【前回】「選ばれる地域になる方法~移住促進は逆転の発想で地元の“縁”者を狙え!」はこちら
今回は、本コラムのコンセプトである「Brand Focus, Market Wide(ブランドの物語を濃縮すれば、市場は世界にだって広がる!)」のブランドのフォーカスの仕方、ブランド物語の濃縮の仕方に関する考察をしたい。
生産量と消費量は意外と一致しない!?
様々な農水産物や食べ物について、私たちは、「何となくこれはこの地域が有名だよね」「ここの特産品だな」などのイメージを持っている。図1をご覧いただきたい。誰もがその産地を知っている有名なものを避けて、農水産物や食べ物の生産地、消費地のランク1位を比較した表である。
これを見ていくと、豚肉やミカン、ぶどうのように「生産地=消費地」というものも一部にあり、我々のイメージとも一致するが、実は意外と「生産地≠消費地」のものが多いことが分かる。全く産地、消費地ともイメージが湧かない品目もあるが、概して消費地の方が、その産品とイメージが結びついているように思える。
逆に、生産1位の地域で、「え、そうなんだ、ここが日本一の生産地か?」と驚く地域がある。例えば、うなぎの鹿児島県、梨の千葉県、ごぼうの青森県などなど……(もちろん、かなり個人的見解であり、詳しい方には当たり前の情報かもしれないが、一般論として読んでいただきたい)。
農水産物に関しては、適した土壌や水域、環境などの栽培条件などがあり、全国の消費を賄っているという側面もあるだろう。ただ、ここで議論したいのは、地域をブランド化する際の重要なコンテンツとしての産品であり食材である。「あそこは、○○で有名だよね」「ご当地で食べる◇◇は格別だよね!」といった形で、多くの人が地域を語る時に食べ物はキラーコンテンツになり得る重要資源になる。もちろん、量がすべてではなく希少な品種をつくったり、独自のメニューでアピールしたりと方法は様々あっていいが、生産No.1というアドバンテージを活かさない手はない、と思うのだ。
「おもてなし」で消費者を広報に巻き込む~地産地消から“地産地饗”へ~
観光や地域ブランド化の視点から見て、産地より消費地の方がイメージ力やPR力が高そうである。消費するということは、その地で、よく料理され加工され、様々なメニューと食べ方が工夫されていることにつながる。つまり、消費のその先に、その産品や食材がその地の「食文化」となることが期待できるのである。
地域に定着してくれば、その土地の産品や食を地域活性化に活かす方策として、その食を“饗応(おもてなし)”として観光客や訪問者に提供することは非常に有効な手段と考える。これを、「地産地饗(ちさんちきょう)」と呼びたい。図2にその考え方を図示する。
個人的な体験であるが、「地産地饗」の経験を少し話させていただきたい。
縁があって毎年学生を連れて、JA鹿児島県経済連の若手幹部候補生の研修に参加し、マーケティングやブランディングの学びとワークショップに一緒に取り組んでいる。そこで事務局の方とJA鹿児島県経済連直轄の店で会食をさせてもらう(残念ながら2020年はリモートでの開催となった)のだが、そこで毎年恒例のように繰り広げられる光景がある。
経済連の方々が本校の学生に向かって、「この茶美豚(チャーミートン)※1 のロースカツは脂が本当に甘くておいしいぞ!脂身のところは、塩で食べてみて!」「かごしまのごぼう※2は、アクが少ないから生でも食べられるんだ。フライゴボウ、騙されたと思って食べてみて!」としつこいくらいに推してくれる。想い溢れるプレゼンに圧倒されながら学生たちは食し、そしてその通りのおいしさにまた圧倒される。会食が終了する頃にはすっかり鹿児島の食に魅せられる、という展開である。
これこそ、“地産地饗”の目指す姿ではないだろうか?地域の住民全員が、地元の産品や食、さらには地元の様々な事柄を自慢と誇りをもって勧め、おもてなしする。そのような形ができれば、内外から地域活性化が出来ていくように思う。
地産地消とは、地域で生産された農産物を地域で消費しようとする活動を通じて、農業者と消費者を結び付ける取り組みとしてスタートしているが、消費者が単に消費するだけでなく、新しいメニュー開発に取り組んだり、観光客などへの広報やおもてなしに参画していくという積極的な参加による全体的な地域活性化を目指すのが“地産地饗”である。
地産地饗の“饗”の字は、「郷を食す」と書く。わが町の自慢の品を食べていただく、そこには供する者と食する者の両方の喜びがあるのだ。