「出版広告の再発明」の実現を目指し、メディアビジネス部門を中心にDXに向けた数々の改革を推進。2020年にはデジタル広告の売上げ比率が6割に達するなど、紙にとどまらない価値を広告主企業にも提供している。講談社のDXはどのように実現したのか、同社ライツ・メディアビジネス局 局次長の鈴木伸育氏に聞いた。
コロナ禍でイベントもDX 1000名超が参加の完全オンラインイベントを開催
講談社は2020年11月4日、完全オンラインイベント『講談社メディアカンファレンス2.0 with Mixalive TOKYO』を「111年目の挑戦 新しいカタチで 届ける、繋げる」をテーマに開催した。
2019年はリアルイベント『講談社メディアカンファレンス』を開催していたが、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、開催を中止。オンライン配信を前提として再構築した。講談社が2020年に池袋にオープンさせた「ミクサライブ東京」を会場とし、ライブと事前収録の複数のプログラムを組み合わせて配信する形をとった。
2019年の「講談社メディアカンファレンス」は出版ビジネスの新たな価値創造と、講談社の多様なコンテンツを最大限利用してもらう目的で、優れた広告企画への「顕彰」、これからの広告を考える「学び」、広告主との「懇親」を3つの柱としたリアルイベントだった。今回はポストコロナのビジネスイベントの在り方を意識し、オンライン配信以外にも様々なトライアルを実施。バーチャル会場開設とエントリーシステムの導入により、ホスピタリティの向上とともに、来場者の行動履歴の把握を可能に。
プログラムとしては2つのトークセッションのライブ配信をメインに、事前収録のビジネス関連動画を豊富に用意。開催後1か月以上の見逃し配信に対応した。また、メディア紹介ブース、公開質問会、チャット機能の活用など新たなユーザーエクスペリエンスを追及した。参加者に感想を求めたところ「9割が次回以降のイベントに参加したいと好意的な結果が得られた」(鈴木氏)という。
版=データと考え、紙とデジタルにこだわらず提案
2020年のオンラインイベントの成功に限らず、ここ数年、講談社はデジタルシフトの成功事例としてメディアに取り上げられることが多くなっている。きっかけは2015年に野間省伸社長が「出版の版はデータである。パブリッシングするのであれば、紙でもデジタルでもなんでもよい」と「出版の再発明」を宣言したことに始まる。
以後、社長自ら先頭に立って改革に取り組んでいる。かつての「読者が選ぶ・講談社広告賞」「講談社デジタル広告大賞」を「講談社メディアカンファレンス」と刷新したのも改革の成果の1つ。「伝統的な広告賞を変更する必要性があった」からだ。
「『出版広告の再発明』とは、今から思えばデジタルシフトだった」と語る鈴木氏。同社が行ってきた具体的な改革は、「女性系メディア・男性系メディアなどコンテンツメディア別の組織への再編」、「各メディアの特性に合わせた紙やWebへの振り分け」「営業と編集の連携」、「営業の仕方」などすべてDXに向けた改革を行っているという。さらに事業領域を広げるため、社内の各メディアのコンテンツ同士、またはIP(知的財産)を中心とした社外との連携も強化した。
そうしたなか、2020年のコロナ禍で営業活動も大幅に変化。これまで目指してきたDX推進への方向が、具体的な営業部員の行動レベルでも実行されつつある。
「この1年は『広告とは何か?』『メディアセールスのスタイルは従来のままでよいのか?』など、ありとあらゆる常識や慣習を疑って再定義する1年だった。仕組みの中でも残すべきものは残すが、新しいものを積極的に取り入れる風土が醸成されたと思う。メディアビジネス部門の一人ひとりが、オンラインをメインにして、そこにどうリアルを連携させるのか、従来とは逆の発想で考えるようになってくれた。皆が企画を出し合って早めの打ち手を考えてくれたのはありがたかった。広告売上を心配する時期もあったが、大きく落ち込むことはなかった」と語る。