マーケティングの古典のエッセンスが数十ページで—『手書きの戦略論』によせて(柴田要)

『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、マーケティングディレクターの柴田要さんが『手書きの戦略論』を紹介します。

ブランド論を学びたい人は、「手書き」の38ページを、まず読んでみよう

ブランド論の名著3冊分の内容が38ページで学べる。『手書きの戦略論』のおすすめは、まずここです。ブランド論には有名な本が何冊かあって、特に本の中でも紹介されているデビッド・アーカーの『ブランド・エクイティ戦略』『ブランド優位の戦略』、バーンド・シュミットの『経験価値マーケティング』この3冊はブランド論の必読書かもしれません。ただ、読むのはけっこう骨が折れます。濃い。ぶ厚い。3冊合わせて1200ページあります。

一方『手書きの戦略論』。ブランド論のパートは、この3冊それぞれの論点を取り上げつつ、ぜんぶで38ページ。活字大きめ。1ページの文字数少なめ。ですます調の読みやすさも。これほど短く凝縮されたブランド論の教科書を、私は他に知りません。ブランド論を学びたい方は、「手書き」の38ページを、まず読んでみる。そこから始めるのが、効率のよい勉強法ではないでしょうか。

『手書きの戦略論』より。ブランド論はじめ各戦略論の歴史と議論の要点をコンパクトに解説する。

ブランド論のパートに限りません。各論、数冊の本になりそうな内容が数十ページにギュッと凝縮されています。読書スピードが遅い私にとっては、「手書き」の読みやすさと凝縮感は本当にありがたい。

入門書のような顔つきで、ベテランに深い気づきを与えてくれる

もうひとつ、私が好きなこの本のポイントは「歴史書」という側面です。ポジショニングから口コミまで、コミュニケーション戦略を7つに分類して、その概念・手口についてルーツや成り立ちを紐解いています。アカウントプランニングはなぜイギリスで生まれたか。エンゲージメントは雑誌から誕生した。USP。情緒価値。パーチェスファネル。他。ふだん何の気なしに使っている用語も最初は存在しなくて、誰かが何かの意味合いで使い始めたというルーツがあるわけで、その辺のことがたっぷりと書かれています。歴史にはものごとの本質があります。そこをわかってなくても仕事は回るっちゃ回るわけですが、「ちゃんとわかっていたい」という学び欲がある方には断然おすすめです。

この本は内容の網羅性と読みやすさで、コミュニケーション入門書のような顔つきをしています。初心者にも良いとは思いますが、むしろ、それなりに仕事が回せるようになった経験者、さらにはベテランの方こそ気づきが多いのではないか。それは、現在を知っているからです。現在を知っている人の方が歴史は面白いですし、自分が今やっていることについての発見も得られるのではないかと思います。

柴田 要氏
マーケマン マーケティングディレクター

1991年博報堂入社。2013年よりWHITE所属、2018年に現会社を設立。マーケティング、ブランディング、アカウントプランニングを専門領域として、企業のマーケティング戦略立案、広告開発、商品開発、ブランド戦略立案に従事。2020年末に公開された「手書きの戦略論 特別講座」の講師も務めている。

 

<この書籍から生まれた講座のご案内>
7つのコミュニケーション戦略を統合し人を動かす
『手書きの戦略論』特別講座

 
著者である磯部光毅氏は2018年に逝去されましたが、故人の遺志を継ぎ、より多くの方に戦略論の正しい使い方を広めるべく交流のあった9名のマーケター、プランナー、クリエイティブディレクターが集結し、書籍の構成に合わせた講義を実施します。
 
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