適切な目的でのデータ活用が必須に
現在のインターネットの世界は広告で成り立っています。生活者のデータプライバシーを無視して、フリーミアムの経済圏はつくられてきました。生活者は無料でネット上のサービスにアクセスするために、自分のデータを交換価値として提供してきたわけです。これまではそのデータが同意もなしにサービス提供者に自由に使われていました。その時代が終わろうとしています。ただし、データの取得が終わるわけではありません。ウォルマートのCEOは、「データを取って、透明性をつくり、適切な目的のもとにデータを業務に活用して進めることが必要だ」と話しました。
2020年は遠隔診療がアメリカでは一気に浸透し、データをシェアすることは自分の命を救うことにつながる、という実感を多くの人が持つことになりました。生活者は、自分のプライバシーを守ることと、自分のデータを提供することによってサービスを享受することのバランスを自らが判断していかなければなりません。ただし、これは自動車購入と同じようなものだと米国防総省のハッサン氏は述べます。自動車に乗れば早く移動もできるが、事故に遭う可能性もある。常に人類はそのバランスを考えて選択してきたわけです。
一方で、データを取得する事業者側はサイバーアタックのような事態も想定してデータを取り扱う必要があると言います。サイバーアタックの脅威は終わることはないことを肝に銘じて、アクセス認証を強化することはもちろん、データをひとつの場所にまとめて管理することは避け、取得したデータはAIとクラウドを駆使して保存しなくて済むようにするなどの対応をする必要があります。
信頼という点においてはもうひとつ、懸念が高まっています。それは自分が取得する情報に対する信頼です。ニールセンのチーフマーケティング&コミュニケーションオフィサーは、「今人々は信頼できる情報源を求めており、なぜこの情報が正しいと判断できるのかという確信を得たい」と述べました。また、バイスメディアグループのアーロン氏も、「生活者はSNSで見たものの多くは簡単には信頼せず、信頼したブランドから正しいニュースを得たいと思っている」と述べます。誰がこのニュースを持ってきたのかということがとても大切な状況になっているのです。
コロナパンデミックを契機に人々が急速にオンラインにシフトし、それによって人々の中で、自分たちが提供するデータの扱われ方、また取得するインフォメーションに対する信頼性はますます重要になっています。
マイクロソフトは信頼を築く取り組みの重要性を説き、信頼性を高めることはロイヤリティ醸成のカギであると紹介しました。データ時代に突入し、「信頼」が企業の生き残りを左右する重要なキーワードとなっているのです。
玉井博久
Glico Asia Pacific Regional Creative & Digital Senior Manager 兼 江崎グリコ アシスタントグローバルブランドマネージャー
広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』。2018年より3年連続CESに足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見を、マーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは、2020年にチョコレートコーティングされたビスケットブランドの世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。