文/西山 守 マーケティングコンサルタント
*本記事は12月28日発売の『広報会議』の転載記事です。
2020年10月16日に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。公開日の前後で「鬼滅」関連の投稿がどれだけあったのか、Twitter話題量の推移を表したのが図1です。
図1 Twitterでの「鬼滅」「鬼滅の刃」「無限列車」の話題量(サンプリングデータからの推計値)
多くの映画は、公開初日に話題量のピークが来ます。一方で同作は、公開後も複数の山ができ、話題量の減り具合も緩やか。話題化の燃料となるネタが、豊富に投下されています。この波形は“イジりネタ”で何度も話題が盛り上がった『翔んで埼玉』に似ています。
Twitter上に出ていた話題を大きく分けると、①公式の情報発信 ②企業コラボ ③映画をネタにした二次創作 の3つで、盛り上がりが見られました。
ファン垂涎ネタを次々「解禁」
リツイートが最も多かったのは「鬼滅の刃公式」アカウントの投稿です。特徴的なのは、「解禁」とうたった投稿。映画のPV解禁、キービジュアル解禁、と非公開だった最新情報を徐々に発信しています。歓喜したファンがその投稿を拡散し、話題が維持される形です。
作品の世界を深く探究したいコアファンのニーズをつかむ投稿もされています。例えば、描きおろしイラストと共に「本日は宇髄(うずい・作中のキャラクター名)の誕生日!」とツイート。アニメファンにはキャラクターに設定された誕生日を祝う文化があり、ファンの期待に応えているのです。「おめでとう」の返信が延々と続きました。
原作を掲載する集英社『少年ジャンプ』編集部の公式アカウントも、話題を喚起しています。注目したいのは「フォロー&RTで、ポスターを抽選で3名様に」といった投稿。当選者は少人数でもファンが喜ぶプレゼントを継続的に行っている点です。たとえ当選しなくても、何度でも参加したくなるコンテンツを発信する、単なる告知に終わらせない。こうした姿勢は、広報担当者にとって参考になりそうです。
街中に鬼滅コラボがあふれた
ローソン、パズドラ、バンダイなど、企業コラボに関する投稿も話題を押し上げました。企業コラボ関連の話題が映画を盛り上げる流れは『天気の子』でも見られました。プロダクトプレイスメントを軸としたコラボが盛んだった『天気の子』に対し、『鬼滅の刃』の舞台は大正時代。コラボは、作品の「外」で拡がり、街の至る所で鬼滅の刃のキャラクターを目にしました。
こうした「面」の拡がりは、コアファン周辺層へのアプローチに寄与します。特に、パズドラは公式アカウントで「キャラクターグッズセットが毎日抽選で5名様に当たる」フォロー&リツイートキャンペーンを行い、SNSでの話題化に大きく貢献しています。
またコラボできるキャラクターがたくさん揃っているのも『鬼滅の刃』の強みです。ダイドーは28種類ものコラボ缶を発売。収集欲を刺激しているのが、投稿からもうかがえます。
「乗っかりやすい」ネタ
キャラクターの強さは、作品をネタに創作活動を楽しむ投稿にも表れています。例えば、著名人や一般人がコスプレした投稿は、多数存在します。
ほかにも「主題歌を歌ってみた」「作品のキーアイテムを作ってみた」など、「〇〇してみた」関連の目立つネタとして『鬼滅の刃』が位置づけられています。クオリティが高い創作活動には、称賛の投稿が集まり、ファンの自発的な投稿が、話題量を加速させました。
メディアは「ヒット記録」に関心
投稿で引用されたメディアの記事を見ると、「10日で興収100億円突破」など、大ヒットを記録したニュースが目立ちます。こうした情報は、ヒットの連鎖反応を引き起こします。「それほど流行っているなら」と映画館に足を運ぶ人が出てくるからです。さらに映画を見た人からの「アニメを見ていなかったけれど楽しめた」といった口コミが映画館へ行くハードルを下げたと言えるでしょう。
公開前の投稿では「上映回数多すぎ」といったニュースも引用されています。コロナで映画の新作が少なく、作品に接しやすい環境だったことも、記録的なヒットの一因です。公開直前に、フジテレビの地上波全国ネットでアニメを放映したことも、話題になりました。
世代間を埋める
バズった投稿のひとつに、ある看護師の方のツイートがあります。子どもに注射する時「『全集中の呼吸だよ!!!』と言うと『深呼吸する』とか『落ち着いて集中する』という意味ですぐ伝わってくれる」ので助かる、というもの。大人と子どものコミュニケーションを『鬼滅の刃』が円滑にしているのが分かります。
「PG12指定」のため、小さい子どもに見せる是非を問う投稿もあった一方で、「家族で鬼滅にハマっている」など、親子関連の投稿が多いのも本作品の特徴です。ステイホームで家族の時間が増え、「世代を越えて楽しめる」話題を欲していた。そんな生活者の期待が、Twitterから見て取ることができます。「世代間を埋める話題」は、2021年も求められるのではないでしょうか。
西山 守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント
電通にて、20年間にわたって調査研究、マーケティング、戦略PR等の業務に従事。ソーシャルメディアマーケティング、特にソーシャルリスニングに関しては、ソーシャルメディアの黎明期から継続的に取り組み、ソリューション開発や市場開拓を行ってきた。2017年よりマーケティングコンサルタントとして独立。近刊に『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』がある。
『広報会議』2021年2月号では、そのほかコロナ禍のヒットをPR視点で読み解いている
広報会議2021年2月号
【巻頭特集】
広報の計画2021
約120社に調査
【特集2】
PRが生きた!
コロナ下のヒット
OPINION1
Twitter分析から読み解く『鬼滅の刃』
話題の連鎖反応を生んだものとは
西山 守(マーケティングコンサルタント)
OPINION2
視聴者をブームの共犯者に巻き込む
NiziUに見るファンづくりの手法
境 真良(国際大学GLOCOM客員研究員)
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