実写化もオリジナルも「テーマ設定」が肝
漫画や小説を原作とする実写映像化作品の脚本と、『アンナチュラル』『MIU404』といったオリジナル作品の脚本、どちらも数多く手掛ける野木氏だが、意識として大きな違いはないという。
「もちろん原作がある作品に関しては、原作者や原作ファンをがっかりさせないよう、裏切らないように、という意識はあります。しかし、実写映像化作品もオリジナル作品も、その時その時でドラマとして、映画としてどのようにベストな作品にするのかが重要。なので、原作があるから、オリジナルだから、といった区別は特にしていません」。
脚本の執筆を開始するにあたり、野木氏が必ず行うのがテーマ設定。そのドラマ・映画で伝えたいこと、見せたいものを定め、それに向かって執筆を進めていく。
「実写映像化作品は原作が持つテーマがあった場合も、それとは矛盾しない範囲で自身が書く上でのテーマを決めます。特に、連続ドラマや映画などシナリオが長くなる作品は、テーマを設定しないまま執筆を進めると、発信するメッセージが雑然として辻褄があわなくなるなど、全体の輪郭がぼやけた作品になってしまう。
テーマを決めておけば、それをゴールとして書き進めることができ、迷った際に判断するための“指針”にもなります」と執筆におけるポイントを話す。
このように、その作品をどのようなものにしたいのか、自身の中で意図を持つことは非常に重要だと野木氏はいう。
「海野つなみ先生原作の『逃げるは恥だが役に立つ』は、作中では“呪い”と表現していますが、“こうあるべき”という世の中の圧力から逃げ出そうという話。1月2日放送予定の『ガンバレ人類!新春スペシャル!!』も、同調圧力や“男ならこうあるべき”“女ならこうあるべき”といった勝手な決めつけから、そろそろ解放されてもよいのではないか、という思いを込めています」と野木氏。
しかし、テレビドラマや映画はストーリーの制作や見せ方の検討にも多くの人がかかわる総合芸術。監督やプロデューサーと、目指す方向性が異なることもしばしばあるという。
「複数人の考えによって作品の見せ方が決まるのは、ひとりで作品をつくっている小説家や漫画家とは異なる点。私が脚本家として“こうしたい”と意思を持っていても、それをはっきり伝えなければ形にはなりません。監督、プロデューサー、脚本家、それぞれが自分の考えを伝え合ってコミュニケーションを取ることが必要です。
ここでのコミュニケーションとは、“良い人”であるためのコミュニケーションではなく、“良い作品”をつくるためのコミュニケーション。皆が意思を持ち、それをぶつけ合うことで作品は生まれるのです」。