キッチンの存在意義を別の側面から捉えた パナソニックのWeb動画「ROOMLESS PAPA」

パナソニックの「Idobata Style」。コロナで在宅時間が増える中、より家族と向き合えるよう工夫が施されたシステムキッチンだ。本稿で紹介するのは、このキッチンのPRのために制作されたWeb動画『ROOMLESS PAPA』。特徴は、キッチンの機能性を訴求するよりも、切り口を変え、「自宅で行き場のない父親」に焦点を当てている点だ。本施策の背景を担当者に聞いた。

「Idobata Style(イドバタ スタイル)」には、2つの作業スペースを適度な距離を保ちつつ設けるなど、夫婦や親子が一緒に料理を楽しめる工夫が施されている。そして、このキッチンの魅力を在宅時間の世相から描いたWeb動画、それが『ROOMLESS PAPA(ルームレスパパ)』だ。

(上)イドバタ スタイル。夫婦や親子が一緒に料理や洗い物ができるよう、適度な距離が保たれた2つの作業スペースなどが設けられている。
(下)『ROOMLESS PAPA』動画紹介用につくられたクリエイティブ。映画告知ポスター風に仕上げ、Web上で公開。広告色をおさえることで尖ったワードへのネガティブな反応の回避を狙った。

動画の内容はこうだ。在宅勤務が一般化する中、在宅時間が増え、自宅での居場所を失った主人公(そんな彼や全国の父親を「ルームレスパパ」と呼ぶ)。心象風景の森をさまよっていると、同じ境遇の男性と出会う。2人はなぜ自分の居場所がなくなったのか、その原因を語り合う。男性は「昼飯は、カンタンなモノでいいよ」と妻に言ったという。主人公は、家族みんなにおいしいものを食べてほしい、との思いから高級肉を購入。それが妻を怒らせた。「自分なりの気遣いだったのに」「家事なんて分からないのに」と憤る2人。しかし、「(家事が)分からないからルームレスパパになったんだ」と最後には気付く、というストーリーだ。

生活様式や家族間コミュニケーションが大きく変化する昨今、イドバタスタイルを通じて、「自然に向き合える」家庭を築いてほしい、というメッセージが今回の動画には込められている。

動画のワンシーン。森の中で男性2人が、自身の境遇を語り合う中で、互いの無知に気付く。コロナで生活様式が変化する中、同じ境遇の人たちが実際に存在する、との仮説に立ち制作された。

世相を体現するワードを開発

パナソニック ライフソリューションズ社 コミュニケーション部 クリエイティブ課の眞鍋優子氏は、本PR施策の背景をこう語る。「イドバタスタイルの特長である奥行・距離感の丁度良さを、コロナ下という世相とマッチさせて訴求できないか、そう考えました」。その結果、事業部側の意向もあり、コンセプトには“共感性”を据えた。

次にどのような経緯で、「ルームレスパパ」というワード、アイデアに行きついたのか。動画制作に関わった大広WEDO畠山侑子氏は、「例えば、動画にもあるように、高い食材を使っておいしいものをつくろう、と夫が言う一方で、家計をやりくりする側の妻は、お得な食材でおいしくつくった方が良いと言う。こうした家族内のすれ違いが、コロナ下でいかに増えたのかを知り、じゃあ今回の動画は“すれ違いが生まれやすい”という世相や、それによって生まれた『人』を体現したワードを開発した方が共感を得られる、そう考えました」。

“世相を体現するワード”。それを思い付くため、畠山氏は過去のメモをひっくり返した。すると、自宅で背中を丸めて小さくなっている父親の背中の絵がそこには描かれてあった。この原案がきっかけで、居場所のない父親を「ルームレスパパ」と呼び応援するアイデアが生まれたのだという。

このアイデアが上がってきた際の眞鍋氏の感想は。「私自身は初めから、これは共感を呼ぶな、と感じていましたが、周囲からは商品露出が圧倒的に少ない、これで理解されるのか、共感されるのか、との声も挙がっていました」。

また、「ホームレス」を想起させる点からも、難色を示されたこともあったという。しかし、話題にならないと共感も生まれない。そう考え、賛同する社員と共に思いを伝えた結果、企画が通った。「その後、パナソニック社内で動画を鑑賞した際には、良い反応をいただけて、安心しました」(眞鍋氏)。また、実際のSNS上などでの反響も、その多くが「(高い食材にこだわらず料理は)何でも良いって気遣い?」「簡単で良いならつくってよ」など、議論にはなるものの、炎上につながるようなコメントはほとんどなかったという。

企画書の一部。当初の企画名は「居場所のないパパをキッチンで救え!~Save the Roomless Dad~」。「悲哀」と「ユーモラス」、「共感」と「皮肉」など、企画書にもポジティブ・ネガティブのワードがバランスよく使われている。

議論・共感・タイミング

今回のPR施策のような、リスクを回避しつつ、共感を呼ぶ企画を立てるには。大広WEDO吉岡由祐氏は、「人も商品・サービスもポジティブとネガティブの両面があります。今回の事例に当てはめると、イドバタスタイルは、『家族で向き合える』というのがポジティブな面。一方で、その背景には家族の輪に入れない存在がいる、これがネガティブな面です。その後者の面を切り口にした方が、実はリアリティが生まれ、共感や議論につながるのです」。

一方、尖りすぎては炎上を招く可能性も。これに対しては、タイミングが重要だと吉岡氏は語る。「ルームレスパパの公開日は11月22日。つまり、いい夫婦の日、です」。このタイミングに公開することで、家族と向き合おう、という発信側の意図を視聴者に誤解なく受け取ってもらえる、こうした狙いがあったのだ。「刺さるPRのコツは、議論、共感、タイミング。この3点を意識して、企画づくりを進めています」(吉岡氏)。

 

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【特集2】
共感を集める
「言葉」の開発

CASE1 パナソニック「ROOMLESS PAPA」
CASE2 マテル・インターナショナル「#おもちゃに性別いるのかな」
CASE3 京都きもの友禅「あなたのハタチに、 『また来年ね』なんてないから。」
GUIDE メディアに聞いた!2021年注目キーワード
毎日新聞/東洋経済オンライン
新R25/週刊ダイヤモンド
など

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