【前回】「第2回 世界初のクラフトコーラ専門メーカー「伊良コーラ」(前編)」はこちら
みんなが発信する時代、あるいは研修YouTuber
尾上:『嶋野・尾上の「これからの知られ方」』第3回です。
嶋野:ヨッ!
尾上:はい。この連載は、広告の仕事をしている二人が、個人がブランドを始める時代における知られ方について考えていく番組です。前回は、あの世界初のクラフトコーラーメーカー、伊良コーラさんの話を聞いてまいりました。
嶋野:おもしろかったですね。
尾上:くわしくは前回を見ていただければと思うんですが、そもそもそういうブランドをつくっていくにあたって自分の中のストーリーが大事だったりとか、なにが求められているのか、なにが好きなのか、なにが得意なのか、といったところをうまく考えていくのが大事ですよね、という話でした。
でまあ今回、後編なわけですが、入る前に嶋野さんにひとつお聞きしたいことがあります。最近、もうみんなYouTuber(ユーチューバー)になってるんじゃないか、と思うんですよね。
芸能人の方々、テレビの方々……嶋野さんはYouTuberになったら、なにします?
嶋野:あー……いま二択迷ったんですよね。新聞YouTuberか、研修YouTuber。
尾上:どういうことですか。
嶋野:僕、趣味が新聞読むのと研修を受けることで……。まず研修かな、研修YouTuberっていなさそう。
尾上:なにやるんですか。
嶋野:あらゆる研修を受けて、そのリコメンドをしたりとか、こうだったとか、こうすべきだみたいなこと……研修って高いんですよね。当たり外れあるじゃないですか。玉石混交なわけですよ。そこで全部体験して、あとで悪口にならない程度にどうだったかというのをですね。
尾上:なるほど、開封動画と同じところ。
嶋野:まさにそれですね。
尾上:じゃあ、そういうYouTuberをやっていただいて……ということで、なんでこんなことを聞いたのか。
嶋野:本当に興味ないんだよね、オレの話はね。自分の話したいことだけを言おうとしている顔だけが見えたよ、オレには。
尾上:ちょっと、まあいい、いいです(笑)それぐらいみんな、発信する時代になっているわけじゃないですか、そういうときにおいてどういう世の中になってくんでしょうね、みたいな話を「伊良コーラ」の小林(隆英)さんに聞いてみたりしたっていうのが、今回の始まりになっていきます。はい。
ものづくりのYouTuber化が進んでいる
尾上:みんなが生み出そうとして、トライアンドエラーの人生経験がいっぱいあると、いろんなジャンルへのリスペクトがすごく生まれてくるんじゃないかなと思うんですね。そこのハードルがどんどん下がっていくのはいいことかもしれないですね。
小林隆英:ある種ものづくり、私は勝手にものづくりのYouTuber化って呼んでるんですけど。YouTuberでいうと、今までテレビ局、メディアが担っていたことを、インフラが揃って個人でもできるようになったと思うんですけど。それと同じことがものづくり現場でも起きていて。どうやったらつくれるのかっていうのはもうネットでわかる。売る先も結局ネットなんですけど、ものづくりにおいても、YouTuber化みたいなことが起きているなというのはすごく感じます。
嶋野:まさにそういう人がたくさん増えると思うんですね。でもやっぱり、残念ながら、99%くらいの人が、たぶん一年ももたない可能性があると思うんですよ。小林さんはどう思われますか。
小林隆英:やっぱり、世の中に潜在的に求められるかどうかっていうことだと思います。正直、クラフトコーラっていうものを生み出したときは、別に課題なんか解決していないし、自分がただ飲みたいもの、それをつくった。すごい感激させるものをつくった、だから飲んでみて喜ばれる。それだけだと思っていたんです。でも、実際に商売してみると、お客さんの言葉で、「コーラは身体に悪いので飲めなかったのに、『伊良コーラ』ができて、すごい嬉しい」とか、「バーとかで『伊良コーラ』が置いてあると、恥ずかしくなくて、すごい飲みやすい」とか。「集まりとかでも、『伊良コーラ』ならお酒に対抗できるので、場がしらけない」とか。知らず知らずのうちにいろんな課題を解決していたんだなと思って。やっぱりそこに行き着くのかなっていうのは思いました。
尾上:「伊良コーラ」がとてもおもしろいのは、課題解決ではなくて、もともと自分が飲みたいものをつくっていたら、それがいつの間にか課題解決になっていた、という。その入口と出口の感じがおもしろいと思いました。僕らとかく課題解決から考えちゃいがちですけど、意外と出口がそうなるんだなっていうのは、けっこう新鮮な驚きでしたね。
嶋野:理想ですよね、たとえば漫画家さんが、「読みたい漫画がないから、自分の読みたい漫画を描いて書いてみたら、ヒットした」というような、本当に一番うらやましいパターンだと思います。
尾上:そこに小林さんの場合は、自分が飲みたいからつくっているという傍ら、伝えるべきことをうまく伝えていたり、みんながこういうふうにしたら求めてくれるんじゃないか、という点を、潜在的に入れている。そういうことが、前回のお話にありましたけど、こういうことをできているのが人気の秘訣なんでしょうね。
嶋野:そうですね。
尾上:ブランディングというか。
嶋野:まさに次はそのブランディングの話ですね、ぜひ聞きましょう。
尾上:もう「これが『伊良コーラ』なんだな」っていうことが、パッと分かるようなデザインが全体に統一されている気がして。そういうのって、どういう順番で考えていくといいんでしょうね?
小林隆英:二つあって。まずは伝えたいことを明確にして、どうやったら一番伝わるんだろうっていうことがまずあって。それの軸のほかに、やっぱりワクワクっていう気持ちを大切にしていて。どんな表現をしたら喜んでもらえるというか、びっくりさせられるだろうっていうのが根本的にあるので。それは大事にしていますね。
尾上:これ、あの、音だけで聞くと、「えっ、どんなビンなの」って、わからないかもしれないので、ぜひ、調べてみていただきたいんですけど。すごいきれいな丸いガラスのビンで、和紙に、カワセミですね、カワセミがブランドロゴなんですけども、刷られていて、「伊良コーラ」とホログラム的に文字で書かれている。そんな感じのボトルになっていて、「明らかにこれまでのコーラと違うぞ」ってのが伝わりますし、「丁寧に作られてるんだな」というのがよく伝わるようなものになっていますよね。
嶋野:そうですね。あとは、最後におっしゃってましたけど、いきなりカチッと固めてまっすぐ進むんじゃなく、作りながらというのが、なかなか大企業だと関係者も多いので、一回走っちゃったら止めづらい、変えづらいところがあるのを、やっぱり個人だからこそできる柔軟な姿勢というのもあって、いいなあと思いました。
尾上:好きなこと・得意なこと・求められていること、という意味でいうと、求められていることってけっこう出してみないとわかんないじゃないですか。キャンペーンとかでもやってみて、「ああ、こういう反応だったということは、次こうしよう」とか、プロダクトもそうだと思うんですけど。まず自分のなかの伝えたい、「こういうストーリーがあるんだよな」というのを形にして出してみて、反応的に「ちょっとイマイチだった」「ここウケたな」というのがあったら、そこからどんどんアップデートしていくのが、わりと個人のブランドとしてよさそうだな、という感じですかね。
嶋野:そうですね。あとその、個人でやる以上、判断も自分でやらないといけない。そういうときの自分の行動をどう判断しているか、というのを続いて聞いていただければと思います。