文/境 真良 iU准教授/国際大学GLOCOM客員研究員
*本記事は12月28日発売の『広報会議』の転載記事です。
新型コロナ対策に追われた2020年、エンタメ界では韓流の風が吹き荒れた一年となりました。その中でも新しいパターンのムーブメントを開拓したものにNiziU、そしてNizi Projectがあります。その新しさは様々ですが、煎じ詰めれば3点に集約できるかと思います。
新しいムーブメントの開拓
まず、K-POPプロジェクトの本格展開を初めて日本で行ったこと。「いや、これまでも展開してきたじゃないか」と言われそうですが、あくまでこれまでは、韓国で開発したK-POPグループの国際展開や、メンバーに日中台などの外国人を入れたということに過ぎませんでした。本来のK-POPグループの開発とは、比較的長期間のオーディション番組でデビュー前に消費者への浸透を図る手法が主流であり、その全体がプロジェクト展開なわけです。
この手法の狙いは、デビュー前に形成したファンの活動と連携し、デビューと同時にYouTube再生回数など、人気ランキングでの上位獲得で話題づくりを行うことにあります。これらはマスメディアにも影響を与えます。そうすることで初期ファンではない消費者に強い印象を与え、浸透をさらに図っていく。ネットワーク効果 *1 、バンドワゴン効果 *2 的な手法で、デビュー時に一気呵成な垂直起ち上げ的成長を狙えます。
この手法をそのまま日本で行った例は、すでに知名度があったAKBグループとの連携という特殊事例のIZ*ONE除けば、今回のNizi Projectが初めてであったと思います。
このK-POP独特の話題づくりが、2つ目の新しさ、Nizi Projectのメディアパートナーと言える日本テレビの新しいメディア戦略につながっています。テレビ局は、従来であれば、テレビ放送をファーストウィンドウとして、その後、見逃し視聴メディアとしてのネット配信につなげていく流れが不文律でした。
しかし、Nizi Projectのファーストウィンドウはネット配信の「Hulu」であり、それを日本テレビが深夜枠番組『Hulu傑作シアター』『虹のかけ橋』で追いかけながら同期していき、それらをさらに朝の情報番組『スッキリ』で毎週の特集枠で煽りながら、6月のクライマックス(プレデビュー)を迎えるという展開になりました。
そして、途中参加者を支える見逃し視聴は、「Hulu」とテレビ放送から約1カ月遅れの時間差配信でYouTube配信に担わせています。この①有料会員制配信メディアのHulu②無料オープン放送メディアの地上波テレビ③無料オープン配信メディアのYouTubeという3つの媒体を、その特性に合わせて組み合わせる設計は、なかなか丁寧です。
Nizi Projectにおけるメディア戦略
「ホンモノ感」への期待
そして、その中から飛び出した新しいスター、NiziU……ではなく、それをプロデュースするJ.Y.Parkというキャラクターが3つ目の新しさです。J.Y.Parkはオーディション参加者を、基本は優しく評価し、支え、時には厳しく叱責し、そして最後は冷静に切り捨てていきました。その姿は、明らかにひとつのコンテンツでした。
本来ならその独裁ぶりは憎々しく映りかねないのですが、その真摯な姿、そして韓国芸能産業の大物人物である彼自身が、拙い日本語で喋る姿の可愛さがそれを救いました。そして、芸人の中からJ.Y.Parkのモノマネが出てきたりするあたりは、世の中にブーム感を醸し出せますし、そこにJ.Y.Park本人が登場する(元アーティストである彼ならではの神対応ですが)あたりは良い意味での悪ノリ感すらあります。
こうした中で、タレントの間でNizi Project(とJ.Y.Park)の名が口に上ることが増えていきました。芸能人自身が別の芸能人を語るタイプの運動は、対象に「ホンモノ感」を漂わせ、メディアを越えた展開をするブームを生みやすいのですが、今回はこれが働いたように感じます。
「Hulu」やYouTubeなど、ネットメディアを中心に展開したことも、コロナ下でネット接触時間が増加した中、口コミ的ブームの基盤となるSNSなどとケミストリーを起こしやすく、プラスに働いたのでしょう。
すでに10代、20代の若者にとって韓国の事物は身近なものですが、ことK-POPグループにおいては、日本のアイドルに比べ、「ホンモノ感」を前面に押し出すカッコイイもの、と位置づけられるのが特徴でしょう。これとオーディション番組との相性がとても良い点は重要です。
実は、冷静に見直すと、こうしたブームづくりの手法は既に日本のオーディション番組やアイドルづくりの中であったのですが、テレビのオーディション番組から大型アイドルが生まれる例は「モーニング娘。」を最後に絶えています。今、日本のアイドル産業界やメディア産業界では“不完全性志向”を過度に重視する流れがあり、この手法を上手く使えていないのが現状であるように思います。
今回のNizi Projectは、日本のエンタメ産業界が仮に“不完全さ”を魅力とするとしても、ギャップ萌えと言いましょうか、それゆえの「ホンモノ志向」の価値、真剣に努力する人々の姿がコンテンツとして強いことを再確認させてくれました。
そしてプロモーションという側面からは、それを商品展開前からの顧客のエンゲージメント、顧客をブームの共犯者にしていく仕掛けにつなげていく設計論の有効さを見せてくれたという意味で、広報パーソンも学ぶところが大きいのではないでしょうか。
境 真良(さかい・まさよし)
iU准教授/国際大学GLOCOM客員研究員
1993年東京大学卒業後、通商産業省に入省。
経済産業省メディアコンテンツ課の起ち上げに課長補佐として参画。
その後、東京国際映画祭事務局長、ドワンゴ・セクションマネージャなどを歴任。
現在、情報処理推進機構(IPA)参事、iU准教授、国際大学GLOCOM客員研究員などを務める。
専門分野はIT、コンテンツ、アイドルなどに関する産業と制度。
『広報会議』2021年2月号では、そのほかコロナ下のヒットをPR視点で読み解いている
広報会議2021年2月号
【巻頭特集】
広報の計画2021
約120社に調査
【特集2】
PRが生きた!
コロナ下のヒット
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Twitter分析から読み解く『鬼滅の刃』
話題の連鎖反応を生んだものとは
西山 守(マーケティングコンサルタント)
OPINION2
視聴者をブームの共犯者に巻き込む
NiziUに見るファンづくりの手法
境 真良(国際大学GLOCOM客員研究員)
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