世界でも有数の高齢社会である日本。シニア世代は、企業がマーケティング戦略を立てる上で無視することのできない重要なターゲット層となっている。そんなシニア世代が持つ“生の声”の力について、産経リサーチ&データ取締役の澤田英士氏に話を聞いた。
グループ会社の知見を活かしネット&電話でニーズに対応
2020年9月に総務省統計局が発表したデータによれば、日本の総人口は減りつつも65歳以上の高齢者の人口は増加。総人口の28.7%を占めるほどとなっている※
加えて、そうしたシニア世代のなかには時間と資産に余裕のある人々も少なくない。10年ほど前からその購買力に期待を寄せる企業も増えてきており、「シニア世代を中心としたリサーチができないか」という声が増えているという。
しかし現在、主流となっているネットリサーチは、パソコンやスマートフォンなどのデバイスを使いこなしているユーザーの声が反映されやすい。そのため、ネットリサーチのモニターは若年層や働き盛りの世代が中心になりがちで、シニア世代においては、モニター母数の確保が難しかったり、デジタルデバイスに不慣れな層の意見が拾えなかったりという課題があった。そこで2020年10月、産経新聞社とテレマーケティング会社のアイ・エヌ・ジー・ドットコムがタッグを組み設立したのが、産経リサーチ&データだ。
同社が持つモニター会員データの母体となる「産経iD」は、産経新聞の購読や産経新聞グループが主催するイベントのチケット申し込み等で構築された会員基盤。美術展や落語といったシニア層が好むイベントも多数実施していることから、シニア世代が6割程度を占めるという特徴がある。
大手ネットリサーチ会社でもシニアのアンケート回収が難しいと言われるなか、同社のシニアのアンケートモニター数は現時点で約10万人。5年以内に100万人を目指すほど、シニア世代をターゲットとしたリサーチ力が強みとなっている。
また、「産経iD」の会員データの活用に加え、同社ではテレマーケティング会社アイ・エヌ・ジー・ドットコムのコールセンターの知見により、電話による調査も可能。パソコンやスマートフォンを使いこなせるモニターには、一般的なインターネットリサーチを実施し、ネットリサーチで取りこぼしてしまう層には、電話で接点を持つことができる。
電話調査は調査会社側がモニターリストや電話帳の番号などに架電し調査を行う方法が一般的だ。しかしこの場合、架電をした際にモニターが繁忙で、ゆっくり会話ができないケースが多々ある。
そこで同社はアンケート告知時に電話番号を明記し、都合が良いタイミングでモニター側から電話を架けてもらいインタビューが実施できるよう、コールセンターの体制を構築した。モニターの回答環境が整った状態で調査を行うことで、丁寧なコミュニケーションをとることができ、フリーアンサー(選択肢形式ではなく、自由な言葉で回答してもらう形式)が充実した内容になるというメリットも生まれている。
今後は、電話調査の特徴を活かし、会話音声データから感情分析などにより、ネットリサーチだけでは読み取れないシニアの思考や嗜好までを深く掘り下げ、クライアントへフィードバックすることも目論んでいるという。
同社取締役の澤田英士氏は、「相談を受ける内容は幅広く、『どういったニーズを持っているか』などの商品開発段階におけるリサーチから、『どのようなメディアで広告をうてばターゲットにリーチするのか』といった広告宣伝に関するリサーチまで、さまざまなニーズに対応して調査を行っています」と話す。
例えば、関西の温浴施設では、集客力アップを目的に世間のニーズを調査。シニア利用が相当数を占める温浴施設の案件に対し、「産経iD」の会員データと、ネット&電話により母数を確保しつつ、テレマーケティングで培った知見を活用し、電話でのニーズの深掘り調査も実施した。
「モニターとコミュニケーションを取りながらリサーチできる電話調査は、定量的なデータだけでなく、よりニーズの本質に近い定性的な意見を集めることができます」と澤田氏は電話調査との併用の価値を語る。
リサーチ業務を超えたマーケティング支援まで行いたい
同社では現在リサーチ業務が中心となっているが、今後は「産経新聞」や「サンケイスポーツ」「産経ニュース」など、多くのメディアを持つ産経新聞グループの総合力を活用し、調査結果のメディアでの広報や、調査の結果をもとにつくられた商品やサービスの発信など、リサーチ業務から一歩進んだマーケティングサポートを行っていきたいと澤田氏は話す。
また、同社では大学教授と連携することで、経済効果測定も実施している。リサーチからアウトプットまで、クライアントのマーケティングを幅広く支えていけるパートナーとして、存在感を発揮していくことを目標に設定しているのだ。
「『産経リサーチ&データ』と社名に『データ』を入れているのは、単なる調査会社としての役割を果たすだけではない事業の展望を見据えているからです。調査を請け負うだけではなく、シニア世代に関するデータを集約し、ニーズの解析やクリエイティブ手法の提案まで含めたシニアを対象とした総合的なマーケティング支援会社になることを目指しています」と、澤田氏。
今後はますます「シニア世代」とひとくくりにできない価値観の多様化が予測される。
企業からの依頼に加え、ワーケーション体験の参加者募集などで自治体と連携したサービスも実施している同社。多様な市場に関わることで獲得している幅広いデータと知識を活かし、リサーチ、さらにはデータの活用により日本の重要市場におけるマーケティング活動をサポートしていく考えだという。
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