『WBS』大江キャスターのマスク着用で世の中の見本に テレ東のブランドも向上

出演者のマスク議論は何度かある

筆者は放送作家である。実は、放送のスタジオでマスクをすべき?すべきではないという議論は何度か起こっている。でもアクリル板があるから大丈夫だろう、芸能人はどうなのか?視聴者が怒らないか?など様々な意見の中で先送りになってきた。

ちなみにラジオ局はすでにマスクをしながらの放送をしているケースは結構ある。だが、ビジュアルを重視するテレビの現場ではなかなかマスクをする方向でアクセルを踏むことができなかったのが現状だ。

もちろん、ロケ番組などではマスクをしているシーンは結構ある。でも、報道番組でやるのは非常に難しい。『WBS』の場合は、芸能人ではない社員アナウンサーや記者が中心となっている番組なのでやりやすかったというもあるだろう。

伝えるのが仕事。外観は二の次

報道番組では、災害中継などでは必要となればヘルメットを被ったり合羽を着用したりしている。ぶっちゃけて言えば、中継の間じゅうヘルメットを被らなければならないほど、リスクはそんなに高くはない。だが、危険であるということを伝える方向から考えるとヘルメットは必須である。

今回のマスクもそのような作用がある。筆者もこの放送を見たときに心が引き締まった。「出来る限りマスクをすべきである」と心の中のスイッチが入った気がする。そんな風に思った視聴者は実は結構いるのではないだろうか。

もちろん「ポーズだろう」「オーバーだ」と感じた視聴者もいただろう。だが、マスクを着けようと思った視聴者が1人でもいた時点で、この施策には意味があると思う。本当にちょっとした緩みで感染する病気である。だから注意をしすぎることはない。

筆者の知人で、繁華街のキャバクラで酒を飲んで感染した人がいた。「気の毒」と思う一方で「この時期に行くか?」とちょっとだけ彼の行動を心のなかで軽蔑した。そう、出来る限りマスクを“着ける”のが必要なことだからだ。

今回、テレビ東京が間違えなかったのは、フェイスガードを着用しなかったこと。マスクをしてフェイスガードをするなら意味があるし、その効果も認められている。だが、フェイスガードのみでは、効果は限定的だと言われている。

出演者が着用しているのは不織布の白色のマスク。これはいい選択だったと思う。おしゃれをしない、つまり“緊急性がある”ということを伝えているからだ。そういえば小池百合子都知事も、最近はおしゃれマスクを控えているような気がする。

テレビ画面で見ると、シンプルで白色の不織布のマスクが目立つ。医学的にも、飛沫拡散防止に最も有効なのは不織布のマスクである。今は新規感染者が1000人を超えるような緊急事態なので、この選択は正しかったと思う。

早速マスクを売り込んでくる企業も

この大江キャスターのマスク姿を見て、筆者にマスクの売り込みをしてきた企業もあった。「テレビ東京さんに売り込めないか?」「弊社のマスクを使ってもらえないか?」「テレビ東京のロゴを入れたらどうだろうか?」などと。

だが、そんなことはないだろうと思う。そのPRの視点や行動力は悪くはないが、今回はファッションではないから無理だろう。

テレビ東京のPR効果は抜群

マスクの価格はたかが知れている。それを着けることで『WBS』が話題になった。ヤフトピにも掲載され、多くの人に伝わった。

実行力がPRの基本。マスクを着用するというプランは誰にでも思いつくものだろう。だが、それを実行するのには勇気がいる。今回の取り組みは確実にテレビ東京の株を上げた。筆者も素晴らしい施策だったと思う。

とはいえ一番のPRは、視聴者にも“マスクをつけよう”というスイッチを入れさせたことだろう。

バラエティ番組のマスク着用は当面ないだろう

『WBS』は報道番組だが、このムーブメントがバラエティ番組にも広がるだろうか?というと、正直難しいだろう。

歌手がマスクをして歌うこともないし、芸人がマスクをして漫才をすることもない。観客席のマスク着用は当然となったが、出演する芸能人たちはそんなことはしない(もちろん、街を歩くロケ番組などでは、マスク着用もしばしば目にするようになった)。

またドラマの世界でも今の所そんな流れはない。そう、今後、人々が永久にマスクをし続けるわけではないということから、再放送で永遠に作品が残る映画やドラマはマスクをしないのだろう。

とはいえ、子ども番組などは出演者がマスクをすることで、子どもたちにマスクをする必要性と大切さを伝えることができるかもしれない。

今後は『WBS』を見習ってマスクを着ける番組も出てくるだろう。ただ、残念なのはテレビ東京の局内でも『WBS』に限定的になっていることだ。朝の報道番組『Newsモーニングサテライト』などは相変わらずマスクなしだ。2割出社のときのように、マスク着用の取り組みも局全体に広がってゆくことを望む。そして他局にも広がってゆけばいいだろう。

テレビというメディアは相変わらずすごい力を持っていると思う。それこそ『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』などの家族で見るアニメ番組のキャラクターまでもがマスクを着け始めたら、さらにマスク着用率やマスクの重要性は上がるだろう。

日本は、何が何でも今回の非常事態宣言で感染者数を激減させる必要がある。そのために企業広報もできることはすべてすべきだろうと思う。

「感染防止しましょう」と公言することは誰でも出来る。でも実行するのは1人ひとりである。その見本として、今回の『WBS』の判断は意味があると思う。筆者としては大きく評価したいが、番組側は評価されたいとは思っていないだろう。「当然のことをしたまで」と胸を張ってほしい。

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野呂 エイシロウ(放送作家・戦略的PRコンサルタント)
野呂 エイシロウ(放送作家・戦略的PRコンサルタント)

学生時代からマーケティングに従事。
テレビ番組の構成をしつつ、CM制作やPR活動にもかかわるようになり、
外資系・大手企業を中心に50社以上をコンサルティングを行う。
マスコミ側からの視点で斬新なアイデアを提案し、
数多くの業界世界No.1企業のコンサルティングで結果を残す。

Twitter、フェイスブックなどのSNSを通じて、
コンサルタントや講演依頼されることも特徴の一つ。

著書に『終わらす技術』(フォレスト出版)
『テレビに出て売り上げ100倍にする私の方法』(講談社)、
『プレスリリースはラブレター』(万来社)がある。

野呂エイシロウOfficial Site: http://www.noroeishiro.com/

野呂エイシロウfacebookページ: http://www.facebook.com/eishiro.noro

戦略的広報・PR研究所: http://www.facebook.com/PRnoro

野呂エイシロウTwitter: @noronoro093

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