8名のマーケターが語る、コミュニケーション戦略の歴史と進化〜「手書きの戦略論 特別講座」講師座談会

ベストセラー書籍『手書きの戦略論 「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』(磯部光毅著)が、敏腕マーケターらによる「手書きの戦略論 特別講座」となって新たに登場。その開講記念として、講師を務めた現役マーケター・プランナーらによる座談会が実現した。マーケティングの第一線で活躍する8名の議論から浮かび上がる、これからのコミュニケーション戦略の姿とは。
 

「手書きの戦略論 特別講座」について

2016年の発売以来、広告主、広告会社双方から好評を博す書籍『手書きの戦略論』を、2020年代に内容をアップデートしてお届けする特別講座。より多くの方に戦略論の正しい使い方を広めるべく、著者である故・磯部光毅氏と交流のあった9名のマーケター、プランナー、クリエイティブディレクターが集結し、書籍の構成に合わせた講義を実施します。(在宅・オフィスで受けられるオンデマンド方式。詳細はこちら

上段左から、平塚元明さん、軽部拓さん(博報堂)、柴田要さん(マーケマン)/中段左から、木村健太郎さん(博報堂)、宮腰卓志さん(博報堂DYメディアパートナーズ)/下段左から、菅恭一さん(ベストインクラスプロテデューサーズ)、須田和博さん(博報堂)、佐藤達郎さん(コミュニケーション・ラボ)。

プロのマーケターが持つ“暗黙の前提”が言語化されている

平塚:この講座、僕は「はじめに」と「おわりに」を案内人のような形で担当させてもらいました。皆さんの講義も見て改めて驚いたのは、僕たちプロが暗黙に前提にしている知識は、こんなにも多かったのか!ということ。今の若い人はこれだけの前提知識を頭に入れて仕事をしないといけないから大変です。そんな中、『手書きの戦略論』はコンパクトに見通しを与えてくれる、ありそうでなかった本です。この講座も、マーケティングコミュニケーションの全体像を知る上で、いい取っ掛かりになると思います。

「手書きの戦略論」より。戦略論を7つに整理し、それぞれの歴史的変遷やプランニングの方法を解説する。

軽部:僕は「ポジショニング論」を担当しました。この講座は、全体として相当濃い中身になりましたね。1冊の本からこれだけの内容を抽出できるのがすごい。『手書きの戦略論』は、全ての章が“広告の歴史”を踏んでいるのがいいと思っていて、ポジショニングの講義では、そこに自分なりの考えを加えて話させてもらいました。

宮腰:僕は今回「ダイレクト論」の講師の依頼をもらって、初めて『手書きの戦略論』を読みました。批判がましい人間なので粗探しをするつもりで読んだけど、「何これ、まとまってるじゃん!」と(笑)。講義は本の内容をトレースしながらも「2020年代にアップデート」しようと取り組みました。

僕自身はデータサイエンティストの現場の仕事をしつつ、後輩の育成も仕事の大きな割合を占めています。最近はWebマーケからこの世界に入ってくる子が多くて、広告の仕事とはコンバージョンを上げることだと思っているんですね。そこに大きな違和感を覚えていて。

だって、広告って数字の世界だけでなく、世の中にイノベーションを起こすことができる仕事じゃないですか?僕ら、少なからずそういう“中二病”的な思いを持ってこの世界に入ってきませんでした?そういう“広告の矜持”というか、手段よりももっと大きな意味の世界を後輩に伝えたいと思っているので、これはいい教材になると感じました。

柴田:僕は雑誌『宣伝会議』の連載時から『手書きの戦略論』の愛読者でした。だからこの企画に声がけしてもらってうれしくて。担当した「ブランド論」は、学問的にも分厚い領域で、がっちり取り組もうとするとなかなか大変です。でも『手書きの戦略論』には、そのエッセンスが何と38ページでまとまっているんですよ!今回、本を読み返してそこが素晴らしいと感じたので、講座は磯部さんの書いたことを忠実に伝えた上で、最近の視点として「パーパス」の話を加えさせてもらいました。

佐藤:僕は普段大学で広告を教えていますが、ブランド論を38ページにまとめるのは研究者や学者にはできない仕事です。実務家で勉強家の磯部さんだからこそできたんだと思います。僕は「クチコミ論」を担当しましたが、皆さんの講座を見ると、知っているつもりの内容でも再発見があり、改めて勉強になります。

柴田:現場のブランド論が入っているのがいいんですよね。アカデミックなブランド論を現場から論じる「ブランド論“論”」のような構造になっているのが面白い。

菅:僕は「IMC論」を担当しました。自分自身は朝日広告社出身で、10年間デジタルマーケに取り組んで独立した人間です。手段を磨く側の仕事をずっとやってきて、あるときに「これは縮小最適に向かっているのではないか?」「デジタルマーケはそもそもどんな問題を解決しているのだろう?」と考えるようになりました。

実は『手書きの戦略論』には、その答えが全部書いてあるんです。マーケティングの古典はちょっと遠く感じてしまうものですが、デジタルの手段からキャリアをスタートしている人間にとっては、ルーツからたどって本質との繋がりや自分の仕事の意味を理解するのにうってつけのコンテンツだと思います。

木村:この講座は、磯部さんと何らかの時間を過ごした人が『手書きの戦略論』という1冊の本をそれぞれの視点から語っていて、僕は「聖書」みたいだなと思いました。だから、ルカとかヨハネとか、ここにいる人たちはみんな使徒なんですよ(笑)。

戦略は日々進化しているから、今回の講座でそれがアップデートされて、著者である磯部さんと講師の2人の目で再編集されているのがいいと思いました。トリビュートアルバムのようでもあり、ユニークな企画ですね。

僕の担当は「アカウントプランニング論」ですが、磯部さんと僕は、この領域が一番エキサイティングだった時代に、海外からアカウントプランニングを輸入した先輩にレクチャーを受け、議論を重ねたんです。アメリカに視察に行ったり、ブリーフの書き方を一緒に研究したりして、濃い時間を過ごしました。今回の講座では、その内容をぎゅっと1時間にまとめました。

今こうしてコロナ禍になって、オンデマンドの講義に宣伝会議が踏み切って、こういう講座が生まれたのも感慨深いですね。オンデマンド講座は新しいナレッジの伝承の形だと思っています。本じゃない、対面の形だから伝わることってたくさんあると思います。

次ページ 「「戦術」がやがて「戦略」に昇華する。戦略論の歴史はその繰り返し。」へ続く

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