2019年に100周年を迎えたオリンパス。2011年に損失計上先送りが発覚し、一時は上場廃止の瀬戸際にも陥った。会社を一から本気で変え、そしてグローバルで持続的に成長できる組織をつくるために、同社は何を行ってきたのか。変革の一端に関わってきたコミュニケーションズ, グローバル(バイスプレジデント)の渡邉徹氏に聞いた。
*本記事は12月1日発売の『広報会議』の転載記事です。
オリンパスは2019年10月に100周年を迎えた。2011年に損失計上先送りが発覚し、世間に与えた透明性への不信感、成長への不安。「これから先の100年も会社を存続するためには会社を一から本気で変えなきゃいけない。そしてグローバルで持続的に成長できる組織をつくる必要がある」。同社で変革の一端に関わってきたコミュニケーションズ, グローバル(バイスプレジデント)の渡邉徹氏はこう語る。
経営理念の再定義
2016年の中期基本計画「16CSP」に織り込まれたのは、①経営理念の再定義 ②グローバルガバナンス体制の構築、③業務効率の追求。「①について、自分たちでさえ明解に説明できない企業理念では意味がない。これから特にグローバルに持続的に成長を目指すうえでも自社の価値観を定め、全ての従業員と共有することが必要だと考えました」。
2017年から人事、コミュニケーションズ、また推進メンバーとしてグローバルで300人の「アンバサダー」が選出された。「一部の役員が会議室にこもって立てた理念では従業員が腹落ちできるわけがない。『やめるべき』『やるべき』『やりたい』行動様式について徹底的に様々な部署を巻き込んで討論しました」。
そうして2018年にOur Purpose(私たちの存在意義)として「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」、また達成するためのOur Core Values(私たちの価値観、以下コアバリュー)として誠実、共感、長期的視点、俊敏、結束の5つを設定した。そしてこれらを組み合わせて経営理念とした。
コアバリューは、新たにできたグローバル経営体制、人事制度のほか、決裁プロセスの見直し、ドレスコードの撤廃など、ハード・ソフト両面で変革を進めていく上での拠り所となった。渡邉氏は「コアバリューを体現できる人がリードする組織運営の体制にしなければ、経営理念は絵空ごとで終わってしまいます。人事やコミュニケーションズを巻き込んだプロセスをとり、なにより社長を含む経営陣の『透明性』と変革への強い意志が重要だったと思います」と説明する。
あえて華美にしない周年
同時に2017年4月から思案に入った100周年プロジェクトでは、「あえて」盛大なイベントやプロジェクトは行わなかった。
「お祝いするのは誰のためで、何のためなのかを再考しました。会社が変わろうとしている今、これまでの、そしてこれからの従業員のために、コアバリューを振り返る機会にすることを第一にコンセプトメイキングしました」。
2018年4月から本格的にプロジェクトを進行。中でも「医療」「科学」「映像」の3事業ごとに6、7分にまとめたドキュメンタリービデオの制作には力を入れた。
医療事業篇
映像事業篇
科学事業篇
従業員や各ステークホルダーにインタビューを実施し、動画で各事業の経営理念との結びつきをまとめた。現在も公式YouTube上で公開しており、コアバリューを社内外に示すコンテンツとなっている。その他「コミュニケーションガイドブック」を作成し、100周年での外部とのコミュニケーションを細かく規定するなど発信時の統一感への工夫も行った。
2019年1月には企業変革プラン「Transform Olympus」を発表。真のグローバル・メドテックカンパニーを目指し、さらなる変革に本腰を入れる。
10月12日の創業記念日には「コアバリューウィーク」として、グローバル全従業員が5つの「コアバリュー」を再認識する1週間を設定。今後も毎年実施していく予定だ。「本気で持続的成長を目指すために、やりきる、やり続けることが必要。コミュニケーションズとしては、企業の変革状況を社内外に伝え、理解を得て、信頼を構築していきたいです」と渡邉氏は展望を語った。
オリンパス
1919年創業
1919年10月、顕微鏡の国産化を目指し、社名「高千穂製作所」として発足。翌年同社初の製品となる顕微鏡「旭号」を発売。1950年には世界初の実用的な胃カメラを開発。現在医療事業は全体の8割を占める基幹事業となっている。2003年に現社名に。2011年、旧経営陣による不祥事が発覚。2012年に経営層を一新し「新しいオリンパス創生に向けた中期ビジョン」を、2016年には中期経営計画を発表。2019年に企業変革プラン「Transform Olympus」を掲げ改革を進める。連結従業員数は3万5174人(2020年3月末時点)。
月刊『広報会議』2021年1月号
月刊『広報会議』2021年1月号巻頭特集では「2021年コロナ下の『危機対応』実例と応用」と題し、毎年恒例の2020年不祥事ランキングをもとに2020年に発覚した不祥事とその問題点について専門家に解説いただいています。
巻頭特集
2021年コロナ下の
『危機対応』実例と応用
・CASE1 ドコモ口座不正利用問題
植村修一(元日本銀行審議役/元大分県立芸術文化短期大学 教授)
・CASE2 フジテレビ誹謗中傷への対応問題
鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)
・CASE3 ストライプインターナショナル セクハラ問題
角山剛(東京未来大学学長/産業・組織心理学会理事)
・CASE4 沖縄タイムス コロナ給付金不正受給問題
田中正博(田中危機管理広報事務所 代表取締役社長)
・リスク広報最前線 特別編
東証のシステム障害を通じ学ぶ 広報の押さえるべきポイント
・GUIDE 社員の不祥事~傾向と対策~
平野日出木(エイレックス取締役副社長)
【特集2】実践!危機管理広報 記者会見編
・GUIDE1
不祥事発覚から記者会見、事後対応まで
広報対応シミュレーション
・GUIDE2
記者会見まであと1時間
広報担当者のチェックポイント
・COLUMN
大戸屋HDとコロワイドの買収劇
記者が見た「真逆」の広報対応
【特集3】実践!危機管理広報 リリース・社内フォローほか編
・GUIDE1
お詫びリリースの書き方
・GUIDE2
不祥事発覚時の「社内へのフォロー」
・GUIDE3
SNS時代の炎上対策
批判を受けるメカニズムを知ろう
・OPINION
V字回復企業に見る危機の乗り越え方