出版広告を“再発明”する デジタルの売上げ比率は6割へ 講談社はいかにしてDXを実現したのか?

提案の肝は「企画力」。雑誌社、編集者ならではの「コンテンツ・コミュニティ力」を活用

メディアビジネスの世界には多くのプラットフォーマーが参入している。この動きについて鈴木氏は「我々はクリエイティブ集団。つくる力に強みがあり、読者やクライアントに対する提案の肝は常に『企画力』にある。コンテンツ、リソースをどのように最大限生かしていくか、という勝負をし続けるだけ」と語る。

そして、その企画力が目指すのは「おもしろくてためになる」コンテンツだ。「当社の社是は『おもしろくてためになる』。おもしろいコンテンツで読者とクライアントを喜ばせるのが目的で、ここを徹底していくのが大事。そのためには何をやればいいのか、皆で一生懸命に考えぬくのが重要だ」と述べる。その際、デバイスは紙でも、デジタルでも、イベントでも、ミクサライブのような場所でもかまわないと考えているという。

さらに講談社では雑誌社、編集者ならではの「コンテンツ・コミュニティ力」を活用した新しい事業も開発してきた。「プラットフォーマーメディアと我々のようなコンテンツメディアの違いは何かといえば、それは『コミュニティ』の存在にある。単なるユーザーではなく、コミュニティを形成するためには、メディアブランドの信頼性とコンテンツのクオリティーが必要。

その点において、我々は優位にあると認識している。コンテンツメディアである我々としては、それが生み出す読者のコミュニティを活用して、読者に対してはいかなるサービスを提供するか、広告主に対してはそれを基盤とした広告商品開発がどうあるべきかを考えている」と述べる。

雑誌ブランドが擁する「コミュニティ」は、単なる広告のターゲットとしてしか機能しないわけではない。例えば、講談社の『FRaU』は、2018年から女性誌として日本で初めて1冊まるごとSDGs特集号を刊行。

昨年末までに4号出しているが、この特集では広告主ではなく、SDGs推進に共鳴する企業や団体をパートナーとして規定し、多くの参画を募った。いわば、B2Bのコミュニティだ。

Frauの2021年2月号は、SDGs特集。これがSDGs特集で4号目となる。

「『FRaU』SDGs号の発行部数は3~4万。テレビなどと比べれば、その規模は決して大きくはない。だが自社SDGs活動に関するホワイトペーパーをその数の人が読んでいる、という文脈に置き換えたとき、そこには別の価値が出てくる。

よくスモールマス、セグメントマスと表現されるが、もっとポジティブな言い方をすると1000人でもそこにあるコミュニティに明確な価値があれば、広告を出稿する価値はある。文脈を置き換え、数値的な概念と見せ方を変えることでビジネスは大きく転換するという証明だ」と鈴木氏は語る。

出版社だからこそのコミュニティを活用 追いかける広告から追いかけてもらえる広告へ

博報堂DYMPのメディア環境研究所が発表した「メディア定点調査2020」によれば、1週間の総メディア接触時間は411.7分。さらに、その時間のうち、デジタルメディアの割合が過半数を占めている。

「限られたメディア接触時間のなかで、人は1日に約4000の広告に接触するといわれている。この環境では、ターゲティングで追いかけて当てにいくような広告ではなく、消費者に“追いかけてもらえる”ような広告をつくっていく必要がある。講談社としても、読者に“追いかけてもらえる”広告とはどのようなものなのかを考えぬき、『企画力』を生かし、そこにこだわっていきたい」(鈴木氏)。

2021年、講談社は昨年のメディアカンファレンスでテーマにした「届ける、繋げる」を引き続きメインテーマに活動をしていくという。同時に運用広告が伸びているので、企画力を磨いていきたいという。またオンラインをベースに強みであるリアル(紙、イベント)を連動させる、OMOの実現を目指すほか、ミクサライブ、漫画など講談社が持つコンテンツ、リソースを使い企画を考え、読者やクライアントに提案をしていくつもりだ。

さらにビジネス環境の整備にも取り組むことを計画。具体的には共通情報インフラの強化とメディアビジネスにおける中期的課題である①アカウンタビリティへの対応②コンプライアンスの遂行③アドベリフィケーションの強化で、「デジタル広告が主軸になったからこそ、対応を求められている課題に注力していきたい」考えだという。

講談社 ライツ・メディアビジネス局 局次長
鈴木 伸育氏

講談社にて雑誌販売局長、社長室付(局長待遇)、講談社ビーシー常務取締役を経て、2012年6月ライツ事業局次長(局長待遇) 兼 広報室次長 兼 ライツ管理部長に就任。2019年7月より現職。

 

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