*本記事は10月30日発売の広報会議12月号「理念特集」の一部です。
イノセントジャパン
広報体制:マーケティングチーム全体で5人
Marketing Projuicer:マーケティングチームの全体統括/Peoples Champion:ドリンカー(消費者)とのコネクションづくり/DigitalFruit Ninja:デジタル全般、SNSコンテンツ担当/Brand and Culture Gardener:ブランドマネジメント全般/Activation Manager:広報含むアクティベーション担当。各ポジション、得意分野を持つ専門人材を置く。
1999年にイギリスで生まれたスムージメーカー「イノセント」。現在ヨーロッパ23カ国で販売され、欧州スムージー市場においてトップシェアを誇る同社が2019年7月に日本に上陸した。
理念のローカライズの方法
本国の理念は「tastes good. does good.」。ヘルシーで質の高い商品を提供することはもちろん、フルーツ農家へのサポート、業績の良しあしかかわらず、利益の10%を慈善団体へ寄付するなど、社会や消費者に“良い影響”を与えることを目標としており、その貢献度から同社のファンになる人も少なくない。
「日本法人ができるとき最初に行ったのがこの理念・バリューのローカライズです。本国では創業者の想いをもとに13年以上の月日をかけて形づくってきたもので、どんな商品も、事業も、社内の話し合いの中でも、全社員この理念をベースに考えるように徹底されています。約3カ月間、初期メンバーで話し合いを重ね、ひとつずつ日本語に落とし込んでいきました」。同社でマーケティング本部長を務める加藤愛子氏はこう説明する。
日本人の考え方や捉え方を配慮し、日本語のニュアンスなども徹底議論した結果「おいしくて、いいこと」という理念を設定。同社の5つのバリューも、
1 natural→ありのままでいよう
2 entrepreneurial→やってみよう
3 responsible→成しとげよう
4 commercial→革新的なビジネス思考を持とう
5 generous→思いやりを持とう、
と訳された。2は直訳すると“起業家精神”といったニュアンスだが、仕事をする中で重要とする考えがちゃんと表現されているか、このバリューに沿って活動したとき、理念とギャップが生じないかワークショップで実際に試してみるなど、細かなすり合わせを行う中で、“やってみよう”という表現になったという。
「長寿企業であれば、言葉自体がきちんとインプットされていなくてもカルチャーとして自然と理解されることもある。しかし私たちのようなスタートアップ、また文化も言語も異なる土地で事業を展開すると、考えや方向性がバラバラになりがち。従業員一人ひとりが確実にその“言葉”を理解・把握する必要がありました」。
現在同社では「この案は“思いやり”があったかな?」「今やっている話し合いは“革新的なビジネス思考”とはかけ離れている」などと、バリューに沿ったフィードバックが従業員間でいきかっているという。
「大切なのは全員が日々意識すること。従業員同士で指摘し合うことで、考え方の根底を当たり前に意識するようになります。また、社内のトイレや壁、あらゆるところに理念とバリューを可視化するなど、物理的にも意識する環境をつくるよう心掛けています」。
“らしさ”をブラさない
同社では消費者を「ドリンカー」と呼んでSNSやリアルを通じて距離の近いコミュニケーションを行っているのも特徴だ。日本進出の際は東京メトロの4路線をジャックし、大々的にプロモーションを行ったが、ここでもあくまで同社のモットーであるONE toONEのコミュニケーションにこだわった。「大きくなればなるほど会社の輪郭が見えなくなってしまう。しかし立ち戻る理念や目指すべき姿が明確にあることで防ぐことができる。こうして“イノセントらしさ”をブラさないことでドリンカーからも、従業員からも信頼され、愛されるブランドになると思っています」。
コロナ禍でSNSの運用を停止した際、寄せられた2500件以上のDMにはすべて手書きのメッセージを返した。「社長も含め、『おいしくて、いいこと』を実現するためには手間を惜しみません。そういう風土があるからこそ、会社のあらゆる議論、商品、会話の中にもイノセントらしさが徹底されていくのだと思います」と説明する。
マーケティング本部長(ブランドプロジューサー)
加藤愛子氏
広報会議12月号は、「『理念』転換期を乗り越えるコミュニケーション」と題し特集を組みました。新型コロナウイルスの影響で、ビジネスモデルからまさに“転換”を迫られている企業も多数見受けられます。そんな中、従業員の心をひとつにするのが企業理念です。特集内ではその他、住友商事や小松製作所などの事例を紹介しています。また、大学にも注目し、理念をドリブンさせて関係者のエンゲージメントを効率的に高める方法を探っています。