緊急事態宣言発令下、店舗を持つ企業はどう顧客との接点を維持したか? 5名のマーケターの挑戦

2014年11月から活動をしてきた「CMO CLUB GLOBAL」は2020年11月11日、東京・ANAインターコンチネンタルホテルにて「CMO CLUB FORUM」を開催した。「CMO CLUB GLOBAL」では2020年4月から「マーケターの、マーケターによる、マーケターのための組織」として、運営の在り方を刷新。各業界ごとに6名のボードメンバーを選出して、そのメンバーが中心となって年間の活動を設計・実行してきた。今年は6名のボードメンバーがマーケターにとっての5つの課題を提示し、それぞれの課題別に分科研究会を企画。ボードメンバーがリーダーとなって、研究会を重ねてきた。ここでは「オンライン化で変わる顧客との関係」をテーマにしたパネルディスカッションの様子をレポートする。

写真左から景井 美帆氏、林 直孝氏、柘野 英樹氏、高田 賢二氏。

[パネルディスカッション概要]
テーマ:オンライン化で変わる顧客との関係
〇チームリーダー
景井 美帆氏 シャープ 通信事業本部 営業統轄部 市場開拓部 部長
〇メンバー
■鶴田 一彦氏 セントラルスポーツ 取締役 店舗開発部長 兼 新事業開発部長
■林 直孝氏 パルコ 執行役員 CRM推進部 兼 デジタル推進部担当 パルコデジタルマーケティング取締役 アパレルウェブ取締役
■柘野 英樹氏 ブックオフグループホールディングス 兼 ブックオフコーポレーション マーケティング執行役員
■高田 賢二氏 ユナイテッドアローズ OMO推進部/情報システム部/自社EC開発室担当 執行役員

コロナ禍で店舗の接客はどう変わった?

景井 美帆氏

景井:私はシャープでコミュニケーションロボット「RoBoHoN」の事業責任者をしています。テクノロジーの活用で効率を改善するだけでなく、新しい体験を提供することを「RoBoHoN」の事業を通じて目指しているので、私のチームではテクノロジーを活用して顧客にとっての新しい価値づくりをテーマに議論を進めようと考えていました。

ところが、ディスカッションが始まってすぐに緊急事態宣言が発令され、参加メンバーの皆さんが店舗を持つ業態の企業だったこともあり、コロナ禍で店舗の営業を自粛せざるを得ない状況に。テクノロジーを活用し、いかにしてコロナ禍においても顧客との関係性を維持できるか、現在進行形の取り組みを共有する場となりました。今日は、私たちがこの半年の間に取り組んだこと得た知見を共有できればと思います。では、皆さんからコロナ禍における取り組みを紹介いただけますか。

高田:ユナイテッドアローズでは緊急事態宣言を受け、4月~5月は全店舗をクローズしました。6月からは徐々に店舗もオープンしていますが、なかなかリアル店舗の客足は伸びていない状況です。一方でECの売上は大幅に伸長しました。しかし、今回のコロナ禍では従来のECではなく店頭にいる販売スタッフの力をオンラインでの売上に生かす取り組みが進んだと思います。

例えば5月からはLINEを使ったチャット接客をスタート。さらにライブコマースも始めました。販売員が出演する1時間程度のライブ配信を開始して、配信前の1週間と比べると、おおよそ平均で売上が140%になりました。当社の強みは、商品の背後にある物語や複数商品を組みあわせたコーディネート提案ができるスタッフの接客力なので、その力をうまくオンラインでも提供できるようになってきたと感じています。

林 直孝氏

林:私たちパルコも高田さんと同じで約2カ月間、全国のパルコ店舗の休業を余儀なくされました。パルコの店舗にいらっしゃる方は、購入するものが決まっているわけではなく、「なんとなく、こんな感じの服」というイメージで来店されている。そこで、販売員の接客が重要なサービスになるわけですが、だからこそ店舗が休業しても、接客を継続できる仕組みをいかにつくるか、が今回のチャレンジでした。

例えばInstagramを使ったライブコマースも始めましたが、国内だけでなく海外のお客さまを対象にした越境ライブコマースも開始して、国外のお客さまに購入いただく機会も増えています。店頭の接客をオンライン化することで、逆に国外にも顧客接点を拡張することができたのではないかと考えています。

柘野:私たち、ブックオフコーポレーションも店舗を休業せざるを得ませんでした。店舗は全国に約800店舗ほどあるほかオンラインストアも展開しているのですが、なかなかその認知が高まっていませんでした。そこでコロナ禍は、私たちのオムニチャネル戦略を推進する大きな機会になったと思います。リユース業界は商品の販売だけでなく、お客さまからの商品の買い取りと複数の接点があります。もともとリユース業界のビジネスモデルが変わるなか、いかにして強い関係性を構築していくかが課題だったので、改革が大きく進んだ印象です。

柘野 英樹氏

具体的に注力したのは、約200万人の方が登録するアプリ会員の基盤をベースとした取り組み。従来のポイントカードをタイムリーにコンタクトが可能になるアプリへの切り替えを進め、さらに店舗だけでなくオンラインストアもシームレスにつないだサービス提供を進めています。

景井:ちなみに鶴田さんは今日、欠席で私が変わりに取り組みを紹介します。セントラルスポーツでも、インストラクターの指導力に企業としての強みがあると考え、コロナ禍では、オンライン配信などジムに来れなくてもトレーニングを継続できる取り組みをされてきたそうです。

また、オンラインだけだと「誰かと一緒に運動する」という臨場感のようなものが欠けていると考え、インストラクターの指導力という強みを生かした、トップインストラクターの各クラブ同時、リアル配信のトレーニングという新しいサービスも始められています。今後、5Gの普及に伴い、さらなるサービス開発も考えているそうです。

加速度的に進むリアル店舗のDXは、現場から始まった

高田:今回の経験を通じてよかったなと思うのは、単にECに振り切ったわけでなく、オムニチャネル化が進んだことですね。例えばライブコマースはECの売上だけではなくて、実店舗の来店喚起にもながっている。販売スタッフの接客力を活用することに、非常に意義があるのだと思います。

林:私も同感です。コライブコマースもチャット接客も、技術的には以前からできることでした。でもお客さま側のニーズも、または販売スタッフ側のモチベーションもなかった。それが今回は販売スタッフが「お客さまに商品をお届けしたいのだ」という強い思いがあって、それに各社の本部が対応した流れでしたよね。通常、こうしたデジタル活用は本部主導で進めると、現場を巻き込むことが難しかった。今回は、現場の熱意に押されて進んだことが、一気にデジタルシフトが進んだ要因ではないでしょうか。

景井:なるほど。現場発信だったからこそ、うまく機能したのですね。逆に皆さんが想像もしなかったという活用方法が出てきたりするのでしょうか。

高田:店頭の接客はワントゥワンですが、ライブコマースだと1対Nのコミュニケーションができる。多くの方を対象に接客するなかで、商品の価値の伝え方の技術がさらに高まったと思います。

景井:柘野さんのビジネスから見て、オンライン化の良かったところはどこですか。

柘野:私たちのビジネスに限らず、良い意味でも悪い意味でも人と人がすごくつながりやすくなったということはあると思います。うまく活用できれば、企業とお客さまの距離を縮めることができる。一方で距離感が近くなったがゆえに、企業側にはより熱量の高さが求められていて、表面的なコミュニケーションはお客さまに見透かされる時代でもあると思います。

景井:オンライン、オフライン問わず顧客とのコミュニケーションを新しく構築していかければならないということですね。

林:ただ現時点でオンラインのコミュニケーションに足りていないのが、セレンディピティの要素。偶然の出会いは、やはりリアル店舗の方が起きやすいですから。オンラインでも微妙に外したリコメンドができるような遊び心をどう取り込めるかが課題ですね。

高田 賢二氏

高田:オンラインには利便性がある一方、店舗で販売スタッフが目指すような究極のサービス精神は発揮しづらい。例えば、数十万円のスーツをオンラインで購入いただいたとして、もしその商品が入っていた箱が汚れていたりしたら、お客さまはがっかりしますよね。お客さまがご自宅で箱を開ける瞬間まで、ワクワクしていただけるような体験設計を突き詰めて考えていく必要がありますね。

景井:各社の事例を聞き、オンライン化が加速的に進み時間と場所の制約なく、お客さまとの接点が拡張させることができたことがわかりました。ただ、今回のポイントはリアルの体験を拡張する形でのオンライン活用であるという点。今後、AIさらに5Gといったテクノロジーの進化が進むと思いますが、そこでお客さまも企業側もあくまで、人を中心にした体験設計が必要なのだなと思いました。

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