「戦術」がやがて「戦略」に昇華する。戦略論の歴史はその繰り返し。
須田:僕は「エンゲージメント論」を担当しました。「2020年代に本の内容をアップデートする」というお題で取り組んで感じたのは、エンゲージメントの考え方が当初キャンペーン単位で出て来たのが、のちにブランド単位で展開されるというように、同じ考え方が時系列の中で繰り返し登場し、進化していく…という構造があるということです。
宮腰:ダイレクト論は、出て来た当初は「戦略」ではなく「戦術」でしたよね。ダイレクトやデジタルの領域はいかにコンバージョンを獲得するか、エンゲージメントは「いいね!を獲得しよう」という戦術の話ばかりでした。
その後、成功事例が出てきたときに、それがもう一段昇華されて、「戦略」として概念化され、とらえ直されてきた経緯があります。成功した「戦術」を採用すればいいと思われがちですが、それを上位のレイヤーである戦略の視点で捉え直すことでさらに進化してきたのだと思います。
柴田:歴史を知るって“そもそも”を知ることだから、今やっていることがわかるようになるし、その延長線上に「次に何が起こるか」に考えが広がっていく。
僕はこれまでずっとマス広告の世界で生きてきたんですが、3年前、50歳を過ぎて初めて通販のクライアントの仕事を始めました。知識も手法も新しいことだらけで大変ですが、自分にとっては日々新鮮です。
だから今回も、宮腰さんのダイレクト論の講義を真っ先に見たんです。そうしたら、めちゃめちゃ内容が頭に入ってきて驚いたんですよ!「気持ちを行動で計測する」「ネット広告の進化は行動の細分化の歴史」とか、今ある手口の大元の考え方がよくわかりました。
その通販のクライアントは、実際に先日からデプスインタビュー、つまり定性調査をはじめたんです。それって行動の計測に限界を感じて、お客さんの気持ちを知りたくなったということですよね。そのように「今の業務が何を意味しているのか」がとてもよくわかるようになるんです。
軽部:“そもそも”に立ち返って、定性に戻るというのは本当にその通りだと思います。意味の世界を伝えていくことって、行き着くところは、人の心や心理にどう迫れるかということでしょう。
この講座で扱っているのは真面目なマーケティングの話なんだけど、その意味では恋愛論みたいな側面もありますよね。恋愛では手書きのラブレターが一番相手の心を揺さぶるはずで、「『手書き』の戦略論」である理由もそういうことか?と勝手に思ったりしていました。