コロナ禍でも20代世帯の消費はプラス成長 お金の使い道は、「食料・クルマ・腕時計」

こんにちは。フォーカスマーケティングの蛭川速です。宣伝会議で「データ分析力養成講座」の講師をしています。
 
2020年は、コロナ禍による消費低迷が大きなテーマでした。緊急事態宣言が4月に発令され、飲食店をはじめほとんどすべての業種の経済活動がストップしました。政府による外出自粛要請によって生活者の消費行動は減衰し、特別定額給付金などの施策が展開されましたが、消費実態の冷え込みが深刻化しています。Go Toキャンペーンによって戻りつつあった消費行動も11月中旬以降の第三波によって先行きが見通せない状況です。
 
このような状況の中、企業のマーケターはどうすれば売上回復の手がかりを掴むことができるのでしょうか。本稿では、「家計調査」や「消費者態度指数」などの統計データから見えてきた、注目すべき「コロナ禍における若者の消費傾向」を読み解きます。

20代若者消費が前年を大きく上回る

総務省統計局の実施する「家計調査」は、全国約8000世帯を対象として毎月実施されています。家計収支の実態を把握して、景気動向の重要な要素である「個人消費の動向」など、国の経済政策・社会政策の立案のための基礎資料を提供することを目的としています。

ここではまず、11月30日現在、政府統計ポータルサイト「e-Stat」にアップロードされている9月までの消費支出額をグラフ化してみました。

2020年4月~9月までの、全年代の消費支出額の推移と前年同月比。
出所/政府統計「家計調査」より筆者作成

緊急事態宣言発令後の4月以降、消費支出額は27万円前後で推移しています。折れ線グラフは前年同月からの増減率を示しています。全年代では、おおよそ2桁減少している実態から、消費実態が大きく低迷していることが分かります。

では、年代別ではどうでしょう。世帯主の年代別のデータから前年同月増減率を算出してみると、20代世帯(厳密には世帯主年齢が29歳以下世帯)の奮闘ぶりが浮かび上がってきました。

年代別の消費支出増減率(前年同月比)29歳以下世帯が奮闘している。
出所/政府統計「家計調査」より筆者作成

さすがに4月5月はマイナスでありましたが、6月以降かなり高い増加率を示しています。また、以下にように全年代平均と20代世帯の前年同月比の増減率をグラフ化すると、特徴的なことが分かります。全年代平均が4月からの6カ月間すべての月でマイナス成長であるのに対して、20代世帯は6月以降4カ月連続でプラス成長を示しているのです。

消費支出の前年同月比、全年代平均と29歳以下の比較。
出所/政府統計「家計調査」より筆者作成

20代若者のコロナ禍の消費傾向とは

では、20代の若者はどのようなことにお金を使っているのでしょうか。

20代世帯消費の増加傾向が始まった6月から9月までの4カ月間の消費支出を中分類で集計し、各項目の寄与率を算出しました。寄与率が高い上位3項目は、「食料」「交通・通信」「その他消費支出」です。20代世帯の支出の中で最も高い構成比である食料は、前年同時期で12%増加しています。交通・通信とその他消費支出は、前年同時期よりも増減率が高く、30%以上の寄与率となっています。

20代世帯の消費支出の項目別増減率。「食料」「交通・通信」「その他消費支出」の寄与率が高い。
出所/政府統計「家計調査」より筆者作成

この3項目について、さらに細分化してみると若者消費の傾向を掴むことができる事実を発見することができました。

まずは、食料です。前年同時期12%に最も貢献したのは、寄与率20%の野菜・海藻です。次いで肉類17%、穀類16%です。4月以降、多くの世帯で自宅での食事が増えたなかで20代世帯でも自宅での食事が増えた結果としてみることが出来ます。注目すべきは野菜と肉類の寄与率が高いことです。コロナ禍で運動不足となり食の面からダイエットを行っている状況が想定されます。また、2019年からの筋肉ブームでタンパク質とサラダを積極的に摂取している状況が目に浮かびます。

次に交通・通信分野です。おうち時間が増えた中でSNSや動画配信サービスを楽しむ若者が増加したことは想像が容易ですが、データからそれ以上に興味深い傾向が分かりました。

20代世帯の交通・通信項目の増減率。
出所/政府統計「家計調査」より筆者作成

移動が少なくなった分、交通はマイナスの寄与率です。既述の仮説通り通信も11%の寄与率ですが、それ以上に自動車等関係費が93%と大きく寄与しています。おそらくコロナ禍の移動手段として、他者との接触が少ない自家用車に注目が集まったことが要因として考えられます。

最後が、その他消費支出です。家計調査の費目分類9項目に当てはまらない支出を集めたものなので中分類よりもさらに細かい小分類で寄与率を算出してみました。すると6月~9月までの4カ月間で最も寄与率が高かったのは、腕時計の36%でした。コロナ禍で将来への不安が募り、不要不急の支出は減少するかと思いきや意外にも趣味性の高い腕時計が最上位にランクしていました。

他の諸経費のその他30%の次に、たばこの9%、他の非貯蓄型保険料9%と続きます。コロナ禍でのストレスによってたばこの消費が増えたということでしょうか?掛け捨ての保険はやはり不安解消ニーズを満たすものと考えられます。

では、今後もこの消費傾向は続いていくのでしょうか。次回は、6カ月先の懐具合を調査している「消費者態度指数」から、傾向を見ていきたいと思います。

蛭川 速氏(フォーカスマーケティング 代表取締役)

大学卒業後、地方銀行を経てマーケティング専門のコンサルティング会社へ勤務。以来18年間、商品企画や販売促進などマーケティング支援を行う。2012年より現職。「マーケティングは仮説設定がすべて」が信条。定量データから戦略仮説を見出す手法を考案。著書に『社内外に眠るデータをどう生かすか~データに意味を見出す着眼点~』(宣伝会議)『基本がわかる 実践できる マーケティングの基本教科』(日本能率協会マネジメントセンター)『よくわかるExcelデータ分析入門』(富士通オフィス機器)がある。

 

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