本稿では、宣伝会議の「校正・校閲力養成講座」で講師を務める岡崎氏が、広告や販促の表示ミスが起こってしまう真相を基に対策をお伝えします。
間違いの起こるリスクが高い広告制作
「ミスプリ」という言葉があります。かつてはよく耳にしましたが、最近はあまり聞かなくなった気がします。ミス・プリントの略で、印刷物の間違い(誤植など)のことです。この言葉には少し軽いニュアンスがあって、「あ!ミスプリだからごめんね」と謝ってやり過ごせる雰囲気が伴います。しかし、だんだん時代がデリケートになって、ごめんねでは済まされない雰囲気になっており、この言葉が使われなくなったのでは?と思います。
元々出版業界を出自とする「校正」は、手書き原稿をもとに活字を拾っていた時代に、原稿とゲラを照合して活字の間違いを正す仕事でした。今は原稿がほぼデータなので、この「校正」という仕事の重要度は減少しています。実際に活字を拾い間違えるという意味での誤植は減っています。完全原稿を機械的にデータで流し込みできる仕組みであれば、「校正」は不要だといっていいでしょう。
では、印刷物に間違いはなくなったか?というと、そうではありません。とくに広告の制作では、完全な原稿データを用意することが困難であること、また制作途中での訂正が頻繁であることなどにより、間違いの起こるリスクが高い傾向にあります。
そして広告の制作においてさらに重要な点は、間違える可能性が高いだけでなく、間違いの影響が多大であることです。商品プライスや電話番号、申込番号など、誤りがあると実害(損害)が発生する情報が、広告にはたくさん含まれています。商品の属性や機能についても、実際と異なる情報が記載されてしまうと大きなトラブルになりえます。たとえば、家具のサイズ表記に誤りがあり、きちんと計測して購入したのに収まるべき場所に収まらなかったとか、加工食品表示に誤りがあり、アレルギーが悪化してしまったとか、謝って済むことではないトラブルが起きることもありえます。どんなに魅力的な広告をつくっても、誤りがあっては元も子もありません。
また昨今では、差別表現や不快表現なども重大なリスク要因になりえます。広告というのは、自社および自社商品を広く告知すると同時に、好感度を上げるのが大きな目的です。であるにもかかわらず、お客さまを不愉快にしてしまうような要素があっては、手間と予算をかけて好感度を下げてしまうという皮肉な結果になってしまいます。「ミスプリなので……」という言い訳で済むことではありません。いや、直接クレームをおっしゃる方はごく一部なので、言い訳の機会自体がないのがふつうです。大多数のお客さまは不快だと感じたら、その企業の商品を忌避するだけだと考えるべきです。
「校正」ではミスは防げない!?
では、こういうリスクを避けるため、広告の品質を上げるには、どうしたらいいでしょうか?すぐに思い浮かぶのは「校正」を強化することです。でも、ちょっと待ってください。原稿とゲラを照合するという意味での「校正」は、広告制作においては決定打にはなりません。なぜかというと、先ほどもお伝えしたように広告の制作においては、不完全な原稿をもとに何度も修正を繰り返すようなつくり方が多いからです。不正確な原稿をもとにして、照合としての「校正」にいくら力を入れても間違いは正せません。
また広告の制作方法や工程などは、媒体種類によっても、制作現場によっても、千差万別といっていいくらいバリエーションがあります。間違いを減らす対策となると、つい「穴のあくほどよく見るべき」とか、「チェックの回数を増やすべき」とかという話に陥りがちです。しかし、制作過程を理解することなく、目的のはっきりしないチェックを、やみくもに繰り返しても効果は限定的です。
広告の品質チェックにおいて、いちばん大事なことは何か。それは、どこを、どう見るか、を明瞭に意識するということです。つまり、そのためには制作の過程をよく理解して、どこで、どのような誤りが起きるのかを十分に把握し、それぞれの場面で目的に適ったチェックを実施することです。したがって広告における間違い防止策の要は、いわゆる原稿=ゲラを保証する「校正」にあるのではなく、制作過程のなかで適切なリスク管理ができる品質チェックスキルにあるのです。
品質チェックスキルを試してみよう!
では、ここでひとつ、「練習問題」にチャレンジしてみてください。つぎの広告の中に、誤りや矛盾が3カ所ありますので指摘してください。(制限時間2分)
いかがでしたでしょうか?解答例は下に掲載していますので、答え合わせをしてみてください。もし、すべてに気が付いたとしたら、あなたは広告の品質チェックにとても適性があると思います。でも、もしなにも見つけられなかったとしても、それはさらなる可能性を開くチャンスだと考えてください。
なぜなら広告の品質管理というのは、「校正」のような個人スキルのみに重点があるのではなく、制作過程の全体をブラッシュアップするチーム力が鍵だからです。人間ですから、誰しも間違いはあります。よい品質管理とは、個人技に依存しないでも機能する仕組みを構築することです。
「校正・校閲力養成講座」
今さら聞けない、周囲に聞ける人がいない。校正・校閲のお悩みにご活用ください。
お申し込み・詳細はこちら
岡崎 聡
ダンク 取締役社長
1959年生まれ。フリー編集記者などを経て、1994年よりダンクに所属。広告制作における進行管理や校正などに携わる。広告制作の現場ではいわば素人校正が主流であったなか、独自のノウハウを積み上げてきた。そこで蓄積された知見は、幅広く情報の品質管理に応用が可能と考えて、広告制作の領野を超え出るノウハウを開拓中。