広く告知するというマス・マーケティングの手法を採用しているが、なかなかターゲットに届かない。
企業マーケティングにおいても、ライバル会社や競合品の中で自社や自社商品の認知や興味を獲得するのは至難の業である。では、地域のライバルは?……考えてみると都道府県レベルなら47、市町村レベルなら1724(政府統計)も競合がいるのだ。有名な観光地や産地でもない限り、「選ばれる地域」になるのは難しいと考えるべきだ。
地方の移住者は、実は“U’ターン”が大半を占めている!
熊本の一地方都市で、最近移り住んだ移住者に対して実態意識を調査する機会を得た。そこでの発見を、図1に示す。
移住者のほとんどが、「親や親戚が住んでいる」「親や親戚の土地や家がある」といった“血縁”や、「友人・知人がある」「以前住んでいた」「何度か訪れたことがある」といった土地勘を有する“地縁”といった何らかの地域との関わりを有している人が8割を超えていた。「その他」の半分も「職場や会社がある/あった」といった理由で、この“職縁”も加えると9割近くになる。
全て厳密な意味で「Uターン」とは言えないが、親類や知り合いがいる馴染みある場所に移り住むという“縁”を頼る移住と言えるだろう。総称してここでは“U’ターン”と名付ける。
また、今回の調査で、移住に際してアクセスした情報源についても聞いているが、「特に参考にしなかった」「親や親戚から」「友人・知人から」という理由がほとんどを占め、「全国移住サイト」「空き家バンク」「県や市のサイト」「役所」など公的やマス・マーケティング型の情報源は数%に留まるという結果であった。つまり、U’ターン移住者は、情報源に関しても血縁/地縁に頼っていることがわかった。全国的知名度のない地方の一地域の現実はこんなものだろう。
「帰る人」と「待つ人」の2つの引力で、確実な地方移住を狙え!
では、移住促進のために、どんな施策が有効だろうか?実際の移住の大半がU’ターンであるとすれば、その潜在ターゲットを掘り起こせばよい。実際に移住した人々は、地元に親や親戚が家や土地を所有していたり、知人友人からの紹介などの情報によって行動を起こせた、比較的恵まれた条件を満たす人たちであったと推定できる。
そう考えると、もっと多くのU’ターン移住検討者が潜在しているのではないだろうか? そして同様に、多くの地元の親・親戚、知人友人たちも、「帰って来て欲しい」と願っていると思われる。しかし、迎える地元側で土地や家の保有がなかったり、U’ターン検討側も費用や仕事など様々な障害があって踏み出せないでいると考えると、この層にアプローチする戦略は非常に有効と言える。
つまり、移住検討者ではなく、“待つ側”への逆アプローチである。待つ側は地元にいるため、アプローチやコミュニケーションコストは格段に低くなる、そして、何よりターゲットと“縁”のある人を経由した情報発信になるため、移住検討者への到達確率は高くなると期待される。全国へのマス・マーケティングなら、約1億3千万人にリーチをかけなければならないが、例えば熊本なら県民175万人でよい、ざっと計算しても、ほぼ1/100でよいのだ!
U’ターン検討者への有力な武器とすべき「空き家」についても、新しいアプローチを提案したい。“待つ側”視点に立って、「待ち家(まちいえ)」と呼ぶのである。地元に帰ってくるのを待っている家として準備するのだ。空き家を提供する側も、地元に縁のある人との取引になることで、安心・信頼感が高まると考える。
コロナ禍の影響によるテレワークの浸透で、地方移住の機運が高まっているという。さまざまな地域が、ワーケーションの開発や誘致に乗り出すというニュースも耳にする。ただ、これも、やがて多くのライバル地との差別化の争いに巻き込まれるだろう。都道府県魅力度ランキングに一喜一憂していても仕方がない。
移住の様々な形態の中で、U’ターンだけが、「帰る人」と「待つ人」の2つの引力が存在する。その引き合う力に寄り添った地域のアプローチこそ、確実な地方移住を実現するのではないか?